2月27日に開催された介護給付費分科会の介護報酬改定検証・研究委員会で、2021年度改定にかかる2022年度調査の結果(案)が示されました。ケアマネにとって気になる調査結果の1つが、居宅介護支援や訪問系サービスでの「LIFE活用可能性の検証」です。
ケアマネは、栄養・口腔状態の評価が苦手?
ご存じのとおり、2022年度調査でのLIFEを活用したモデル事業では、対象となる居宅介護支援事業でも、(1)LIFEの新規登録を行ない、(2)科学的介護推進体制加算の項目データをLIFE上に入力する作業が行われました。
このモデル事業の過程を見る限り、2024年度の介護報酬改定で、居宅介護支援事業所へのLIFE対応加算(科学的介護推進体制加算など)の適用が論点となるのは確実です。今後の議論の行方を見すえるうえでも、今回のモデル事業の結果が気になるところです。
たとえば、LIFE項目に沿った利用者評価についてですが、「問題なく評価できたかどうか」を項目ごとに調査しています。居宅介護支援事業所のケースでは、ADLや認知機能・行動心理症状(DBD13による評価)、褥瘡、日中の活動、排泄、服薬については、「問題なく評価できた」がいずれも5割を超えています。
一方で、5割を切っているのが、栄養状態や口腔・嚥下機能についてです。科学的介護推進体制加算における栄養状態や口腔・嚥下機能の評価項目は、ごく基本的なものです。前者は、BMI値を算出するための身長と体重。後者は、「硬いものを避け、柔らかいものばかり食べているか」、「入れ歯を使っているか」、「むせやすいか否か」の把握となっています。
「適切なケアマネジメント手法」との関連
上記のように、ごく基本的な評価項目にもかかわらず、「問題なく評価できた」が5割を切るということは、普段のアセスメントやモニタリングにおける意識づけが十分になされていないケースの多さがうかがえます。
ちなみに、訪問介護ではともに「問題なく評価できた」が2割台と、さらに低くなります。一方で、訪問看護になるとともに6割台。この差を見ると、職種間での栄養・口腔関連の情報共有のバラつきも懸念されます。
居宅介護支援においては、「適切なケアマネジメント手法」の「基本ケア」でも「日常的な生活の継続の支援」の一環として「食事の支援」があります。その概要として、「体重の増減やBMI値を使って栄養状態を把握する体制を整える」ことが示されています。
たとえば、利用者宅に体重計などがなく、本人や家族に聞き取りをしても「わからない」というケースもあるでしょう。となれば、少なくともBMI値の把握を念頭に置きつつ、通所介護事業所などに対し、「定期的な測定をお願いする」という対応などが必要になります。
普段からの実務習慣がLIFE活用も左右する
以上の点から、サ担会議などを通じ、(生活の継続の支援という)根拠をもって上記のような「留意点の提示(お願い)」を行なう実務習慣があれば、今回のモデル事業での「評価」も円滑に行えることになります。
また、訪問介護では2018年度の基準改定で、現場のヘルパーの「気づき」をサービス提供責任者が把握し、その情報をケアマネに伝えることが義務づけられました。具体的な「気づき」の内容としては、「体重の増減が推測される見た目の変化がある」、あるいは口腔状態であれば「口臭や口腔内出血がある」などが留意事項で定められています。
そうした情報提供について、ケアマネ側から、やはりサ担会議などを通じてサービス提供責任者に履行をうながすという習慣があるかどうかが、情報取得のタイミングを逃さないポイントと言えるでしょう。
そのうえで、先の「見た目の変化」があるといった場合に、多職種協働を通じて「体重・身長の計測→BMI値の測定」につなげられるかどうか。こうした実務の流れも、普段から意識できているかどうかによって、円滑な実施が左右されることになります。
LIFEの狙いにはケアマネの意識改革も?
こうして見ると、居宅介護支援にもLIFE対応加算を導入する狙いは、「フィードバック票等を活用してモニタリング等の精度を上げる」といった効果だけではないことが分かります。ここに、先の「適切なケアマネジメント手法」が絡むことにより、ケアマネの普段からの実務への「意識」を変えていくことも重要なテーマになると考えていいでしょう。
モデル事業でのヒアリング調査では、評価の課題として「データ入力よりも短い間隔で起こる事象を確認できない」という意見が上がっています。確かに、LIFEからのフィードバックを待つまでもなく、「定期のモニタリングで十分利用者の状態変化は把握できる」といった見方はあるでしょう。このあたりが、「ケアマネにLIFE対応は必要なのか」という疑問につながっているとも言えそうです。
しかし、LIFEが「利用者の状態把握のためのツール」ではなく、「ケアマネ自身の実務の振り返りツール」と位置づけられるとなれば話は変わってきます。特に「適切なケアマネジメント手法」を担保するしくみの1つと位置づけられた場合に、LIFE関連で適用される加算も、科学的介護推進体制加算にとどまらない可能性も出てくるでしょう。
LIFEをめぐって、国はケアマネに何を期待しているのか。それを読み解くうえでは、ケアマネジメント全体のあり方の議論にまで目を配ることも必要になりそうです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。