新複合型サービス見送りの必然。 他の介護保険改革にも共通する課題

大きな改革案の1つだった、新複合型サービスについて、2024年度からの実施は見送ることが提案されました。LIFE対応加算の訪問系等への適用に引き続き大改革が見送られます。そもそも、この新複合型の拙速な導入案はどのような問題をはらんでいたのでしょうか。

厚労省にしてみれば異例とも言える決断⁉

厚労省にしてみれば、今回の新複合型の見送りは、異例とも言える決断でした。というのも、この新複合型の導入を検討することは、昨年の介護保険部会でも明記され、分科会のヒアリングでも一部業界団体から導入を強く推す意見が出ていたからです。

すでに、11月6日の分科会では、新複合型を導入する場合の人員基準や設備基準、報酬体系のイメージも示されていました。2021~2023年度の各老健事業でも、新複合型を導入すると仮定した際の現場の反応にかかる調査も何度か行われています。

その中には、コロナ禍での通所系サービスの特例(通所が提供できない場合の訪問による利用者確認)にかかる「メリット」を調査したものもありました。厚労省としては、コロナ禍特例で「通所介護の職員が訪問にたずさわる」という前例もあるゆえ、新サービスの土台は整っていると見たのかもしれません。

もっとも、永続的な「複合サービス」の体制を作って運営するとなれば、現場の状況は特例時とは変わってきます。パイロット事業などを通じた実証が不可欠という姿勢を厚労省が示したのも、必然だったといえます。

当初から問題だった「目的地」のあいまいさ

そもそも、このたび提案されていた複合型サービスは、やはり「通い」や「訪問」を柔軟に組み合わせている小規模多機能型と比べて目指すべき地点があいまいであるという点が、当初から問題視されていました。

小規模多機能型の場合は、認知症の利用者による時間・空間の認識をいかに尊重し、その人の安心を引き出すかという点が大きなポイントです。柔軟なサービス提供も、そうした当事者の視点から生まれたものです。

これに対し、今回の新複合型は、限られた職員がいかに効率的にサービスを提供できるかが目的の焦点となっていました。もちろん、たとえば「利用者のことをよく知る通所の職員が訪問にもたずさわれる。利用者情報についての共有も円滑に行われるようになる」といったメリットもかかげられてはいます。しかし、十分な実証も行なわれていない中では、どちらかといえば後付け感があります。

いずれにしても、今回の新複合型については、以下の3点の検証が置き去りにされています。1つは、利用者のサービス利用意向はきちんと尊重されるのか。2つめは、いったんサービスが稼働し始めたとき、従事者の働き方はどうなっていくか。3つめは、このサービスの誕生で、地域の介護サービス資源にどのような影響がおよぶのかということです。

利用者の意向は? 現場従事者の意思は?

1つめの「利用者の意向の尊重」ですが、小規模多機能型のような総合マネジメントがきちんと保障されないと、たとえば「柔軟な対応」において、「利用者の意向」ではなく「事業所のシフトの考え方」がいつしか優先されてしまう懸念が拭えないことです。

本来、「利用者の意向の尊重」を保障するのはケアマネジメントですが、柔軟なサービス提供におけるケアマネジメントの関与をより明確にしないと、たちまち「事業者都合」に流されるという構造がつきまといます。このあたりは特に重点的に検証すべき課題です。

2つめの「従事者の働き方」ですが、ここでも当事者の意向、つまり「労働者自身が自分の働き方を決定する」という権利の保障が十分でないと、やはり「事業者の都合」に流されがちになります。つまり、組織内の指示系統について、事業主と現場従事者の間の合意の形成のしくみをきちんと機能させることの保障が求められるわけです。

3つめですが、恐らく参入できるのは地域で資力のある大法人に限られる可能性が高いでしょう。包括報酬やサービス提供過少減算などの大小にもよりますが、資力をもって事業規模を拡大しようと「人材の囲い込み」が進むことも考えられます。そうなると、「訪問介護だけではやっていけない」という他事業者が撤退・吸収される契機となりかねません。

当然、地域によってサービス資源の偏りを加速させる懸念も生じてくることになります。

制度複雑化の中で求められる新たな基本法

こうした点を考えたとき、制度の枠内での課題解決が難しければ、利用者の意向や介護労働者の働き方の意思決定を尊重するためのバックアップが必要です。たとえば、介護保険法とは別に、上記の理念をきちんと定めた介護基本法のような法律が考えられます。

今回、認知症基本法が制定されたことにより、介護保険施策も同法の理念に沿うことが求められる場面が増えました。同様に、利用者や現場の介護労働者の意思決定のしくみを、介護保険施策の大前提とする新法が求められる時期が来ているのではないでしょうか。

このことは、新複合型サービスの議論にとどまらず、今後のさまざまな改革についても言えることです。制度が複雑化すると、どうしても施策側の「操縦術」ばかりが先に立つ懸念が高まるからです。利用者の意思、現場の意思をどうすれば尊重できるのか。その土台づくりがますます求められています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。