
訪問介護の基本報酬引下げについては、各方面から抗議や反発が続々と上がり、今国会でも重要課題の1つとして浮上しています。訪問介護で赤字事業所が4割というデータも示される中、国として「引下げ撤回」や「補足的な対応」を行なうことはあるのでしょうか。
赤字の小規模事業所が「加算」を取れるのか
福祉医療機構の調査(訪問介護1,901件を対象)では、2022年度の赤字事業所(経常増減差額が0未満)の割合が42.8%。2021年度から2.7%増加しました。このデータが国会の予算委員会でも取り上げられています。
もっとも、こうしたデータが出る以前から、2022年度決算を反映させた厚労省の介護事業経営実態調査においても、収支差率分布を見る限り、4割近くが「収支差率0以下」というデータは出ています。2024年度改定案については、このデータをもとにしているという点で、厚労省としても「赤字事業所がどの程度あるか」は把握していたわけです。
こうした状況について、国会の予算委員会で質問を受けた厚労大臣は、「加算措置によってしっかりプラスになるように設計してある」と答弁しました。この加算措置が6月からの新たな処遇改善加算の加算率だけを指しているのかどうか不明ですが、そもそも赤字で苦しむ小規模事業所が「加算を取れるのかどうか」という前提が問題といえます。
カギとなる収入源は特定事業所加算だが…
2022年4月審査による訪問介護の加算の算定状況(2023年7月24日介護給付費分科会提示)を見てみましょう。請求事業所数ベースで見た算定率でもっとも高いのが、「夜間・早朝加算(+25%)」で62.6%。次に「初回加算(+月200単位)」で53.41%です。
ただし、前者はすべての利用者に算定されるものではありません。実際、件数ベースで見ると19.67%にとどまります。後者も「初回訪問がある月」のみの算定なので、単位数ベースでは0.13%となります。
やはりカギとなるのは、すべての利用者に加算される特定事業所加算ですが、事業所算定率がもっとも高いII(+10%)でも29.53%。単位数が一番高いI(+20%)では、6.44%にとどまります。Iは人材要件のほかに重度者要件を満たすことが必要で、2024年度改定では、訪問看護ステーションとの連携による24時間連絡体制とともに、訪問介護を提供できる体制も要件として加わりました。
ヘルパーへの新たな負担が前提となるしくみ
こうして見ると、今回の基本報酬の引下げをカバーできるIは、ヘルパーに少なからぬ負担が強いられます。ヘルパー人数を十分に確保できない小規模事業所などは、算定ハードルはむしろ上がったと考えていいでしょう。
ちなみに、訪問看護の診療報酬改定では、24時間の対応体制の確保について、「看護業務の負担軽減を図っている場合」での単価が引き上げられました。診療報酬側では、従事者の負担軽減を評価しているにもかかわらず、訪問介護側では「24時間の対応体制」を追加的に求めながら、単位の上乗せはありません。
厚労省としては、「それに見合うだけの処遇改善加算の加算率を設定した」ということなのかもしれません。しかし、以前も述べたとおり、処遇改善加算の高い加算率I(24.5%)・II(22.4%)を取得するうえでは、職場環境等要件の中でも「生産性向上の取組み」の強化(8項目のうちの3つ以上〈一部必須項目あり〉に対応)が問われています。(2025年度以降の措置。2024年度中は経過措置あり)
上記必須項目の中には、「委員会やプロジェクトチームの立ち上げ」や「業務時間調査の実施」なども見られます。その組織的な負担を考えた場合、2025年度以降、小規模事業所はI・IIの算定をあきらめる所も出てくるでしょう。結果として、III・IVの算定にとどまることも想定されます。
利用者の機会均等を崩す恐れが見逃せない
今回、訪問系サービスでは、利用者の口腔衛生状況のスクリーニングを評価する「口腔連携強化加算」が設けられました。もっとも、月あたり50単位なので大きい収益とは言えません。何より、診療報酬上で設定される訪問診療等を行なう歯科医院との連携を確保することが前提となっています。
こうした連携に向けた折衝などの実務を考えると、医療機関との協力関係がとりやすいサ高住などに併設している訪問介護事業所(訪問介護の収支差率を押し上げている要因と言われます)に限定されやすくなります。
厚労省としては、自立支援・重度化防止に向けた訪問介護の機能強化を図りたいという施策を打ち出している意図はあるのでしょう。しかし、そうした機能強化というのは、すべての事業者が「加算を取得できる環境」が整っていることが前提となります。
その「土台」が揺らいだままで、その上に機能強化という「家」を建てようとしても、広がりを持たせることが困難です。結局、一部の訪問介護しか生き残れないという状況を放置すれば、それはすべての利用者のサービス機会の「均等」を崩すことになります。
そのあたりが大きな社会問題として認知されつつある中、まず考えられるのが「補正予算による期中改定」によって、「訪問介護の赤字事業者への特例的な報酬対応」というあたりかもしれません。今後の展開に注目です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。