2024年度は介護・診療・障害福祉にわたるトリプル改定となります。ケアマネにとっては、特に対医療連携のあり方が気になるところでしょう。今年前半には、トリプル改定を見すえた分野横断の意見交換会も開催されました。改定のポイントや課題を改めて整理します。
診療報酬改定2か月先延ばし。介護への影響
本題に入る前に、現在、診療報酬改定の議論で上がっているトピックにふれておきましょう。ご存じの方も多いと思いますが、8月2日の中央社会保険医療協議会(中医協)の会合で、診療報酬改定の施行時期を2か月後ろ倒しにして6月1日からにするという案です(薬価改定は4月1日で維持)。
これは、診療報酬のレセプト(明細)請求のオンライン化が2023年4月から原則義務化されるなど、いわゆる医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)が進む中で、改定にともなうソフトウェアの改修作業等に大きな業務負担(医療機関等だけでなくベンダ含む)が生じる可能性があるからです。このスケジュールが導入された場合、改定後の初回請求は7月10日が提案されています。
あくまで診療報酬側の話なので、介護報酬には関係ない──と思われるかもしれません。しかし、たとえば居宅介護支援において対医療連携をめぐる新たなしくみ(加算など)が設けられた場合、診療報酬側でもそれに対応するしくみが整えられる可能性があります。
仮にそうなった場合、「2か月」とはいえ改定時期がずれたとして、介護側との連携に支障が生じることはないのかどうか。ケアマネだけでなく、介護保険施設での医療提供にかかわる課題も出てくるかもしれません。
2018年度同時改定の対医療連携改革を整理
上記のような動きも頭に入れつつ、ケアマネの対医療連携のあり方がどうなっていくのかを掘り下げましょう。まずは、これまでの介護・診療報酬上の流れを整理します。
前回の介護・診療の同時改定(2018年度)では、ケアマネ側の入院時情報連携加算の要件が見直されました。これにより、情報提供までの日数について、診療報酬側の入退院支援加算における「退院困難患者の抽出日数」との整合性が図られました。
また、退院・退所加算において、医療機関主催のカンファレンスに参加した場合の評価が引き上げられました。医療機関側の退院時共同指導料にかかるカンファレンスを通じ、ケアマネの連携強化を図ったわけです。
さらに、在宅の末期がんの利用者について、主治医等との連携強化などを要件としたターミナルケアマネジメント加算が誕生しました。これに対応した診療報酬側の改定では、在宅時総合医学管理料等の算定に際して、ケアマネへの情報提供が要件に定められています。
2021年度には、通院時情報連携加算がプラス
そして、2021年度改定ですが、ケアマネ側に通院時情報連携加算が設けられました。利用者の通院時にケアマネが同行し、主治医に情報提供を行ない、医師側から指導・助言を受けてそれを記録した場合に算定されます。
初年度の算定事業所数は5,652で、2022年3月時点での算定割合は14.7%。コロナ禍での通院控えも増えた中での初年度の数字としては、一定の水準にあるといえます。
ただし、2年目の2022年度に算定事業所・回数ともに減っているのが気になります。減少は1割前後なので、決して小さくありません。コロナ禍での重症者の増加などの要因もあるでしょうが、ケアマネ不足が進む中、「業務負担に比して報酬単価が低い」という見方が生じている可能性もあります。このあたりは、国にとって大きな誤算かもしれません。
もっとも、算定によって「介護上の注意点や利用者の状態への理解が進んだ」というメリットは、現場でも共有されているようです(介護給付費分科会提示のデータより)。その点では、加算単位の引き上げを含めて、通院時情報連携加算の算定モチベーションをいかに上げるかが大きなテーマとなりそうです。
医療側に求められる生活への配慮、その影響
実際、先の意見交換会でも、主治医とケアマネの連携に関して「外来通院中の患者における連携の強化」を求めています。医療側として何を目指しているのかといえば、、患者の「生活」に配慮した医療の提供です。
近年、医療においては、在宅環境や家族の介護力などを考慮した退院支援や、患者の健康リスクを念頭においた社会資源へのつなぎ(社会的処方)などが重視されています。薬剤の処方においても、生活上で本人や家族による服薬管理ができるのか、必要な支援が手配できるのかを考慮することが欠かせません。こうした「生活への配慮」は、診療報酬上の基準等でもさらに強化されていくでしょう。
となれば、先のケアマネ側の通院時情報連携加算にかかる対応も、主治医側にとっては診療報酬の算定において不可欠になっていくのは間違いありません。具体的には、主治医側の診療情報提供料に、通院時情報連携加算に対応した区分ができる可能性もあります。
こうした医療側の対応強化のしくみが進めば、ケアマネ側にも通院時情報連携加算の積極的な算定をうながすしくみが求められます。通院時だけでなく、オンライン診療や末期がんでの訪問診療などでの適用範囲の拡大も視野に入るかもしれません。現場としても、さまざまな対医療連携の機会を頭に描きながら、共有すべき情報を整理しておきたいものです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。