現在開催中の通常国会(2023年常会)に、「全世代型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」が出されました。近年慣例化している複数の法律案を束ねて一括改正を図るものですが、この中に介護保険法の改正案も含まれています。改めて法案のポイントを確認します。
現場と特に関係の深い改正ポイントは5つ
ご存じのとおり、2022年の介護保険部会の「制度の見直しに関する意見」を受け、利用者の負担増や給付制限にかかる見直し案の多くが見送りとなりました。一方で、2023年夏までに結論を出すとしたものもあり、(1)1号保険料にかかる標準段階等の見直し、(2)2割負担者の範囲の拡大、(3)老健等の多床室の室料負担を求めること──となっています。
ただし、上記の(1)~(3)についても決定に向けた議論はこれからです。また、たとえばサービス利用者にとって気になる(2)などに関し、「一定以上所得の範囲」は国会制定法ではなく政令で定められます。いずれにしても、今回出された法案では、負担増等にかかる内容は反映されていません。となれば、具体的な改正点は何でしょうか? 現場に関係の深いポイントを取り上げて要約すると、おおむね以下の5つに分けられます。
- 「介護現場の生産性向上」などの促進を図るための都道府県や市町村の責務について
- 複合型サービスについて、現行の看護小規模多機能型以外への適用範囲の拡大
- 介護予防支援について、居宅介護支援事業者も指定対象にできるとしたこと
- 包括的支援事業について、包括は居宅介護支援事業所等に委託できるとしたこと
- サービス事業者に対し、経営情報を都道府県に届け出ることを義務づけたこと(収集した情報は厚労省が分析して国民に提供)
ケアマネにとって気になる予防支援について
現場として気になるのは、上記の改正案が実務にどのような影響を与えるかという点でしょう。今後、国会で法案審議が進む中で、どんな点に注目すべきかを取り上げます。
まず、ケアマネとして気になるのは、3と4でしょう。3については、あくまで市町村の判断によりますが、包括業務の範囲が増えていくことが確実な中、大半の市町村は居宅介護支援事業者を指定対象とする可能性は高いといえます。指定申請を行なうか否かは各事業所・法人の判断ですが、今まで包括からの委託で予防支援にかかわっていた所の多くは申請を行なうのではないでしょうか。
ただし注意したいのは、事業委託のケースと比較した場合、保険者との直接的なかかわりが増えることが想定される点です。
ちなみに、今回の法案条文を見ると、第115条の30の2が新設されました。それは、市町村が予防プランの検証にあたって、プランの実施状況やその他厚労省令で定める内容について指定事業者に情報提供を求めることができるというものです。「省令で定める内容」が気になるところですが、包括からの委託を受けていた時点から実務内容が大きく変わる可能性も頭に入れる必要がありそうです。
経営情報の提供義務化。違反は指定取消しも
あくまで事業所の事務方にかかわる話ですが、5も現場として気にかけたい部分です。この部分の条文をよく読むと、事業者にとって大きな負担感となることが予想されます。
すでに介護保険部会での「見直しに関する意見」で示されている通り、介護サービス事業者は自事業所の経営情報を都道府県に「報告しなければならない」こととなりました。法律上で「しなければならない」という規定は、かなり強い「義務づけ」と言えます。
法律上で義務づけられたことにより、「報告をしなかった場合」の規定は厳しいものがあります。条文を見ると、都道府県から事業者に対して「報告すること」が命じられます。この命令に従わない場合は、期間を定めるなどして「指定の取消しや停止」の処分を行なうことができるとされています。
いわば、介護報酬の「不正請求」があった場合などと同じ強い処分となります。LIFEによる介護情報の収集などとは、レベルが違う話ととらえなければなりません。
現場の負担に応えるだけのメリットが重要
上記の収集された経営情報については、先に述べたように厚労省が分析し、国民にインターネット等を通じて迅速に提供するとしています。現行の介護サービス情報公表制度などを活用することになると思われます。
このしくみが稼働して全体としての分析が進むとなれば、これまでのような層化無作為抽出などによる介護事業経営実態概況・実態調査などと比べ、桁違いに精緻な経営データが示されることになるでしょう。当然、その時々の介護報酬の改定率やサービスごとの改定内容の定め方にも大きな影響を与えます。
保険料が高騰する中で、国民(被保険者)の納得を得るという点では、必要な改革という考え方もあるでしょう。現に、このしくみは内閣府も強く押し出しているものです。
とはいえ、先のケアマネの実務負担と同様に、多くの現場で負担の増大を招くとなれば、現場側にそれに見合ったメリットがあるのかどうかが問われます。たとえば、迅速な分析の結果として経営的な厳しさが露呈した場合、タイムリーに臨時の報酬改定などがなされるのか。さらなる処遇改善策が迅速に打ち出されるのか。国会審議では、そのあたりまでしっかりと議論されることが望まれます。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。