2027年度以降の総合事業はどうなる? 問われるリスクの早期発見・対処の機能

厚労省の「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」が、中間整理の骨子案を示しました。2027年度(第10期)以降を見すえた総合事業の環境整備のあり方を提案したものです。要介護1・2の一部サービスの総合事業への移行案との関係も気になる中、今案が目指すものを掘り下げます。

まずは、継続利用要介護者の留意事項を確認

検討会で議論に際して焦点となったのが、2020年10月に改正された省令です。1つは、総合事業の対象者について、「以前から住民主体サービスを利用していて新たに要介護になった人(継続利用要介護者)」を含めたこと。もう1つは、国がサービス価格の上限を定めるしくみについて、適正な事業規模となることを留意しつつ弾力化を図ったことです。

特に前者に関しては、総合事業のガイドライン見直しによる、留意事項も定められました。その中で、利用者の緊急時や状態変化時などの対応について、市町村や包括がフローチャートやマニュアルを作成し、住民主体サービスを提供する団体等に周知することを「必ず対応すべきこと」と位置づけています。

そのうえで、住民主体サービスを提供している団体等は、上記のフローチャート等を確認しつつ、要介護者ごとに緊急時等の連絡・相談先(家族、ケアマネ、包括など)を整理することを求めています。ケアマネとしても、担当する要介護者にかかる相談先等が整理されているかどうかを確認することが必要です。

緊急時等の対応フローは要支援者にも必要

もちろん、こうした利用者の緊急時等の対応フローの整備は、継続利用要介護者に限った話ではないでしょう。そもそも、要支援者の予防訪問・通所介護が総合事業に移行した際でも、要支援者の状態急変リスクへの対処は大きな課題となっていました。

たとえば、要支援2の場合、フレイルの進行だけでなく、何らかの疾患が原因で支援が必要な状態になっている人も多いのが実情です。軽度の脳血管疾患で大きな麻痺や認知障害はないものの、そこには当然「再発リスク」が潜んでいます。悪化リスクが浮上した場合、周囲の人がいかに早期に気づき対処(医療等につなぐなど)できるかによって、入院等の重度化を防ぐことができます。

その点を考えた場合、住民主体サービスであっても、一定程度の早期発見・対処にかかる専門性は求められます。多様な主体による支援を広げていくのであれば、この部分をしっかり担保できないと、総合事業そのものが崩壊しかねません。特に疾患の発症・悪化リスクの高い75歳以上の人が中心となってくる時代では、大きなテーマとなります。

利用者の緊急リスクに骨子は応えているか?

その点で、今回の中間整理の骨子でも、この「利用者の異変等にかかる早期発見・対処」にどれだけ重点を置いているかが注目点となります。実際はどうなのでしょうか。

骨子案の冒頭部分では、「医療・介護専門職がより一層その専門性を発揮しつつ、(中略)多様な主体を含めた地域の力を総動員するという視点に立ち、地域をデザインしていくことが重要」と述べています。これを見ると、医療・介護の専門職のかかわり方が重度化防止のカギという位置づけがうかがえます。

ところが、その具体策となった場合、該当すると思われる箇所といえば、最後の「総合事業の評価指標」の見直しから辛うじて浮かぶという程度にとどまっています。それは、「総合事業と介護サービスとを一連のものとして、地域の介護サービスを含む必要な支援を継続的かつ計画的に提供するための体制づくりの視点を盛り込むこと」です。

これを「住民主体サービス」等での緊急時の早期発見・対処の体制づくりととらえた場合、総合事業と介護サービスの連携のあり方(異変察知・対処スキルの向上など)をどのように整えるかが問われることになるでしょう。しかし、骨子ではストレートにそのことに踏み込んでいる文言はありません。

給付拡充の方が費用対効果はよくなる可能性

仮定として、たとえば住民主体サービスに包括や行政が医療・介護の専門職を派遣したり、すぐに連携できる医療機関・介護事業所との協力関係の締結を義務づける─といった方法は考えられるでしょう(すでに、地域独自の判断で進められている例もあります)。

それらによる専門職の視点確保の必要性は、国が推し進める「適切なケアマネジメント手法」を見ても歴然としています。在宅生活の継続・入院の防止に向けて、あれだけの詳細な確認事項を現場に求めている中で、「総合事業にはそこまで必要ない」と言い切れるかどうか。先に述べたように、要支援者でも将来的な入院等のリスクが低いとは限りません。高齢化により、総合事業対象者の持病悪化リスクは急速に高まっているからです。

そうなった場合、専門職がきちんと機能できるだけの報酬や委託費の設定が必要となります。それが、地域支援事業の事業費等で本当に賄えるのか。現場での早期発見・対処のための人材育成コストを考えた場合、予防給付を充実させた方が費用対効果は高いのでは─という議論が起こる可能性もあります。

このあたりの懸念をきちんと払拭できる提案がなされないまま、将来的に総合事業の対象者の拡大案が提示されたりすれば、住民活動全体に大きな混乱をおよぼすことは必至でしょう。骨子案が目指す「地域共生社会」は、専門性の土台が整ってこそ機能するものであることを改めて確認したいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。