7月10日の介護給付費分科会で、利用者が特に多い「通所介護(地域密着型等含む、以下同)」の状況が取り上げられました。通所介護では、2021年度改定でさまざまな加算の区分再編等が行われましたが、算定数・率の向上は決して芳しいものではないようです。
入浴介助加算・新区分の算定率は厳しい数字
分科会で特に注目されたのが、入浴介助加算の新区分Ⅱの算定状況です。算定事業所の割合は、通常規模・大規模で11.9%(回数・日数ベースの算定率で4.8%)、地域密着型で7.6%(回数・日数ベースの算定率で4.3%)。いずれも、2022年3月ベースのデータです。
ご存じの通り、この新区分Ⅱについては、(1)利用者の自宅における入浴の実現を目指し、(2)専門職チーム(担当ケアマネ含む)の訪問で利用者宅の浴室環境を把握したうえで、(3)個別の入浴計画を作成して事業所での入浴介助を行なうことを要件としたものです。
この要件に対し、現場からは「家に風呂がない場合はどうするのか」、「利用者の状態像によっては、心身機能を大幅に改善しない限り困難」といった課題が浮上しました。そこで、改定が施行された後の4月26日に厚労省から新たに疑義解釈が示されました。
それによれば、「当面の目標」として「事業所等での入浴の自立を図ることを目的として、同加算を算定することとしても差し支えない」旨を示しています。この場合でも、個別の入浴計画の作成は必要です(通所介護計画に個別の入浴計画についての記載がある場合、これをもって計画の作成に代えることは可能)。
従来区分のままで減算に甘んじる事業所多数
もっとも、この解釈の拡大は、あくまで「当面の目標」に限られます。疑義解釈に示された留意事項では、「入浴設備の導入や心身機能の回復等により、通所介護以外での場面の入浴が想定できるようになっているかどうか、個別の利用者の状況に照らし確認する」としています。あくまで随時のモニタリングを通じ、自宅等での入浴の可能性を視野に入れた計画の見直しが示唆されているわけです。
注意したいのは、この改定で「Ⅱの算定」への誘導策も図られたことです。従来区分Iは単位が1日あたり10単位引き下げられ、Ⅱを算定した場合に1日あたり5単位の引き上げとなります。従来区分のままでは、月あたり延べ利用者数750人(通常規模の上限)として7500単位の減算となるわけです。
ところが、これだけの減算となるのにもかかわらず、新区分の算定事業所は通常規模・大規模型で1割強、地域密着型では1割未満です。単純計算で、9割前後の事業所が「減算」に甘んじていることになります。2021年度改定後に通所介護の収支差率は、特に通常規模・大規模型で大幅に悪化しましたが、こうした減算も要因の1つかもしれません。
構造的に「対応困難」となっているのでは?
もちろん、2022年度以降に事業所の体制整備などが図られ、新区分の算定率が上昇している可能性もあるでしょう。一方で、介護分野の有効求人倍率の上昇や、物価上昇による現場運営への追い打ちなどにより、「体制整備が追いつかない」という事業所も依然として多いことを想定する必要があります。
このように、構造的に対応困難な状況が広がっていることについては、その他の加算の算定状況からもうかがえます。
たとえば、2021年度改定では、通所系をはじめ施設系、居住系、短期入所系の各サービスにおける生活機能向上連携加算がやはり再編されました。内容は、訪問介護と同じく「外部のリハビリ専門職との連携で、ICT等を活用した区分」が設けられたことです。
これは、特に通所介護での算定率が低く、「ICT等による連携の効率化で算定の推進を図る」という狙いがありました。どれほど算定率が低いかといえば、通常規模・大規模型の場合、回数・日数ベースでわずか0.4%。この点が大きな課題となったわけです。
人材確保の根本策がない限り、加算は限界?
しかし、改定後の2022年3月ベースの算定率を見ると、従来相当の区分の算定率はやはり0.4%止まり。効率化によって「算定しやすくなった」はずの新区分に至っては0.0%という状況です。新区分の単位数が従来相当の半分という事情も加味すると、「ICT等による効率化を図っても、割に合わない」という動機があるのは間違いないでしょう。
そもそも、「かかるコスト・手間に比べて単位数が割に合わない」という現場の見解は、2021年度改定の議論でもデータで上がっていました。つまり、効率化を図っても単位が半分になってしまうのでは、「割に合わない」ままとなるのは十分想定されたわけです。
そのうえでの仮説ですが、ハードルの1つとして、連携先との「謝礼金」の調整がつかない、あるいは「そうした調整の経験がない」ゆえに、依頼しにくいというケースもありそうです。実際、先の改定議論で示されたデータでも「現場の見解」として上がっています。
こうして見ると、謝礼金はもちろんですが、外部事業所と交渉できる「渉外役の人材」の不足が大きなネックと言えそうです。まずはきちんと人材を集めるというしくみが整っていなければ、国が狙いとする加算も機能しないことになります。人材確保がままならないという状況を根本から解決できない今、加算で「サービスの質を上げる」という方策自体、曲がり角にきているのかもしれません。
※一部記載に誤植があったため、修正しています。失礼いたしました。
(2023/7/21 ケアマネドットコム運営事務局)
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。