医療機関への「生活支援上の留意点」提供。 問題は、医療側がそれを活かせるか

2024年度改定は診療報酬との同時改定となり、両者の取組みの整合性をとる観点から、介護・医療連携のあり方が特に大きなポイントになります。そうした中、介護給付費分科会では、施設系・居住系に関する医療機関への情報提供についての改革案が示されました。

分科会で示された対医療連にかかる改革案

取り上げるのは、施設系・居住系から医療機関あるいは居宅へと退所した場合の情報提供に関してです。11月16日の介護給付費分科会で提示された改革案では、以下のような見直しがかかげられています。

(1)老健と介護医療院の退院時情報提供加算について、医療機関へと退所した場合に「生活支援上の留意点等の情報」の提供を評価する。

(2)特養ホームや特定施設、認知症GHから医療機関へ退所した場合も、(1)と同様に「生活支援上の留意点等の情報」の提供を評価する。

(3)(1)、(2)の施設系・居住系サービスから居宅へ退所した場合も、やはり「生活支援上の留意点等の情報」を適切に提供することとする。

これにより、退所先の医療機関や居宅系サービス(受け取り手として、居宅のケアマネなどが想定される)に対して、「生活支援上の留意点」に重点をおいた情報が渡されることになります。となれば、「渡す」だけでなく、受け取った側がそれをどのように「活かす」かが、同時に問われることになるでしょう。

将来の生活を見すえた医療の対応が問われる

受け取る側が居宅ケアマネであるとして、これまでも対老健等の退院・退所加算の算定に際し、「利用者の生活支援上の留意点」の居宅ケアプランへの反映は重要なテーマでした。逆にケアマネとしては、退所が近づけば、老健等に対して「円滑な在宅復帰」に向けた「在宅生活を想定したリハビリの強化」などを求めてきたケースもあったと思われます。

では、医療機関ではどうでしょうか。医療機関へと退所した利用者は、そのまま亡くなるケースもありますが、病状が安定して再び施設・居住系サービスへと戻ってくることも想定されます。特に認知症GHなどは、入院中でも穏やかに過ごせる環境が形成されていれば、「退院後も自分らしい生活が取り戻しやすくなること」が大いに期待されるでしょう。

さらに、看取りが近づいているケースであっても、「最期は自分の自宅で」という意向が強ければ、医療機関からそのまま在宅へという流れがとられることもあります。仮に看取り期で「自分でできる生活」の範囲が狭くなっていても、その人らしい「家での生活の表出」をできる限り尊重し、その実現に向けて働きかけることが求められます。

施設等から得た情報を活かす素地はある?

これらの状況を考えた場合、医療機関側に手渡される「生活支援上の留意点」は極めて重要です。それを、上記で述べたような「その人らしい生活」へとバトンタッチするうえで、いかに活かすのかという点は、これからの医療機関の大切な責務となります。

しかし、現実はどうでしょうか。たとえば、地域包括ケア病棟やリハビリ病棟では、患者の退院後の生活を見すえたうえで、食事・服薬管理や生活機能を向上させるためのリハビリに力が入れられています。問題は、そこに「退院後の生活」を想定した管理やリハビリのあり方が反映されているかどうかです。

また、急性期でも、治療は優先されますが、患者の退院後の自立生活を視野に入れれば、その生活の妨げとなる状況を少しでも作らないことが重要です。最近では、一般病棟でも認知症ケア加算や褥そう対策へ評価などが導入されています。その点では、「生活支援上の留意点」を病棟内のケアに反映させる素地は整っていることになります。

ところが、診療報酬上でのリハビリや看護、あるいは認知症ケアのかかる評価では、カンファレンスの開催や研修を受けた人材の配置などは定められているものの、「退院後の生活を見すえた支援のあり方」という観点でのプロセスの定めがほとんど見られません。

診療報酬側が対介護連携の改革を進める番

たとえば、介護と医療の同時改定を視野に入れた意見交換会では、医療側のリハビリに関して以下のような意見が上がっています。「医療機関で完結することが前提ではなく、生活期で異なるQOLの向上を目指すために、急性期・回復期で何をするべきかという視点が医療側に求められる」というものです。

当然、こうした視点で入院時からの介護側との情報連携を進めるべく、2024年度の診療報酬改定でも、たとえば入退院支援加算などの要件見直しが図られる可能性が高いでしょう。今回の介護側の改革で、「生活支援上の留意点」にかかる情報提供が進めば、「提供された情報をどう活かすか」という点が改めて問われることになるかもしれません。

問題は、本人の生活にかかる意向や、先々本人が復帰する可能性のある家屋環境やそこでの生活習慣について、医療機関側に「何をどのように見て、何を尊重するべきか」という業務風土が培われているかということです。

今回、「適切なケアマネジメント手法」により、ケアマネ側のアセスメントで「疾患別ケア」の視点が強化されました。となれば、医療職側にも「適切な病棟ケアマネジメント手法」的なものが築かれてしかるべきでしょう。

介護側に新たな連携実務が誕生しても、受け取る医療側が変われなければ、介護側の負担は報われないままとなります。そのあたりの診療側の改革がますます注目されます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。