自治体独自の処遇改善策はまだまだ進む⁉ 「副作用」が高まる前に必要なことは…

東京都が、介護職員やケアマネの給与を月額1~2万円ひきあげる独自策を打ち出しました。自治体による処遇改善の独自策といえば、大阪府が新型コロナの5類移行後の感染対策への支援として、介護職員等に2万円のギフトカードを配布したケースもあります(第2弾もあり)。こうした自治体による独自策は、今後も増えていくことが考えられます。

国の施策規模に対して、自治体も危機感が…

介護人材の確保が困難な状況は、依然として深刻です。厚労省の一般職業紹介状況の統計では、昨年10月以降、介護サービス職業従事者の有効求人倍率は再び4倍台となり、全職業との比較で約3.4倍まで開いています.

こうした状況下で、国は2月から介護職員1人あたりの賃金を月6,000円相当引き上げる補助金を打ち出しました。しかし、6,000円という金額もさることながら、事業所内での配分の柔軟化により、現場従事者の賃金引上げの実感にどこまで届くかは懐疑的です。居宅のケアマネに至っては、国の処遇改善策がいまだ適用されない状況が続きます。

そうした中で、自治体にしてみれば、自エリアでの介護人材の充足状況がますます厳しくなることへの危機感は高まっています。今後も、東京都などの施策にならい、地域ごとの独自策が続々出てくることになりそうです。

限られた人材を自治体間で奪い合うことに?

そこで懸念されるのは。ニュースでも指摘されているように、自治体の財政状況による格差が生じてくることです。特に従事者の生活圏が都道府県境に近い場合、独自策の規模が大きい方へと、人材が越境しながら流れていくという現象が起こりそうです。

ちなみに、国の施策の現状を見れば、他業界から介護業界へと人材が大きく流れ込むことは、リーマンショックのような景気悪化などが生じない限り、あまり期待はできないでしょう。自治体の財政力は限られるわけですから、どんなに自治体間の「介護業界の処遇改善競争」が激化しても、他業界から見れば「長続きしない」と見切られがちだからです。

このように、業界全体での人材のすそ野が広がる条件は整っていないわけですから、自治体間の処遇改善競争は、限られた人材を奪い合うだけになる恐れもあるわけです。

自治体の独自策は「つなぎ」ととらえるべき

また、ケアマネに限れば、自身の給与にかかる動機づけのほかに、「サービス調整がしやすいかどうか」という判断も上乗せされます。

たとえば、サービス従事者の人材移動により、地域によって人手不足による倒産・撤退が加速すれば、ケアマネにとってはサービス調整が極めて困難になります。仮に「給与面では満足している」というケアマネでも、サービス調整の困難さから越境による転職動機が高まることも考えられるでしょう。

もちろん、自治体同士が切磋琢磨して、業界全体の賃金水準を高めていくことは、現場従事者にとっては望ましい方向とはいえます。ただし、先に述べたように自治体の財政規模は限られるわけですから、国が動かなければ、恒久的かつ安定的な賃上げは望めません。

あくまで自治体の独自施策は「つなぎ」であり、その間に自治体が実現した処遇改善策を、国による財政支援に置き換えていくことが欠かせません。それがなされなければ、サービス資源の地域格差という「副作用」だけが残される恐れが高まります。

サービスの地域間格差の「次」に起こること

国としては、自治体間の処遇改善競争を「当面は静観する」という姿勢をとるかもしれません。それで処遇改善状況が好転すれば、国の処遇改善策が一種の起爆剤になったという理屈も立つからです(もちろん、今後の制度改正に向けた処遇改善状況等調査の信頼性には、疑問符がつくことになるでしょうが…)。

しかし、こうした国の静観は、先の副作用を助長する点で極めて危険です。今回、1号保険料の標準段階の多段階化は、自治体の実情に引っ張られた形になったとはいえ、一応は国も腰を上げています。処遇改善でも同様の処置を早急に検討する必要があるでしょう。

「早急」と述べましたが、そこにはサービスの地域間格差が拡大することにより、今度は利用者が資源を求めて地域間を移動するという次の段階も予想されるからです。

介護保険の「地域保険化」がさらに進む?

利用者の移動による「移動先の自治体の介護保険財政の悪化」を防ぐうえで、住所地特例という制度があります。しかし、地域のサービス資源が枯渇しているのに、住所地特例で「保険料が下がらない」となれば、いずれその地域の住民にとって納得できない問題となるでしょう。つまり、住所地特例などのしくみ自体が問われることになるわけです。

資源格差の拡大により、全国一律のサービス利用が困難になりつつある今、ともすると「介護保険は社会保険ではなく、地域保険では?」という声を聞くこともあります。介護保険の地域保険化が進んでいけば、現役世代による2号保険料負担のあり方も、さらに問われていくのは間違いありません。

国にとって、小出しの施策で時間を稼ぐという余地はあまり残されてはいません。その現状をいかに真正面からとらえることができるかが、ますます問われようとしています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。