外国人の技能実習生受入れが変わる? 新たなしくみに介護現場はどう向き合うか

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介護現場の人材不足が深刻な中、外国人人材の雇用状況が活発化しています。独立行政法人・医療福祉機構(WAM)が貸付先法人の特養ホームを対象に行なった調査では、「雇用している」という施設が5割を超え、2020年調査から17ポイント上昇。人材確保の大きな選択肢となる中、今後の課題を探ります。

特養ホームでは技能実習頼みが目立つが…

まず取り上げておきたいのは、一両日で大きく報道された「外国人人材の技能実習制度の廃止と、それに代わる新たなしくみの創設」について。この方向性は、政府の出入国在留管理庁の有識者会議が4月10日示したものです。まだ「たたき台」の段階ではありますが、外国人人材の受入れをめぐって大きな動きとなるのは間違いないでしょう。

一方、医療福祉機構の調査では、特養ホームにおける外国人人材の受入れ形態として、もっとも多いのが「技能実習(42.9%)」です。2020年調査からの伸びが際立つのは、「特定技能1号(40.7%)」ですが、「技能実習」についてもコロナ禍にかかわらず10ポイント以上伸びています。

特定技能1号の場合、入国前から介護技能や日本語能力の習得が行われているといった点で、現場としても受け入れやすいしくみといえます。にもかかわらず、依然として技能実習での受入れがもっとも多いというのは、それだけ現場の人材不足が深刻であることの象徴といえるのかもしれません。

技能実習生へのハラスメントなども深刻

仮に、現行の「技能実習制度」が廃止され、別のしくみに移行するとなれば、介護現場としても人材受け入れのあり方をめぐり、一定の方向転換を迫られる可能性が出てきます。政府のこれからの施策立案に、現場からも注目が集まることになるでしょう。

確かに、現行の「技能実習制度」に関してはさまざまな問題が指摘され、廃止を求める声も強くなっています。ここで、何が問題なのかについて先の有識者会議でのヒアリングからピックアップしてみましょう。

ヒアリング先は、産業別労働組合であるJAM(ものづくり産業労働組合)で、各国の労働組合と連携して、技能実習生等からの相談対応を行なっています。相談内容には、職場でのハラスメント(例.毎日怒鳴られる、日本語がわからず聞き返したら蹴られたなど)や差別的発言、実習計画とは違う単純作業ばかりさせられている─などがあります。

当事者にとっては、上記のようなケースがある中で「他の職場に移りたい」と相談してくるわけですが、技能実習生については「転籍」は原則認められていません。この点が、有識者会議でも課題としてあがっています。

監理団体や登録支援機関のあり方も課題に

もう1つ重要な課題が、管理監督や支援体制のあり方についてです。先のJAMからのヒアリングでは、特に監理団体(海外での技能実習生の募集や受入れに関する調整・監査等を行なう非営利団体)が適切に機能していない実態が示されています。当事者が相談しても、「我慢」を強いられたり「辞めたら失踪者になってしまう」など脅しに近い言い方をされたというケースも紹介されました。

そのうえで、JAMとしては「監理団体や登録支援機関の認定、登録、取消しを厳格に行うべき」と要望しています。また、「送出機関等に支払う手数料は、ブローカーの温床になっている」として、「悪質なブローカーの排除に向けて、相手国との継続的な協議を行なうべき」とも求めています。

先の有識者会議は、こうしたヒアリングを受けて、現行の技能実習制度に代わる、新たなしくみのあり方を示しました。

日本人を含めた現場従事者の「尊厳」の問題

それによれば、「転籍」については、「あり方について引き続き議論する」としつつ、「制度趣旨と外国人の保護の観点から従来より緩和」するとしています。また、「管理監督や支援体制のあり方」については、「監理団体や登録支援機関の要件の厳格化」や「悪質な送出機関の排除等に向けた二国間取り決めなどの取組み強化」をかかげました。

何よりも注目すべきは、「人材育成を通じた国際貢献」という制度の目的について、「人材確保も制度目的に加え、実態の即した制度とする」という点でしょう。今までは「人材育成」という建前と「人材確保」という実態が乖離していて、その狭間でさまざまな問題が生じやすい構造があったといえます。

この乖離が解消されることになれば、「外国人人材確保がさらに進んでいく」という期待は高まるかもしれません。ただし、当事者にとって日本でのキャリアアップの道筋が明確になっていくことが前提です。

安定的・継続的に日本の現場で働き続けるのであれば、介護福祉士の取得によって在留資格「介護」を得ることが大きな目標となります。新たなしくみでは「キャリアパスの構築」もかかげていますが、受入れ現場としても、それを支援する体制づくりをより強化していくことがより不可欠となるでしょう。

その点では、今会議でのヒアリングでも示された著しい人権侵害を生むような風土をいかに取り除くかが問われます。たとえば、「利用者の尊厳保持」に「従事者」を加えることを介護保険法で明記することも必要でしょう。技能実習生が直面してきた厳しさは、日本人も含めた従事者すべての「働きにくさ」につながってきたという認識も持ちたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。