2024年の通常国会が(今後延長がない限り)6月23日で閉会します。今国会でも、介護分野にかかる改正法等がいくつか成立し、審議継続中のものもあります。衆議院の厚生労働委員会では、介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する決議も行なわれました。
ビジネスケアラーへの雇用側の義務を拡大
まず、内閣が提出した法案ですが、厚労省関係では「育児・介護休業法等の改正案」があげられます。同法案は、参議院本会議で可決・成立し5月31日に公布されました。同法案については、参議院での採決前の衆議院において全会一致で可決されています。
介護分野で注目したいのが、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等です(いわゆるビジネスケアラーへの支援)。具体的には、労働者を雇用する事業主に対して、以下の義務づけ等がなされました。いずれも、2025年4月から施行されます。
(1)労働者が「家族の介護が必要になった」という旨を事業主に申し出た時⇒事業主はその労働者に対し、介護休業およびその他の両立支援制度についての周知や利用意向の確認を行なうための面談等をしなければなりません。
(2)労働者が(第2号被保険者となる)40歳に達した時⇒事業主はその労働者に対し、介護休業・その他の両立支援制度についての情報提供や研修を実施しなければなりません。
(3)介護休暇について⇒労使協定によって「勤続6か月未満の労働者」の適用を排除できるという規定を廃止することになりました。
(4)家族を介護する労働者への事業者が講ずる選択的措置義務(短時間労働など)⇒ここに「テレワーク」を加えることを、努力義務として規定することになりました。
自治体等の支援対象にヤングケアラーを明記
次に、こども家庭庁に関連した法案として「子ども・子育て支援法等の改正案」があげられます。注目したいのは、子ども・若者育成支援推進法において、国や自治体、公益法人、NPO法人等が行なう支援対象に、「家族の介護、その他の日常生活上の世話を過度に行なっていると認められる子ども・若者(ヤングケアラー)」を明記したことです。
この場合の国や自治体等が行なう「支援」とは、必要な相談・助言・指導、生活環境の改善、修学・就業の援助などです。ただし、いずれも努力義務であり、「必ずこれをしなければならない」という規定はありません。
具体的な支援策をめぐる対応もこれからです。ただし、少なくとも国会制定法でヤングケアラーへの支援が明記され、その支援主体に国も含まれているのは大きな前進です。厚労省としても、今後「ヤングケアラー支援」に関して、何らかの施策上のアクションを起こすことが求められることになります。
ケアマネの業務範囲議論への反映が不可欠
その他、生活困窮者自立支援法等の改正案も4月17日に可決・成立しました。この中では、生活困窮者等の地域での安定した生活を支援するために、自治体による見守り支援等を努力義務としました。また、多様な複雑な課題を有するケースへの対応力強化を図るため、関係機関による生活困窮者向けの支援会議の設立等に関する規定も設けられています。
ちなみに、ケアマネをめぐっては、他法他制度へのかかわりの強化が進んでいます。今国会での一連の法整備に関連して、制定法にもとづく省令・通知等によるケアマネの新たな実務が増えてくる可能性もあるでしょう。
たとえば、育児・介護休業法等の改正で介護者を雇用する事業主の責務が拡大する中、「ケアマネと企業との連携」に関する新たな規定(例.企業からの相談への対応義務など)が設けられるかもしれません。ヤングケアラーや生活困窮者に対する支援策が拡充するとなれば、関連する地域の会議体・合議体にケアマネが組み込まれることも考えられます。
現在開催中のケアマネジメントにかかる諸課題検討会、あるいは来年の介護保険部会においては、ケアマネの実務範囲と処遇改善が大きなテーマとなるのは確実です。その際に、今国会の法改正を受けた省令等の行方を、どこまで加味するのかが問われます。
一方、支援策を担保するサービスの拡充は?
もう1つ重要なのは、ビジネスケアラーやヤングケアラーへの支援の枠組みが強化される一方、対象者のニーズを担保する介護サービスが整うのかという点です。いくら介護者に対する相談援助等が強化されても、地域で使える介護サービスが「足りない」となれば、支援の両輪が確立しないことになります。
そうした危機は、今年に入ってから介護事業所の倒産件数が急速なペースで伸びているという状況下で、現実となりつつあります。このもう一方の「車輪」を整えるには、経営環境が悪化している現場への支援が必要です。
この部分では、野党側が訪問介護への緊急支援法案や介護従事者等の人材確保の特別措置法案を提出しています。しかし、与党が多数を占める中、成立のめどは立っていません。
代わって、衆議院の厚労委員会では、サービス提供体制の整備も視野に入れた「介護・障害福祉従事者の処遇改善」に関する決議案を全会一致で採択しました。こうした委員会決議については法的な拘束力はありませんが、与党も含めた「全会一致」という点から、担当省庁として軽視はできないでしょう。
これが、たとえば補正予算のような対応に結びつくのかどうか。国会閉会後も、介護現場として注目したいトピックの1つです。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。