健康保険証廃止や介護保険証との一体化。 マイナカードをめぐる現場への影響

イメージ画像政府は、マイナンバーカード(以下、マイナカード)と健康保険証の一体化を進め、2024年秋に現行の健康保険証を廃止する方針です。そして、介護保険証についてもマイナカードとの一体化が検討されています。現場の実務にどのような影響がおよぶのでしょうか。

マイナカードの代理申請。ケアマネも想定?

まずは、現行の健康保険証の廃止について。政府は「マイナカードと健康保険証の一体化に関する検討会」の中間とりまとめで、「マイナカードの取得に課題がある方への環境整備」や「市町村によるマイナカードの申請受付・交付体制強化の対応」などを示しています。

前者の「取得に課題がある方」というのは、「やむをえない理由(寝たきりの重度者や重い認知症があるなど)により、交付申請者が庁舎等に出向くことが困難な人」をいいます。そうしたケースでは、診断書や障害者手帳などの資料の提示を求めたうえで、「代理人に対する交付」が認められています。

ただし、診断書などの入手に手間や費用がかかるケースもあることから、代理交付の要件を緩和したり、一定の要件を満たす場合は資料提示を不要とするなどの自治体向け要領の改訂が予定されています。ちなみに、上記の「一定の要件」とは、成年被後見人や75歳以上の高齢者などが想定されています。

さらに、2024年度からは、施設職員や支援団体等に、「申請・代理交付等の支援の協力を要請する」としています。この支援者の範囲には、ケアマネも含む方向で議論が進んでいます。その際に、本来業務に配慮したマニュアルの作成・普及を行ない、支援に対する助成を行なうことも示されています。

市町村職員とケアマネが同行訪問で申請受付

さらに後者の申請受付・交付体制の強化ですが、注目されるのが出張申請です。介護施設のほか、公民館や地域包括支援センターなどに市町村職員が出張し、そこで申請受付等を行なうというもの。さらに、各戸への訪問による出張申請も検討されています。

たとえば、ケアマネが申請の支援者になったとして、そのケアマネと市町村職員が一緒に利用者宅を訪問し、そこで申請受付を行なうことになります。同行訪問するケアマネとの調整なども必要になることから、果たしてどこまで実現できるかは不透明です。

しかし、出張支援体制などが必要な人は、全般的に医療ニーズ等が高いという点で、健康保険証の廃止に向けた影響は計り知れません。その点で、現行の健康保険証を廃止するとなれば、上記のような各戸訪問の体制づくりが不可欠となるのは間違いないでしょう。

ケアマネとしては、「支援に対する助成」があるとしても、限られた業務時間の中でのやりくりが必要になるかもしれません。

介護保険証とマイナカードの一体化について

いずれにしても、多くの支援者を立て、マニュアル作成や助成金等の確保まで必要となれば、さらなる予算措置等が必要です。ケアマネ等の現場業務への影響にも配慮しなければなりません。そこまでして、健康保険証の廃止という手段をとる必要性があるのかどうか。さらに議論となっていきそうです。

そうした中で浮上したのが、介護保険証についても「マイナカードとの一体化」を進めるという議論です。こちらは一体化の運営は2025年度以降で、当面、現行の介護保険証の廃止は想定されていません。

とはいえ、2号被保険者の介護保険申請で要されるのは健康保険証ですから、その廃止との整合性を見すえた場合に、いずれは介護保険証の廃止も視野に入ってくる可能性はあるでしょう。そもそも健康保険証の廃止の時点で、ほぼ全国民へのマイナカード普及が想定されるとすれば、廃止へのハードルは健康保険証ほど高くないのかもしれません。

とはいえ、「マイナカードとの一体化」のメリットについて、利用者およびサービス提供者の実感がどこまで得られるのかは大きな課題です。現段階でも実感が乏しいと、健康保険証の廃止に向けた世論動向にも影響を与える可能性があるからです。

マイナカードをめぐる議論は熟しているのか

ちなみに、2月27日の介護保険部会では、「マイナカードを活用した介護保険証の電子化のイメージ」が示されています。果たして現場にとってピンとくるものでしょうか。

これを見ると、保険者側の介護保険証等の送付・発行にかかる手間は軽減されますが、利用者にとっては「保険証がマイナカードに切り替わった」というレベルにとどまっています。もちろん、将来的にマイナポータルを通じて自身のLIFE情報等を閲覧できるといったビジョンはありますが、現時点でピンと来るものではないかもしれません。

一方、ケアマネにとってですが、介護情報基盤の整備にともなって、利用者のアセスメントに必要な医師意見書等の情報受け取りや、介護サービス事業者へのケアプラン情報の提供といった手間は軽減されるしくみです。

ただし、これはあくまで「介護情報基盤の整備」の話であり、ここに「介護保険証とマイナカードの一体化」がどのように絡んでくるかについては、十分にイメージできません。「介護情報基盤の整備が進めばいいだけでは…」と考える人もいるでしょう。

先に述べたように、新たな各種予算措置を講じてまで進めるべき話なのか。マイナカードをめぐる「国民目線・現場目線」での議論は、まだ熟していないのではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。