依然として著しい物価上昇が続く中、政府は予備費による追加の支援策を打ち出しました。これにより、介護事業などのコスト高の解消が図られるかに注目が集まります。もう1つ、介護現場として注意したいのは、物価高による利用者への影響がどうなっているかです。
総務省の消費者物価指数が示す家計負担増
総務省が公表した2023年2月の消費者物価指数は、2020年を100とした場合に104.0。前年同月(2022年2月)比で3.3%の伸びとなっています。1月のプラス4.3%からはやや下落しましたが、対比する前年の推移を見ると2月から急速な物価上昇が始まっているので、家計への負担は強いままといえます。
中でも上昇の著しいのが、「食料品」です。前年同月比でプラス7.5%なので、「いつも買っていた食料品を買い控える」という行動がさらに強まるレベルと言えるでしょう。
ちなみに、光熱水道費については、国の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」等により、2月請求分から値引きがスタートしています。これにより前年同月比でマイナス0.3%に抑えられています。もっとも、寒波による豪雪があった年末年始がプラス14~15%という猛烈な伸びを記録しているので、家計への影響はその後も続いていると見ていいでしょう。
国は重点交付金による低所得世帯への支援を打ち出しています。ただし、2023年度からの年金額にマクロ経済スライド(物価・賃金上昇分の引き上げ率を調整し抑えるしくみ)が適用されるため、今後の物価上昇によっては、年金が主な収入源となる人の暮らしはさらに厳しさを増すことも考えられます。
まず気になるのは、高齢者の栄養状態
こうした中で気になるのは、利用者の健康の状態です。まず注意すべきは、食料品の高騰による栄養状態の悪化でしょう。
食事の総摂取量への影響もさることながら、たとえばスーパーの特売品等の購入が増える中で、毎日同じものを食べたり、主菜・副菜の摂取品目が減ることが想定されます。これによって栄養バランスが崩れれば、中長期的な健康リスクの悪化にもつながります。
また、食事の回数自体が減ってしまうと、服薬管理にも影響を与えます。主な水分摂取を市販のペットボトル飲料等で補っているというケースの場合、気が付くと、その人にとっての必要な水分摂取量に届いていないというリスクが生じることもあるでしょう。
いずれも、目に見えて大きな変化には映らないかもしれませんが、放置することで持病の悪化や入院リスクの増大にもつながりかねません。一部サービスでは、要介護度が悪化すると報酬も上がる構造になっています。しかし、そもそも入院リスクが高まれば、サービスの稼働率が下がり、かえって介護事業の経営悪化を加速させると考えるべきでしょう。
光熱水道費の負担がもたらす健康悪化リスク
さらに光熱水道費についても、国による追加支援策が不十分だと、冷暖房の使用控え等が生じた場合、これも健康悪化リスクが高まります。冬場では脳血管疾患や心不全、夏場では熱中症や脱水症が懸念されるでしょう。
このあたりは、今後公表される人口動態調査の結果(2022年11月以降のもの)から、疾患別の死亡者数などに着目する必要がありそうです。いずれも寒さが本格化しない前の10月時点ですが、2020~2022年の疾患別死亡数を比べてみると、循環器系疾患での伸びが20倍以上になっています。
もちろん、その時期の気候や死亡リスクの高い高齢者数の伸びなどを考慮することが必要でしょう。それにしても20倍以上という急速な伸びは無視できません。この伸びが2022年からの物価上昇と符合している点にも注意する必要があるでしょう。
こうした栄養や水分の摂取状況、気温面の環境変化などをめぐり、在宅でのリスクの早期発見の一翼を担うのがケアマネです。定期のモニタリング訪問だけでなく、日頃からの多職種との情報共有でも、現状の「物価高」という要素をいかに意識するかが問われます。
物価高がもたらす2024年度改定への影響
ちなみに、今の物価上昇がいつまで続くのかは見通せません。上昇が鈍化しても、食料品や光熱水道費の高止まりが続けば、当面はリスクの増大も続くことになるでしょう。そこで生じてくるのが、入院患者数や死亡者数をめぐる指標が厳しい数字を示すことです。
たとえば、後期高齢者の増大というだけでは、なかなか解析できないデータも今後は出てくることが予想されます。そうなると、2024年度改定に向けた介護・医療連携の議論にも影響を与えることになるでしょう。その結果、利用者をめぐる「多職種間で必ず共有しなければならない情報」が改めてピックアップされ、(入退院時だけでなく)平時からの情報共有の様式が定められるかもしれません。
具体的には、利用者にとっての必要な栄養・水分量と実際の摂取量、居宅内の場所ごとの室温といった、本人の健康リスクにかかわる生活状況の情報です。これらは、「適切なケアマネジメント手法」でも、「基本ケア」や「疾患別ケア」での確認事項となっています。これを情報共有の様式にも反映させていくという動きも出てくることが予想されます。
ケアマネとしては、現状の物価高を意識したアセスメントやモニタリングのあり方について、事業所内や地域の連絡会などで今から勉強・検討する機会を持ちたいものです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。