訪問看護との比較から見えてくる 居宅ケアマネ処遇改善策のヒント

今年6月からの新たな処遇改善加算は、これまでと同様、居宅介護支援は対象外です。居宅ケアマネとしては、基本報酬や特定事業所加算等の引き上げや取扱い件数の緩和が処遇改善のカギとなりますが、問題は実務負担とのバランスです。この点で比較したいのが、訪問看護です。そこには、居宅ケアマネの今後の処遇改善策のヒントが垣間見えます。

訪問看護にも処遇改善策は誕生している

ご存じのとおり、訪問看護も今回の新処遇改善加算の対象から外されています。ただし、訪問看護については診療報酬上で、従事者給与のベースアップを図るための「訪問看護ベースアップ評価料」が新設されています。

これは、診療報酬上の訪問看護管理療養費の算定対象となっている利用者について、区分Iでベースアップ(毎月決まって支払われる賃金のアップ)のために月780円が算定されるものです。さらに、区分Iによるベースアップ効果が限られる場合は、事業所ごとの状況によって区分IIが上乗せされます(最大で利用者1人あたり月500円)。

さらに、訪問リハビリや居宅療養管理指導でも、診療報酬では「外来・在宅ベースアップ評価料」が算定できます。また、介護保険給付等が一定以上の割合になると上乗せ区分の算定も可能になります。こうして見ると、処遇改善を目的とした保険給付が適用されないのは、実質的に居宅介護支援と福祉用具貸与・販売のみとなるわけです。

負担軽減に取り組めば増収となるしくみ

また、訪問看護で注目したいのは、介護・診療報酬の両方で、2024年度から「現場の負担軽減」に配慮したしくみも誕生したことです。具体的には、介護保険では「緊急時訪問看護加算」、診療報酬では「24時間対応体制加算」がそれぞれ再編されたことです。

いずれも、利用者や家族からの看護にかかる相談対応ができる体制を24時間確保することを評価した加算です。現場の看護師にとっては、加算算定による収入増と実務上の負担増のバランスが気になるしくみです。

2024年度改定では、事業者が「従事者の負担軽減を図るための取組み」を行なった場合の新区分が設けられました。新区分では、従来区分よりも高い単価が算定されます。

その「負担軽減の取組み」ですが、介護・診療報酬ともに同じです。A.夜間対応した翌日の勤務間隔の確保、B.夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで、C.夜間対応後の暦日(0時から24時まで)の休日確保 、D.夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫、E.ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減、F.電話等による連絡・相談を担当する者に対する支援体制の確保、となります。

なお、一定の要件を満たせば、G.の電話等による連絡・相談について、看護師・保健師以外の職員による対応も認められました。

ケアマネも24時間対応要件の加算はあるが

介護側の処遇改善加算でも、職場環境等要件で「職員の働き方への支援策」は打ち出してはいます。しかし、緊急時訪問看護加算等のように、勤務の感覚や連続回数などのストレートな負担軽減策は示されていません。生産性向上にかかる基準や加算でも、テクノロジー活用などが中心で、それ以外は現場での創意工夫を促すものとなっています。

それでは、居宅介護支援の場合はどうでしょうか。訪問看護のように、24時間対応などの体制を求めているといえば、特定事業所加算があります。具体的には、算定要件4で「24時間連絡体制を確保し、必要に応じて利用者等の相談に対応する体制を確保していること」というものです(携帯電話の輪番制など。区分Ⅳでは複数事業所への転送等でもOK)。

しかし、緊急時訪問看護加算(I)のように、従事者の負担軽減策を求めた留意事項や別要件などはありません。「訪問看護のような厳しい状況は想定されない」という判断があるのかもしれません。しかし、居宅介護支援でも、利用者の看取り期や精神的に不安定な状態にあるケースで、時間を問わず対応しなければならない状況は多々あります。

事業者に「増収と負担」を計算させる風土を

こうした訪問看護との対比で、居宅ケアマネの処遇改善策はどうあるべきなのかについて、いくつかのヒントが浮かんできます。

たとえば、特定事業所加算でいえば、「ケアマネの負担軽減策(勤務形態などの具体案)」を要件とした新区分を設けるというやり方があるでしょう。あるいは、取扱いが一定件数を超えた場合に、やはり「負担軽減策」を講じなければならない規定を設けることです。

逓減制緩和の新たな要件は、「ケアプランデータ連携システムの活用」および「事務職員の配置」となっています。いずれもケアマネの実務負担軽減を視野に入れてはいますが、それが直接的に負担軽減につながるのかどうかという実証はありません。そうではなく、ケアマネの働き方にかかわる直接的な規定を設けることが求められるわけです。

ケアマネの負担を勤務時間・日数等の数値上で軽減すれば、報酬が上乗せされる──このしくみができれば、多くの事業者が「事業所の収益」と「ケアマネの働き方」のバランスを計算せざるを得ない風土が生まれます。

今回の基本報酬や特定事業所加算のアップ、取扱い件数の緩和よって「ケアマネの処遇改善を実現する」という明確な意図があるなら、もう一歩踏み込んだ制度設計が求められます。2027年度改定に向け考慮したい課題です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。