8月30日の介護給付費分科会で取り上げられた「横軸」テーマのうち、今回は「新しい複合型サービス」を取り上げます。想定されているのは、既存の訪問系サービス(訪問介護など)と通所系サービス(通所介護など)を複合させた類型です。ここでは、特にケアマネジメント上の課題に焦点を当てます。
利用者が訪問・通所介護を併用している場合
たとえば、1人の利用者が訪問介護と通所介護を利用しているとします。分科会で提示されたデータによれば、実際に訪問介護を利用している要介護者のうち、通所介護(地域密着型含む)を併用しているケースは46.7%と5割近くにのぼっています。
その利用者について、訪問介護もしくは通所介護の現場で「気になること」が発生したとします。たとえば、認知症の人のBPSD悪化やADL・IADL等の急速な低下、サービスに対する利用者の新たな訴えが想定されます。
こうした状況は各現場の記録などに反映され、訪問介護なら「ヘルパーからサービス提供責任者(サ責)」、通所介護なら「介護職員から相談員」へと情報が伝えられるでしょう。そのうえで、サ責および相談員から担当ケアマネへと情報が伝わることになります。
ケアマネとしては、情報を受けてモニタリングを行ない、ケアプランの見直し等が必要と判断すれば、サ担会議を開催するという流れになります。一連の対応を迅速かつ的確に行なうことにより、新たな課題を早期に解決し、利用者の自立支援や重度化防止につなげるためのケアマネジメントが機能します。
情報連携をケアに活かすまでのタイムラグ
しかし、上記の流れには、各場面でさまざまな滞りが生じる場合もあります。まず、現場の介護職員やヘルパーから相談員・サ責への情報伝達が円滑に行われない(利用者の状況が記録に十分反映されないケース含む)。相談員・サ責からケアマネへの情報伝達に一定のタイムラグが生じる──という具合です。
さらに、その後のケアマネによるモニタリングやサ担会議の開催も、一定の時間が要される可能性があるでしょう。少なくともサ担会議までの間、訪問介護と通所介護の各現場で情報が共有されない恐れもあります。
もちろん、緊急的な対応が必要なケースでは、ケアマネから各現場に情報が伝えられるでしょう。しかし、「チームで即効的な対応を考え、実践し、評価する」というPDCAサイクルは、サ担会議まで機能しないという状況も起こりえることになります。
複合型だから解決できる? そうではない?
これに対し、訪問介護と通所介護を複合的に提供していれば、相談員とサ責を兼務した管理部門が形成される可能性は高くなるでしょう。そうなれば、複合型事業所による情報の一元化が進みやすくなり、上記のPDCAサイクルを早期に動かすことができます。
その間、事業所の管理部門からケアマネにも情報は伝えられるでしょうが、ケアマネとしては、すでに動いているPDCAサイクルの評価をモニタリング情報に組み込むことができます。つまり、サ担会議を経てケアプラン見直しに踏み込む場合でも、一定の「仮説⇒検証」が行われている状況下で、課題解決の効果を高めることが期待されるわけです。
こうしたメリットをめぐり、分科会でも意見にもあるように、「事業所間の情報連携のしくみを強化すればよいことであり、複合型という新たなサービス類型を設ける必要があるのか」という疑問が生じるかもしれません。異なる事業者間でのICT連携が強化されれば、それも解決に向けた一助となるでしょう。
一方で、早期のPDCAサイクルを動かすうえでは、組織内の指示・命令系統を強化することがどうしても必要になります。その点で、複合型による組織再編を行なうことでの効果もあるのではないか──これが、新たな複合型推進に向けた大きな視点となります。
本人の尊厳確保に向けた保障は揺るがないか
さて、ここで居宅のケアマネジメントの原点に立ち返って考えてみましょう。ケアマネジメントの原点は、利用者本人の尊厳を重視することにあります。「どのような生活の実現を望むのか」という自己決定についても、尊厳の重視にもとづいた支援が求められます。
複合型により、1つの組織内で柔軟な支援の微調整が行われる場合でも、この本人の尊厳に基づいた自己決定を欠かすことはできません。この部分まで効率化し、「事業所の言うことに従っていればいい」という考え方が入り込んだ瞬間に、そこではケアマネジメントは機能しないことになります。
この「本人の尊厳ある選択」を複合型の事業所内できちんと保障することができるのか。ケアマネジメントを内包するということは、この点が強く問われなければなりません。十分な保障が得られないのであれば、そこには外部のケアマネの関与も必要となるでしょう。
こうした点を含め、「小規模多機能型では実践している」という考えがあるかもしれません。しかし、実態分析は決して十分とは言えず、今も小規模多機能型で「外部のケアマネの関与」を求める声を聞くことがあります。
尊厳の確保を軸としたケアマネジメントの原点を内包するには、そのことに十分な配慮ができる人材の確保が不可欠です。既存の組織再編だけで済む話ではありません。この点を(小規模多機能型の例も含めて)時間をかけて議論することが、複合型の導入に向けての大前提となるはずです。原点を欠いた議論は、制度の根幹を揺るがしかねません。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。