多様なサービスを育てるには、 総合事業の原点に立ち返ることが必要

イメージ画像介護保険部会の意見を施策上で反映させるため、「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」がスタートしました。総合事業をめぐる最新調査(中間集計)なども示される中、今後の展開と課題について、給付現場への影響も見すえながら展望します。

2022年度調査の中間集計から浮かぶもの

総合事業をめぐって、国が特に力を入れているのが、「住民主体の取組みを含む、多様な主体によるサービスを総合的に実施できるようにすること」です。具体的には、訪問型・通所型ともに従前相当以外、つまりサービスA(緩和した基準によるサービス。指定と委託あり)・B(住民主体による支援。補助・助成で成り立つ)の資源の拡充です。

これらA・Bによって、具体的にどのようなサービスが提供されているのか。検討会では、2022年度の調査の中間集計の結果が上がっています。ポイントは以下のとおりです。

まず、A・Bともにもっとも多いのが、訪問型では「生活援助のすべて」、通所型では「レクリエーション・体操」です。一方、住民主体のBに限定すると、Aに比べて目立つのが、訪問型での「生活援助を一部の内容に限定」「老計10号に含まれない生活上の支援(草むしりや網戸・障子の張替など介護給付で認められていない支援)」です。

逆に、Aとの比較で特に低いのが、通所型の「食事」「入浴」「機能訓練」「栄養改善」「送迎」です。訪問型の「身体介護(見守り的援助除く)」も低さが目立っています。

住民主体のBが存在意義を発揮するのは?

こうして見ると、住民主体のB型は、介護給付でも高い専門性が要される内容や「送迎」などの事故リスクが高い分野で、対応できる体制が整いにくい状況が浮かびます。一方でB型が積極的に取り組んでいるのは、介護給付での対応が難しいこともある、インフォーマルな部分と言えるでしょう。

もちろん、生活援助も現状で介護給付の対象であり、一定の専門性は必要です。しかし、問題はその内実です。Aと比べて「生活援助の一部に限定」が抜きん出ているのは、給付サービスに求められる専門性(自立支援に向けた環境設定など)までは要されない部分に集中している可能性があります。

浮かんでくるのは、介護給付に準じるAの役割と、インフォーマル的な要素の強いBで、一定の「住み分け」がなされているという現状です。逆に言えば、介護給付で対応しきれない部分でこそ、Bが存在意義を発揮する可能性があるとも言えます。

Bが担うのは「補完的なインフォーマル資源」

今回の調査から総合事業の自然な未来像を考えると、利用者の状態で給付サービスと区分するのではなく、必要とされる支援の内容(ニーズ)で区分されるという姿です。

もともと総合事業が始まる前は、住民主体の活動は、介護保険で対応できないインフォーマルな部分を担っているケースが多く、その点では「現状で現れている数字」が培われてきた自然の姿であると言えるでしょう。今後、「Bを拡充する」という方向性なら、介護給付サービスを使っている人も含めて、「補完的なインフォーマル支援」という役割を明確にして育てていくことが必要かもしれません。

ただし、注意したいのは、「給付サービスを使っている人(要介護者)」への安易なサービスBの提供が、「専門性の高いサービスの代替えになってしまう(給付サービスが使えなくなる)」という事態が懸念されることです。

ご存じのとおり、2021年4月の省令改正により、総合事業(第1号事業)の対象者の弾力化が図られ、本人の希望を踏まえ、市町村が認めれば、要介護者も総合事業の対象とすることが可能になりました。

これに対し、認知症の人と家族の会などは、「要支援者が要介護になった後も、サービスを総合事業に留めることを可能にする」などとして反対声明を出しています。上記のような「給付サービスが使えなくなる」などへの危機感を表明したものです。

多様なサービスが育っていない背景とは?

こうした懸念を解消するには、少なくとも「補完的なインフォーマル支援」は、ケアマネジメント上できちんと根拠づけることが不可欠でしょう。また、前提として、サービスBが担う範囲とともに、給付や従前相当で提供されるサービスとの「違い」を省令等で明らかにしていくことが求められます。

問題はサービスAです。先の「ニーズによる区分」に沿うならば、「サービスBの内容」に準じるか、もしくは「従前相当や給付のサービス内容」に準じるのかを明確にしたうえで、「廃止」とするのが自然かもしれません。

それは過激すぎるという意見もあるでしょう。しかし、先に述べた「給付サービスの代替え」という扱いを防ぐには、「基準のあり方による区分」ではなく、「サービス内容の明確化」が必要です。むしろ、今まで「多様なサービスが育っていない」のは、ニーズ(利用者視点)にもとづくサービス内容が整理されていないことに要因があったともいえます。

そもそも、「多様な主体による多様なサービス」という論点が、「給付の適正化による制度の持続可能性」といった論点と混在していたのではないでしょうか。それゆえ、サービスを育てる主体である地域住民に「総合事業の目的」が浸透しにくい状態にあったわけです。

まずは、総合事業の原点に立って、何をどう整理するのか──から始めること。これが今検討会の入口といえるかもしれません。

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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。