特定事業所加算の要件見直しで、 事業所が見すえるべきビジョンとは?

介護給付費分科会で示された居宅介護支援の改革案の中から、特定事業所加算の要件見直しについて取り上げます。具体的な対応は3つですが、これらは今後のケアマネジメントのあり方にどのような影響をおよぼすでしょうか。今後の事業所運営を考えるうえで、広い視野で考える必要がありそうです。

運営基準減算部分は削除だけ? それとも…

具体的な対応策3つのうち、1つは「運営基準減算・特定事業所集中減算の適用を受けていないこと(要件9)」についての見直しです。これを「特定事業所加算が体制加算であることとの整合性」や「毎月の確認作業等の手間を軽減する観点」から「運営基準減算」に関しての見直しが提案されました。

完全に「運営基準減算」の部分を要件から削除するかどうかは不明ですが、少なくとも確認作業を不要とする方向での要件緩和ということになりそうです。ただし、別要件の設定という可能性も頭に入れておくべきでしょう。たとえば「運営基準減算を発生させないための対応策を検討している」といった要件が加えられることも考えられます。

上記については、より詳細な改革案が出た際に注目するとして、今回注目したいのが他の2つです。1つが、包括等が実施する事例検討会への参加にかかる見直し。もう1つが、常勤のケアマネおよび主任ケアマネについて、包括からの委託による総合相談支援を行なう際の兼務をOKとするものです。

他制度研修等への参加が示されたことの意味

前者は、「ヤングケアラー、障害者、生活困窮者、難病患者等、他制度に関する知識等に関する事例検討会、研修等への参加」に見直すというもの。言うまでもなく、2024年度からの法定研修の見直しを受けたものです。

厚労省のデータでは、すでに法定外研修や自主学習で、他制度に関する知識の修得を進めているケアマネが一定以上いることが示されています。ここに法定研修の見直しが加わることで、ケアマネの知識修得が広がるという観測のもと、ケアマネジメントの質向上の方向性の1つに定めたといえます。

実際、障害福祉サービスを受けている人が65歳になって介護保険に移行したり、難病患者や生活保護受給者のケアマネジメントを依頼されるといったケースは、現場実感でますます増えていると聞きます。つまり、「制度上で定められなくても、自主的な勉強や研修参加が欠かせなくなっている」わけです。

そう考えれば、今回の改革案は、政策的な意図はあるとしても一定の時流に沿っていると考えられるかもしれません。しかし、ケアマネの業務範囲という点を考えたとき、ケアマネジメントが大きく再編される1ステップであるという見方も必要でしょう。

他法の改正が、今後の留意事項に影響も?

たとえば、ヤングケアラーに関していえば、利用者宅に入るケアマネが「発見者」となる可能性が高くなります。その際の専門職の対応については、ガイドラインが示されています。問題は、今後「ヤングケアラー支援」を制度化するとなった場合、学校等の教育機関との連携がケアマネの責務として法的に位置づけられるかもしれないという点です。

今回の改革案は、あくまで加算要件であり、ヤングケアラーだけに特化したものではありません。しかし、この改革案が施行された後に何らかの法制定がなされるとすれば、それが介護保険法でないにしても、新法との整合性をとるための留意事項の改定が行なわれることが考えられます。たとえば、「ヤングケアラーについての事例検討会や研修への参加は、年に●回必ず実施する」という具合です。

これはヤングケアラーに限った話ではありません。障害者なら障害者総合支援法、生活困窮者なら社会福祉法という具合に、今後も法改正が継続的に行なわれる可能性がある中では、そのつど留意事項(告示)の改定が行なわれることを視野に入れるべきでしょう。

総合相談との兼務可─その先の改革の布石も

このように、やや先を見すえると、今回の改革案は「今までのように必要に応じて自主的に学べばいい」というレベルにとどまらない改定であるという見方も必要です。

実際、改革案にある事例検討会や研修が「なかなか地域で開催されない」というケースもあるでしょう。そうなると、事業所側から包括や行政に働きかけるか、事業所自らが主催することも必要になるかもしれません。

もちろん、最初からそこまで厳しい対応は求められないでしょうが、国としては、そうした事業所の自律的な動きを見すえている可能性があることに注意が必要です。

もう1つの要件見直し案である「常勤のケアマネ、主任ケアマネの総合相談支援との兼務」も同様です。「ケアマネ不足の折、総合相談支援の委託など受けている余裕はない(だから、この見直し案は無視していい)」という事業所も多いかもしれません。

しかし、地域課題の複雑化がさらに進む中で、包括業務の軽減を図る観点から、総合相談支援の委託をうながす施策が今後も打ち出されることが考えられます。こちらは、2027年度にどうなるかという先の話ですが、委託が促進されない場合に、特定事業所加算の高単位区分の要件に「総合相談支援の委託を受けていること」が含まれるという具合です。

現時点で「大きな見直しではない」と見られるものでも、そこには先を見すえた施策側の意図があることに注意が必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。