アウトカム評価の拡充を図るなら 現場従事者が報われるビジョンを

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2024年度の介護報酬・基準改定に向けては、介護のデジタル化や人員基準の緩和などのテーマをめぐって、内閣府の規制改革推進会議の議論が大きく影響します。今回、介護給付費分科会の議論に、特に影響を与えるテーマが「アウトカム評価の拡充」です。

アウトカム評価の導入に向けた2つの課題

アウトカム評価については、大きく分けて2つの課題を上げることができます。

第1に、現場の実態に即した指標とは何かについて、どこまで科学的な根拠を設定できるのか。この場合の「現場の実態」とは、介護保険の理念である「利用者の尊厳保持」と「自立支援・重度化防止」が、現場の視点(利用者・家族の実感も含む)で「実現できている」という共通の認識があることです。

もちろん、「何となく」では客観的な指標となりえないので、利用者の具体的な行動や状態の変化データを集積しながら、科学的な根拠を確かなものにする必要があります。その際には、身近で利用者の行動・心理に与える従事者側のデータ(メンタル面や働き方など)を加味する視点も必要になりそうです。

第2に、クリームスキミング(事業者がアウトカム改善の見込まれる利用者を意図的に選別したりすること)が生じる恐れです。アウトカム評価の先鞭であるADL評価でも、このクリームスキミングの防止に向けた指標設定が大きなテーマとなっていました。

ただし、指標設定を複雑にする面もあるため、公平性の確保に向けた技術を進歩させないと現場負担が増える恐れもあります。

アウトカム評価と現場風土の関係にも注目

以上が、規制改革推進会議のヒアリングや介護給付費分科会の議論で示されている課題です。ここでは、上記にあえて3つめの課題を加えてみたいと思います。それは、「アウトカム評価の拡充が、介護現場の風土改革につながるのかどうか」という点です。

アウトカム評価は、目に見える結果が報酬上で評価されるものであり、現場従事者にとっては「自分たちの労力が報われている」ことを実感でき、就労意欲も向上する──という見方は確かにあるでしょう。しかし、そのためにはプラスαの条件が必要です。

たとえば、ある指標が改善したという場合、「それがなぜなのか、何が要因となっているのか」が現場で十分に分析されず、また改善要因の共有も進まないとします。そうなると、現場の従事者にとっては、「自分たちが日々取り組んでいること」と「結果」の間の因果関係が見えず、置き去り感が募ります。

これでは、現場の風土改革(意欲をもって働きやすい風土を創ること)にはなかなかつながりません。新規の入職希望者を引き付けたり、現任者に「ここで働き続けたい」と意識づける効果も乏しくなります。

客観的データに現場従事者からの情報追加を

では、上記のプラスαの条件を整えるには、何が必要でしょうか。注目したいのは、規制改革推進会議のヒアリングで、介護過程のデジタル技術開発を手掛けているコニカミノルタ株式会社が提示した資料です。

同社は、デジタルアセスメント技術をもって利用者のADLや健康状態、トイレ回数などデータ収集を行ない、アウトカム評価も自動的に行なえる可能性を示しました。ここで、「データに基づく事実の共通理解」を図ったうえで、「多職種視点の情報追加」という過程が示されています。カギとなるのは、この多職種による事実の共有と情報の追加です。

追加される情報の中には、「利用者の意欲」という例も示されています。たとえば、利用者の状態変化などが客観的データによって示されたとします。介護職員等としては、「その時点から後の利用者の言動」を確認したうえで、「どのようなケアがきっかけになっていたのか」という視点を加えることができます。

アウトカム評価の加算と処遇改善加算の関係

こうした「利用者の言動」や「きっかけとなったケア」についての記録があれば、その記録と客観的データをすり合わせることで、「どんなケース」で「どのようなケア」を行なうことが、利用者の状態改善につながるかという仮説を立てることも可能でしょう。

いくつかの仮説を(その人の生活歴などと照合するなど)検証したうえで、有力視されるケアを実践してみる。その結果、改めて客観的データによる状態改善が認められれば、「自分たちのしてきたこと」がアウトカムにつながっているという確信に近づきます。

もちろん、心理的な要因も含むという点で、因果関係が科学的に実証することは難しいかもしれません。しかし、いずれにしても自分たちの実践によって「アウトカム評価が向上した」という事実は、現場従事者のモチベーションの引き上げにつながるはずです。

仮にアウトカム評価の拡充を図るのであれば、こうした現場風土の改革へと確実に結び付くような仕掛けをセットで打ち出していくことが求められます。その流れでの考え方ですが、たとえば、アウトカム評価による加算は処遇改善加算の上乗せに使うことを規定するというやり方もあるのではないでしょうか。

ともすると、アウトカム評価の拡充は、先のデジタルデータ技術の導入など「設備投資優先」のビジョンが先行しがちです。しかし、実際にアウトカムを引き出すうえで、現場従事者の創意工夫や労力・努力が大きなカギとなるのは間違いありません。それに報いるしくみをしっかり築くことが、アウトカム評価の円滑な導入に不可欠ではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。