激変中のケアマネの業務環境。 現場のメンタルをどう保持するか?

ケアマネの業務環境が大きく変わりつつあります。吸収・合併による組織再編、デジタル化による業務改革、利用者ニーズの多様化による業務範囲の拡大、制度見直しによる担当件数の増大と実務の煩雑化など。変化の波が次々押し寄せる中、ケアマネの日々の悩みや心身の不調をどう解決するかが問われます。

取扱い件数の増加や吸収・合併で変わること

厚労省の介護給付費実態統計によれば、居宅介護支援費の請求事業所数は年々減少傾向にあります。一方で、受給者(利用者)数は依然として伸び続けています。本ニュースの分析にある通り、取扱い件数の緩和を活かしつつケアマネ1人あたりの担当件数を増加させたり、事業所の吸収・合併によって大規模化が図られているなどの要因が考えられます。

この場合、ケアマネ1人あたりの担当件数が増えるとなれば、1人ひとりの利用者との向き合い方も変わってくるでしょう。ICT等での効率化を図るにしても、重点的な利用者へのかかわりが必要な場面は常に存在します。どの利用者のどのようなケースに力を注ぐべきかなど、実務上のメリハリの判断とそのスピードがますます問われることになります。

また、事業所の吸収・合併といった状況に直面した際、その良し悪しは別として、それまでの業務風土が一気に変わることもあります。特に、なじみの薄いデジタル技術などが新事業所のスタンダードとなった場合、自身の仕事のあり方を大きく変えながら、それに合わせることも必要になってくるでしょう。

業務変化に「個人」で向き合わざるを得ない

いずれにしても、現場のケアマネとしては、急激に変わりゆく業務環境への対応力が強く問われることになります。しかも、法人の考え方や動向により、そうした対応の必要性が突然やってくるケースもあります。

ケアマネにとっては、実務をこなすための思考や個人的な仕事のフローを急転換させなければなりません。心や身体に負担がかかるのはもちろんですが、「環境変化に合わせられない自分の心情」をなかなか周囲に打ち明けることができず、変化に伴う悩みを一人で抱え込みがちになることもあるでしょう。

日々のケアマネジメント上の悩みであれば、それまでの業務風土の中で同僚と共有したり、ケース検討の場を随時囲みながら解決に向けて歩むという習慣はあったかもしれません。しかし、ケアマネ個人の「環境適応」となると、「合わせられるかどうかは個人の問題」とされがちな組織風土が常に付きまといます。

また、居宅介護支援では、ケアマネ数が4人以下という小規模な事業所が多いのが特徴です。それが合併・吸収等で一気に大規模化されれば、同僚同士の顔の見える関係下で業務課題をこなすという風土も変わっていきます。なおのこと「個人で向き合わざるを得ない」という空気が強くなるわけです。

「悩みの抱え込み」が解消されにくい風土

こうした時代変化を頭に入れたとき、事業所としては、ケアマネジメント上の課題のみならず、ケアマネ個人の環境適用に関する悩みにも積極的に対応するというしくみが必要になります。ただし、そうした組織風土が居宅介護支援にはまだまだ乏しいのが実情です。

介護労働安定センターの最新の介護労働実態調査によれば、居宅介護支援事業所における「相談体制の構築」について、「ない(あるいは相談できる雇用管理責任者が「いない」)」という割合は、他のサービス類型と比較して飛びぬけて多くなっています。

逆に、前職を辞めた人間関係に関する理由のうち、「上司の思いやりのない言動、きつい指導、パワハラなどがあった」という割合は、職種別でケアマネがトップです。こうした風土下で、「環境変化への対応力」などが問われることになると、ケアマネの「悩みの抱え込み」はなかなか解消されにくいでしょう。

地域の連絡会等で「悩みを語り合う」という機会はあるかもしれません。しかし、組織内の特有の課題を解決となると事業所ごとの対応が不可欠です。

処遇改善とセットで考えるべき寄り添い体制

まず、一定以上の規模の事業所で必要なことは、現場のケアマネからの内容を問わない相談窓口を常設すること。業務改革等で職場環境が変わる際には、対応人員を増やしたり相談対応マニュアルの見直しを図ることです。

小規模事業所の場合は、包括や保険者内に「ケアマネ相談ホットライン」を設け、制度改正などで業務が大きく変わる時期に、特に集中的な対応を図ることが望まれます。一部の自治体では、地域のケアマネ連絡会などに委託して相談窓口を設けていますが、これを全国的に広げることも必要でしょう。

現在、厚労省ではケアマネジメントにかかる諸課題検討会を開いていますが、「業務環境の激変時に対応する相談支援体制」などの強化も課題の1つとして位置づけたいものです。

ちなみに、ケアマネ不足への対応といえば、何より処遇改善が第一課題です。ただし、取扱い件数の緩和に象徴されるように、ケアマネが自らの働き方にひずみを加えざるを得ない状況が前提となるなら、そうした流れでの処遇改善だけではケアマネ人材のすそ野を広げていくことには限界があるでしょう。

ケアマネという職種は、他の医療・介護等の専門職と比較して歴史が浅く、制度が変わると社会的な位置づけやその理念に叶う働き方が常に揺れ動きがちです。その点を重視しつつ、1人ひとりの働き方の内面にどれだけ寄り添うことができるかが問われています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。