やはり出てきた、ケアプランデータ連携。 同システム活用を逓減緩和要件とする意味

次期改定に向けた居宅介護支援の改革案で、逓減制にかかる担当上限のさらなる緩和策が示されました。Iの上限緩和もさることながら、気になるのはIIのさらなる緩和で「ケアプランデータ連携システムの活用」を要件とした案です。そこに込められた意味とは?

区分IIの上限をさらに引き上げるための要件

2021年度改定では、ICT活用や事務職の配置を要件として、逓減制を緩和し「45件から適用する」という基本報酬区分IIが誕生しました。今回示された改革案は、これを「50件」にまで引き上げるというものです。その要件が、ケアプランデータ連携システムを活用して業務効率化を図っていることです。

ケアプランデータ連携システムは、国が現場の業務効率化の切り札として、2023年4月から本格稼働させています。それに先がけて、2022年度からはICT導入支援事業の補助割合引上げの要件に、同システムの利用が含まれました。7月には、利用事業所がWAM NET上で掲載されるなど、地域における利用促進を図るしくみも強化されています。

ただし、システムの活用自体はあくまで任意であり、それ以前から地域ごとに独自のデータ連携システムを活用しているケースもあります。厚労省は2024年度予算の概算要求および2023年度補正予算案で、独自システムとの連携を図るためのAPI(※)開発を目指していますが、2024年4月までにシステム改修が可能になるかどうかは不透明です。

※API…異なるソフトウェアやシステム間で、機能を共有できるようにするしくみ

基本報酬によって実質は加算要件と同じに?

いずれにしても、ケアプランデータ連携システムは、現時点ではあくまで業務効率化に向けた選択肢の1つに過ぎません。上記のような地域の実情や事業所独自の業務効率化の ビジョンによって、使うか否かは各事業所の判断に任されているしくみです。

ところが、今回の改革案では、この連携システムを活用するか否かによって介護報酬に影響を与えることになります。もちろん、逓減制のさらなる緩和を適用するかどうかは事業所判断です。しかし、基本報酬が思ったより上がらないとなった時、「事業所収入を上げるうえでは適用に踏み出すしかない」といったプレッシャーが強まることになるでしょう。

つまり、実質的に「ケアプランデータ連携システムの活用」が、加算要件などに組み込まれたのと同じ効果が生じることになります。あくまで将来的(2027年度以降)な話ですが、これを始まりとして加算要件や運営基準に反映させる流れが強まる可能性もあるでしょう。

ケアプランデータ連携の「もう1つの目的」

こうした流れが形成される背景として、先に述べた「業務効率化の切り札」という位置づけだけなく、将来的な「介護保険データの利活用」というビジョンがあることに注意が必要です。2023年の法改正で、介護情報の共有・活用を地域支援事業に位置づけるなどの制度化が図られました。利活用の範囲には「ケアプランデータ」も視野に入り、実際、活用範囲のイメージ図が「ケアプランデータ連携システム」の説明資料にも示されています。

介護・医療機関はもとより、利用者も閲覧できることが想定されているとなれば、その「恩恵」をできる限り広げないと「システム開発に予算をかけているのに使えない」という不公平が生じます。これは税金の使い道を司る政府の責任問題に直結します。そこには、問題が噴出している「マイナカードと健康保険証の一体化」と似た構図が浮かびます。

ちなみに、先の介護情報の利活用の対象として「LIFE情報」も想定されています。これも公平性の観点から、たとえば「訪問系サービスのみの利用者」も含めて「幅広くLIFE情報を集めたい」と国も考えているはずです。

訪問系や居宅介護支援にもLIFE加算を適用するかどうかは、分科会で消極的な意見も目立つ中、まだ方向性が示されていません。しかし、先の「公平性」の観点から、適用拡大が提案される可能性は高いといえます。

ケアマネの処遇改善策とのセット化が不可欠

逓減制のさらなる緩和に話を戻しますが、事業所が新たな緩和区分に乗るかどうかは、居宅介護支援の基本報酬の引き上げ率や居宅ケアマネの処遇改善策があるのかどうかがポイントになるのは間違いないでしょう。それは、要件とされる「ケアプランデータ連携システム」に、先に述べたような「業務効率化以外の目的」が透けているからです。

確かに、今提案では「ケアプランデータ連携システムの活用による業務効率化を図っている場合」という具合に、「業務効率化につながっているかどうか」が示唆されています。つまり、「ケアプランデータ連携システムの活用」だけではなく、プラスαの要件設定がなされる可能性はあるかもしれません。

とはいえ、今回の改革案は、現場ケアマネの業務負担にかかわる懸念が付きまといます。事業者としては、「現場のケアマネに無理が生じれば、人材不足が進みかねない」という危機感はあるでしょう。その危機感の払拭は、結局のところ、居宅ケアマネの処遇改善の方向性が定まるまで待たなければなりません。

国としては、ケアプランデータ連携システムの活用へと過剰に入れ込むのではなく、あくまでケアマネの処遇改善とセットになるべき話であるという認識が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。