「アウトカム強化」に向けた提言、 なぜ「居宅介護支援」がクローズアップ?

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2024年度改定の議論が進もうとする中、他省庁からのプレッシャーも強まり始めました。今回の注目は、財務省の財政制度等審議会(財政制度分科会)での介護分野にかかる提言です。ここでは、「アウトカム指標の強化」に着目します。介護給付費分科会等の議論にどのような影響を与えるでしょうか。

財政制度分科会の提言内容を整理すると…

今回の財政制度分科会の「アウトカム指標」にかかる提言内容は、少し整理する必要があります。触れられているのは2つ。1つは、保険者に支払われる「インセンティブ交付金(保険者機能強化推進交付金および介護保険保険者努力支援交付金)」におけるアウトカム指標の割合について。もう1つは、介護報酬をめぐってのアウトカムについてです。

前者については、昨年11月の同分科会でも重点課題として取り上げられています。先のインセンティブ交付金は、地域の高齢者の自立支援・重度化防止に向けた保険者の取組みに応じて交付されるものです。その評価の一部に、「要介護状態の維持・改善の状況等」がアウトカム指標として導入されています。

同分科会では、こうした「アウトカム指標の割合が小さいため、評価指標と要介護認定率の改善等の成果が結びついているとは言い難い」としていました。そのうえで、「アウトカム指標への評価の重点化」を求めています。

今回の提言での「アウトカム指標を重視した枠組み」の1つとして、昨年からの提言の趣旨が継続されていることになります。

アウトカム評価拡大をめぐる政府内の動き

その点を踏まえたうえで、もう1つの指摘──介護報酬に絡んだアウトカムに注目します。分科会が指摘しているポイントは、やはり2つに分けられます。いずれも現状の指摘ですが、(1)介護報酬(基本報酬)は(多くのサービスで)要介護が進むにつれて報酬が高くなっている、(2)自立支援・重度化防止にかかる取組みへの評価が不十分というものです。

(2)については、内閣府の規制改革推進会議(以下、推進会議)のWGでも、今年3月に「科学的介護の推進」と絡めて「アウトカム評価の拡充」として議論が行われています。

ちなみに、政府は6月に「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」を示す予定です。推進会議側の答申で「アウトカム評価の拡充」が明記されれば、反映される可能性は高いでしょう。となれば、厚労省側の介護給付費分科会での主要論点となるのは確実です。

「基本報酬の構造」も論点とした意図とは?

問題は(1)です。これは基本報酬の構造にかかわるという点で、さらに踏み込んだ改革案といえます。しかも、居宅介護支援を例に、具体的な報酬構造まで示している点で、財務省側の力の入れ方がうかがえます。

やや深読みをすれば、(1)で改革ハードルを上げることで、(2)を着実に実行させるという意図があるのかもしれません。つまり、財務省側の狙いとしては、アウトカム評価のさらなる拡大が本筋ということになります。

すでに2018年度改定ではADL維持等加算が誕生し、社会参加支援加算や老健の在宅復帰・在宅療養支援等指標でアウトカムにかかる評価の強化・明確化が図られました。また、2021年度改定では、施設系での排せつ支援加算や褥瘡マネジメント加算でアウトカム評価の区分が設けられています。さらに、LIFE関連加算では、将来的にアウトカム評価に活用できる指標も数多く導入されました。

つまり、すでにアウトカム評価拡大の下地は一定程度整っているわけです。しかし、クリームスキミングなどの課題が常に浮上する中で、今以上の拡大を図ることは、制度設計の面からも決して簡単ではありません。財務省をはじめ政府内の期待値ほどには、改革が進まない可能性もあるといえます。

居宅介護支援への利用者負担導入との関連

そうなると、今回の財務省側の提言には、別の改革意図も含まれていると考える必要もあります。気になるのは、財政制度分科会が(1)に絡んだ具体例として示したのが居宅介護支援だという点です。たとえば、先の(1)の「要介護度が進むにつれて基本報酬がアップする」という構造は、通所・入居・施設系と多岐にわたります。そうした中、なぜ「居宅介護支援」がクローズアップされたのでしょうか。

ここに、単純に一例として示した以上の狙いも読み取れます。何を視野に入れているのかというと、2027年度の制度見直しで、財務省側からの再度の提言が予想される「ケアマネジメントへの利用者負担の導入」です。

分科会が示したデータでは、居宅介護支援の基本報酬において、要支援1・2と要介護3以上で報酬に3.2倍の開きがあります。分科会では、労働投入時間が1.3倍程度なのに対して報酬に差があり過ぎる点を問題にしています。これが是正されないと、ケアマネジメントに一定の利用者負担を発生させるとして、利用者側から「本当に業務負担に見合った費用なのか」という疑問が生じがちです。

財務省側としては、こうした環境を是正しておきたい──という狙いもあるのではないでしょうか。少なくとも、利用者負担導入に向けては、ケアマネの業務負担の実態を精査してうえで、それに見合った報酬の見直しを求める動きは強まるはずです。今回の提言は、その一環と見る必要もありそうです。

いずれにしても、居宅介護支援の基本報酬のあり方は、次期改定でも大きな論点の1つとなるでしょう。議論の行方を見守る際、その後の改革の狙いとどう関連してくるかという視点も持っておきたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。