危機に瀕する訪問介護を立て直すには? 「生活援助」がもたらす効果に科学的視点を

ホームヘルパーの著しい人材不足や事業所の地域偏在など、在宅を支える訪問介護が危機に直面しています。開催中の介護給付費分科会でも、訪問介護の報酬上の評価は大きな論点となるでしょう。特に着目したいのは、制度上の位置づけが揺らぐ「生活援助」です。

生活援助と自立支援・重度化防止の関係

2024年度改定に向けた生活援助にかかる議論は、訪問介護にとって大きなターニングポイントとなるのは間違いありません。

周知のとおり、その次の制度見直し(2027年度)では、「要介護1・2の生活援助の総合事業への移行」が再び論点となります。それを見すえたとき、2024年度改定での「生活援助に対する評価」のあり方が議論の流れを大きく左右する可能性は高いといえます。

その点を考えれば、今なすべきことは、「生活援助がどれだけ利用者(特に要介護1・2など)の自立支援・重度化防止に寄与しているのかを分析し、報酬改定に活かすことです。

もちろん、今から改めて実態調査などを進めるとなれば、2024年度改定には間に合わないかもしれません。しかし、生活援助と自立支援・重度化防止の関係、および、重度化防止の効果で介護費・医療費がどこまで節減できるかという視点を定めることで、少なくとも拙速な「給付費削減論」が先行するのを防ぎ、冷静な議論の道筋を開くことができます。

生活援助の効果を示した調査結果もあるが…

生活援助の効果については、日本介護支援専門員協会が、2017年度の老人保健健康増進等事業で「ケアプランへの訪問介護の生活援助を位置づける際の調査研究事業」を取りまとめています。その中では、「自立に資する訪問介護・生活援助の活用の考え方と参考事例によるケアプラン記載例集」も示されました。

当時は、2018年度からの訪問回数の多い生活援助にかかる「ケアプランの保険者提出」が制度上で位置づけられ、「ケアプランに生活援助をどのように位置づけるか」が大きなテーマとなっていました。ケアマネの職能団体として、こうした制度見直しへの対応を打ち出したことになります。

その調査のまとめ内では、「目標設定に応じて、健康状態やADL、IADLのみならず、在宅生活の継続や生活環境の維持・改善といったQOLに関連する効果が相対的に見られている」としています。現場のケアマネにとっても、ケアプランの作成・遂行に際して、実感されている点ではないでしょうか。

認知症のBPSD改善、熱中症リスクの軽減等

ただし、その後に介護保険全体で科学的介護の考え方が強化され、費用の節減に力を入れる財務省などは「費用対効果」の科学的根拠(エビデンス)をいっそう強く求める流れとなっています。そうした中では、生活援助による「健康状態やADL・IADLの維持・改善」といった効果について、より具体的かつ詳細な事象・データが求められています。

これから生活援助のあり方について議論する場合でも、具体的な生活場面の中で、「生活援助を導入したことで、どのようなリスク軽減が図られたか」を、さらに明確にすることが必要です。中でも、先の認知症基本法の成立により、「認知症のBPSD等の改善に寄与する」といった状況が、生活援助の評価を高めるうえでも大きなポイントとなるでしょう。

また、現在の状況でいえば、居宅での熱中症リスクが高まる中、生活援助がますます重要となります。たとえば、訪問時に居室内気温を確認したうえで、「エアコンをつけているか否か、温度設定は適切か」をチェックする。あるいは、冷蔵庫等に水分補給できる飲料を備えたり、熱中症予防に資する栄養改善に向けた調理援助を担うことも不可欠です。

栄養改善については、保険外となる配食サービスの活用という選択肢もありますが、味付けなどが本人の味覚に合わずに「残してしまう」ケースも見られます。そのつど利用者とヘルパーがコミュニケーションを取りつつ、完食しやすい工夫を重ねるという点で、生活援助が果たす役割は大きいでしょう。

生活援助は「給付サービスであるべき」根拠

栄養改善は適切な服薬管理にもつながるという点で、利用者の健康状態を大きく左右します。利用者の動線等をきちんと見極めたうえでの清掃や整理整頓などは、屋内での転倒リスクの軽減にもつながります。

また、洗濯によって寝間着やシーツの交換などが頻繁に行われれば、それだけで睡眠の質が変わることもあります。清掃によってトイレや浴室が気持ちよく使えるようになれば、排せつの自立や清潔保持も進み、その積み重ねが利用者の健康状態を良好にする可能性もあるでしょう。いずれも、遠因でありますが介護・医療費の削減も視野に入ります。

確かに利用者の生活状況は多様であり、これらの効果を一定の指標のもとで数値化することは困難かもしれません。しかし、人の生活も科学であるという視点に立てば、どんな支援がどのような自立支援効果を生み出すかを探ることは不可能ではないはずです。LIFEなども、その前提のもとで設計されているわけですから「土台」は築かれています。

生活援助にも科学的視点を──というと、いぶかしく思う人もいるかもしれません。しかし、科学的視点が確立されれば、「やはり生活援助は専門職による保険給付サービスであるべき」という流れも強化できるはず。いろいろな意見はあるでしょうが、生活援助の評価拡大に向けて、議論したいポイントです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。