介護離職者の状況はなおも深刻。 解決ポイントは「2つの格差」の解消

総務省が、2022(令和4)年の就業構造基本調査の結果を公表しました。介護現場として注目したいのは、家族の介護・看護ために過去1年で離職した者が再び10万人に達したことです。出産・育児のための離職者が大幅減となったのとは対照的な状況が浮かびます。

家族の介護を要する労働者自体が増加傾向に

まず注意したいのは、5年前(2017年)の介護離職者の状況と比較した時、離職後の「有業(転職等を果たした)」の人数が微減に対し、「無業」の人数は8000人ほど伸びていることです。全体の離職者数の増加以上に、「家族の介護・看護のために再就職できない人」が増えていることは憂慮すべきでしょう。

一方、各調査年時点で「家族の介護・看護をしている人」のうち、有業者の割合は3%ほど増え、無業者の割合は減少しています。介護・看護をしながら「仕事を続けている人」は、わずかながら増えていることになります。一見、上記のデータと矛盾するようですが、どのような背景が考えられるでしょうか。

1つは、介護休業制度などの活用が進む中で、介護・看護をしながらの就業継続そのものは、少しずつ実現が図られていることです。ただし、労働力人口の高齢化にともなって、親や配偶者が要介護になるケースのすそ野が拡大し、「やはり離職せざるを得ない」という人も同時に増えていることが想定されます。

特に2022年の調査時点では、コロナ禍で通所・短期入所系サービスの休業なども増えていました。そうした状況が、過去1年の介護離職の動向に影響を与えたと考えられます。

支援体制と地域資源──2つの格差が拡大?

こうした状況を前提とした場合、2つめの仮説が浮かびます。それは、先に述べた「家族の介護・看護を行なう人」のすそ野が拡大する中で、就業先の企業や就業者の地位(正規か非正規か、など)によって、「就業継続が図れるか否か」が二極化している可能性です。

つまり、従業者に対する「仕事と介護・看護の両立支援」が進んでいる企業も増える一方で、いまだ支援体制が整備できていない企業も多く、そうした企業が「家族の介護・看護ニーズの拡大」の波を特に受けているという状況です。また、支援体制が進んでいる企業でも、就業者の地位によって対応に差があるというケースも考えられます。

さらに、もう1つの二極化(格差拡大)として、介護・看護の対象となる家族が住んでいる地域によって、介護サービス資源の整い方に差が生じている背景も無視できません。サービス資源やそれを支える人材が乏しい地域では、介護休業制度などを活用しても、介護サービスが十分に整っていなければ、当然ながら就業継続が行き詰まりやすくなります。

企業の両立支援をめぐる新たな制度も必要に

こうして見ると、仕事と介護の両立に向けた国側のサポートとしては、介護休業等を取得しやすくする支援策の拡充に加え、さまざまな「格差」をどう解消するかという点が大きなポイントとなりそうです。

まず、必要なことは、正規・非正規問わず全従業者に対しての介護休業制度等(各企業が独自で行なう支援策含む)の周知を徹底することです。国は、中小企業を対象に「介護休業等の両立支援の周知事業」を実施していますが、効果は限定されているようです。

たとえば、厚労省の研究会(今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会)で示されたデータによれば、制度周知がなされているのは「50~100人」の企業で45.5%に対し、「1001人以上」では30.9%にとどまります。こうして見ると、意外にも大企業の方が周知は進んでいないことになります。

となれば、一定規模以上の企業に対しては、「介護休業等の両立支援」への周知を法律上で義務化するなどの措置も必要でしょう。また、「両立支援の充実に向けた専門職等への相談・連携」も「特になし」が全体で8割近くを占める中、地域の居宅介護支援事業所への業務委託などを制度化するといったしくみも検討することが求められそうです。

介護離職防止を視野に入れた報酬見直しも

一方のサービス資源の格差解消ですが、地域資源の偏りを是正するための報酬体系のあり方を検討することが欠かせません。

現在開かれている介護給付費分科会でも、地方分権改革の提案で「特別地域加算が算定されない中山間地域での移動時間等の評価」が求められています。ここに、仕事と介護の両立支援という視点も反映させつつ、「介護をしている有業者」の割合に合わせた加算等の誘導策も考える必要がありそうです。

若年労働者が依然として都市部に集中しがちな中、地域経済を中高年層の労働者が支える傾向はますます強まるでしょう。そうした中では、地域経済の活性化ビジョンでも、地域の介護サービス資源のあり方が大きなポイントとなっていくのは間違いありません。

経済界全体としては、現役世代の介護保険料負担の増大を気にする傾向はまだまだ強いですが、一方で「このまま介護離職者が増えれば、企業活動にも大きな影響がおよぶ」という懸念も少しずつ浮上しつつあります。自治体としても、地元経済の停滞は地方財政を揺るがしかねないわけですから、介護離職をめぐる課題は無視できないはずです。

「仕事と介護の両立」のあり方は、介護保険制度を立て直すうえで、新たな世論形成に向けたきっかけになるかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。