新型コロナウイルス感染症の第8波が、依然として猛威をふるっています。中でも注意したいのが、1月に入ってから最多を更新した死亡者数です。死亡者の割合で高いのが高齢者ですが、長引くコロナ禍での間接的な要因による死亡も急増する恐れが強まっています。
第7波の到来で人口動態の死亡者数も急増
昨年末に公表された2022年8月分の人口動態調査の結果に、衝撃を受けた人もいるでしょう。その月の死亡者数は13万4,441人で、前年同月比1万7,619人の増加となりました。注目したいのは、1~8月までの死亡者数の推移です。これを見ると、7月の11万人台から一気に2万人近い増加を見せています。その前年の7月⇒8月の伸びが5,000人台なので、伸びは4倍となっています。
2022年8月といえば、新型コロナウイルス感染症の第7波で、死亡者数の急増が見られ始めた時期です。8月の1か月で新型コロナウイルスに感染した死亡者数は約7,000人。2021年の同月(第5波の時期)では約800人だったので、約8倍の開きがあります。
もちろん、先の人口動態調査での死亡者数の伸びに、コロナ禍による死亡増がどこまで影響しているのかは定かではありません。死因別の増加数を見ると、呼吸器系の疾患も多いのですが(呼吸器系全体で+956人)、圧倒的に多いのが老衰(+2,612人)、(高血圧系を除く)心疾患(+2,187人)となります。
ちなみに、夏場ということで気になる熱中症による死亡ですが、対前年同月(8月)比で+264人となっています。
「老衰」が死因のケースも跳ね上がり傾向に
老衰について取り上げれば、人口の高齢化で年々増えている死因ではあります。たとえば、2018年から2021年での伸び率は、約11%⇒約9%⇒約14%となっています。ところが、今回の2022年8月に限っては、対前年同月比で約21%へと跳ね上がりました。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の普及・浸透により、「回復の見込みがない場合(終末期)」の「本人の意思に沿わない治療」が行われなくなった──という見方も一部ではあるようです。しかし、そこに新型コロナウイルスの感染拡大というファクター(要因)が絡んでいるとすれば、その後の看取りが、本当に本人・家族にとって望まれたものかどうか、改めて検証する必要があるでしょう。
たとえば、コロナ禍の医療ひっ迫によって、ある時点で必要な医療が受けられない状況が生じたとします。それが遠因で亡くなったとして、「本人の意思に沿わない治療だった」と受け取るのか、「その場では本人にとって必要な治療だった」と見るのか──そのあたりの(かかわる専門職も含めて)釈然としないケースが増えることが懸念されます。
コロナ禍でACPの理念は叶えられているか
そうなった場合、コロナ禍の時代においてACPの理念はきちんと叶えられているのかも問われる点でしょう。この点をあいまいにすると、終末期における本人の意思決定をめぐる医療・ケアチームの結束も揺らぎかねません。厚労省でも、「コロナ禍におけるACPのあり方」などについて。専門の検討会などを立ち上げることが望まれます。
また、オミクロン株の感染拡大においては、呼吸器系だけでなく幅広い持病の悪化が死亡につながるケースも増えています。たとえば、介護現場で医師や看護師の指示を受けての療養管理(日常の栄養摂取や服薬に関しての情報共有など)を進める中で、新型コロナウイルス感染によって重症化したり死亡に至るケースが増えるとなれば、現場の無力感がじわじわと高まることになりかねません。
もちろん、そうならないためには、大前提として感染対策の強化が求められるわけですが、多くの介護従事者にとって「自分たちが日々取り組んでいること」への疑念が浮かびやすくなっているのは間違いないでしょう。特に感染対策等で、心身共に日々疲弊しがちな状況では「介護現場で働くことの意欲の源泉」も揺らぎがちになっています。
コロナ禍でのケアのあり方の抜本的な議論を
断続的な感染拡大の波が延々と続き、利用者が「その人らしくあるため」の日常とは何なのかがますます見えにくくなっています。そうした中で懸念されるのは、介護現場が担うべき「看取り」のあり方について、従事者一人ひとりが追及する空気が薄れることです。
そうなった場合、これからさらなる多死社会を迎える時代において、介護サービスの社会的価値を左右しかねません。これから介護業界を目指そうという、若い人たちの意欲にも影響することになるでしょう。
こうした点を考えたとき、コロナ禍における介護のあり方──感染対策だけでなく、重症化リスクが高まる中でいかに利用者の尊厳保持に力を注ぐか。これからの時代の高齢者の死生観をどう受け止めるか。その具体的なケアのあり方など──について、腰を据えて議論する機会を設けていくことが必須となります。今後の処遇改善策も、こうした土台の上で構築されていくべきものでしょう。
冒頭で述べたとおり、第7波に入った時点での死亡者数の急増が顕著になったことで、第8波はそれを上回る状況になる可能性が極めて高くなっています。将来的な介護人材不足が懸念される中、国は介護現場の生産性向上に力を入れていますが、人材不足の時代だからこそ「コロナ禍での介護の社会的価値」を高めるための議論を最優先したいものです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。