2021年度改定の経過措置。 終了?延長? 改定議論はどうなる?

7月31日、令和5(2023)年度の全国介護保険担当課長会議が開催されました。2024年度からの介護保険制度の見直し内容などが示されています。その中に、2021年度改定で定められ、2023年度末までの経過措置がとられている義務化の一覧も整理されています。

全サービスが対象となった経過措置の対象

2023年度末(2024年3月末)までの経過措置がとられた規定には、(1)全サービスが対象のもの、(2)介護保険施設が対象のもの、(3)訪問リハビリが対象のものの3種類があります。ここでは、(1)と(2)に着目します。

 (1)には、以下の4つがあります。

(A)基準上の衛生管理等の一環として定められた「感染症の発生およびまん延防止に関する取組み」です。具体的には、委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施となります。このうち、施設サービスにおいて前者3つはすでに義務化されており、経過措置の対象が全サービスまで広がったのは、「訓練の実施」です。

(B)感染症や自然災害等の発生時において、「業務継続および早期の再開を図るため」の平時からの取組みです。具体的には、業務継続計画(BCP)の策定と全従事者への周知、BCPにもとづく研修・訓練の実施となっています。

(C)無資格や初任者研修等の未修了の従事者に対して、認知症介護基礎研修を受講させるというもの。なお、新入職員(新規採用、中途採用問わず)に対しては、採用後1年間の猶予期間が設けられています。

(D)利用者への虐待の発生および再発の防止に向けた取組みです。具体的には、虐待の防止・早期発見・再発に向けた対策を検討する委員会の定期開催、虐待防止のための指針の策定、従事者への研修、以上の措置を適切に実施するための専任の担当者(上記委員会の責任者と同一であることが望ましい)の配置です。

施設サービスにおける口腔・栄養の取組み

次に(2)ですが、これは介護保険施設に入所する利用者への(E)口腔と(F)栄養のケアに関する規定です。いずれも、2021年度改定前は「加算」の要件となっていたもので、その取組みを基本サービスに位置づけたことになります。

(E)改定前の「口腔衛生管理体制加算」の要件を、運営基準とした内容です。具体的には、歯科医師や歯科医師の指示を受けた歯科衛生士による、現場の介護職員への技術的助言・指導を年2回以上実施するというもの。

なお、助言・指導にもとづき、介護職員側が、口腔衛生の管理体制にかかる実施目標や具体的方策などを作成することも必要です。

(F)改定前の「栄養マネジメント加算」が廃止され、やはりその要件を運営基準に定めたものです。具体的には、入所者ごとの栄養ケア計画を多職種で作成したうえで、計画に沿ってその人の栄養状態を記録します。

 ちなみに、(F)の基準を満たせなかった場合は、1日14単位が減算されます。

果たして、経過措置終了に間に合うのか?

これら義務化の経過措置満了まで約7カ月となり、未対応の現場でも本腰を入れざるを得なくなっているでしょう。問題は、この時点で対応できていない現場には、すでにコスト面や必要な人員確保等のハードルで身動きがとれない可能性があることです。

 たとえば、(A)や(D)の委員会開催や、(B)のBCP策定で要されるチーム作業において、それに費やされる時間や労力を考えた場合、参加する職員には一定の手当等が必要になるでしょう。研修や訓練への参加も、業務時間として設定しなければ、職員にとっては大きな負担となり離職誘発にもつながりかねません。

 委員会を他の会議体と一体的に運営したり、研修等を他の事業所と連携しながら行なうといった緩和策はあります。しかし、そこでも一定のマネジメントは必要になり、管理職等の業務負担が増えることに変わりはありません。物価高や産業全体の人件費が高騰する中、特に小規模事業所等で「なかなか踏み出せない」というケースを見聞きします。

厳しい環境下、経過措置延長等はあるか?

ちなみに、(B)のBCP策定については、2021年度の老人保健健康増進等事業で、改定から約半年後の時点での調査が行われています。それによれば、BCP策定について「目途は立っていない」という事業所が、感染症BCP・自然災害BCPともに2割を超えていました。

この数字が現時点でどこまで縮小しているかが気になりますが、「策定が難しい理由」として「職員不足」をあげる事業所が約5割を占めています。その点では、人員不足がさらに厳しさを増す現時点で、「取り残されている事業」は決して少なくないかもしれません。

現在、厚労省は介護報酬改定検証・研究の令和5(2023)年度調査を進めています。その中では、(C)の認知症介護基礎研修の受講義務づけもテーマとなっています。これも、現場での進ちょく状況とともに、人員不足がどこまで影響しているかが気になるところです。

介護給付費分科会では、サービス別の議論の1クール分がひと通り行われました。このタイミングでは、2023年度末までの経過措置が設けられている項目について、サービスごとの議論とは別に「完全義務化への対応」の検証と方策(経過措置の延長の有無など)を優先テーマとするべきではないでしょうか。現場をめぐる状況が刻々と変わりつつある今、重要課題の1つであると意識したいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。