経営状況で浮かぶ「もう1つの訪問介護」。 まったく異なるカテゴリーと見るべき

独立行政法人・福祉医療機構が、2022年度の訪問介護の経営状況をレポートしています。2024年度改定前の決算状況をもとにしたものですが、近年の訪問介護がどのように運営されているのかという実情は浮かびます。利用者にとって重要な訪問介護は、これから先どのような道を歩んでいくのでしょうか。

黒字事業所と赤字事業所の違いはどこに?

2021年度と22年度で、訪問介護全体の経営状況を比較すると、コロナ禍からの回復もあってサービス提供回数が増え、サービス提供収益も増加しています。にもかかわらず、サービス活動増減差額比率(収益に対する利益の割合)が低下しているのは、2022年初頭からの物価上昇等の影響が考えられます。

全体における増減差額比率の低下はもちろんですが、それ以上に注目したいのは、黒字事業所と赤字事業所での増減差額比率の開きの大きさです。黒字事業所でプラス14.4%に対し、赤字事業所になるとマイナス15.9%。実に30%以上の開きがあります。

ちなみに、人件費率は黒字事業所で66.7%に対して、赤字事業所では何と93.6%。そして1月あたりサービス提供回数は、黒字事業所が赤字事業所の約2倍となっています。

ここから見えてくるのは、規模やビジネスモデルによる完全な二極化です。黒字事業所のビジネスモデルの傾向は、訪問の効率性を高めつつ、サービス提供回数を計画的かつ一気に引き上げていくというやり方です。

同一建物減算分を吸収できるビジネスモデル

ここから思いつくのは、サ高住や住宅型有料ホームなどに事業所を併設しつつ、顧客を獲得しやすい状況を作ることです。獲得しやすい状況というのは、いわゆる「利用者の囲い込み」も生じやすいことを意味します。

囲い込みが生じやすい状況が放置されれば、利用者のサービス選択権も損なわれやすくなります。そのため、こうしたビジネスモデルに対し、介護報酬上では同一建物減算を設けてけん制を図っていますが、本ニュースにもある通り、今調査から浮かぶのは「減算あり」の方が経営状況は良好なことです。

特に営利法人に着目すると、併設事業所ありの割合は、「減算あり」の方が「なし」の約2倍。1月あたりのサービス提供回数は、実に2.5倍となっています。減算分を、事業併設でサービス提供回数を伸ばしやすい環境によって打ち消し、さらに収益を拡大するというビジネスモデルが確立されているわけです。

特定事業所加算の取得率も高いという事実

加えて注目したいのは、やはり営利法人のケースですが、特定事業所加算Ⅰの算定割合が「減算あり」で「なし」の約3倍となっていることです。経験豊富な介護福祉士等の割合要件はもちろん、重度者要件をクリアしているという点で、移動の手間・コストが削減されている分、人材育成や重度者対応のノウハウ蓄積に経営資源を振り分けられるという傾向が見てとれます。特定事業所加算Ⅰが算定できれば、同一建物減算分の収益もさらに吸収できることになるでしょう。

もちろん、こうしたビジネスモデル自体は、利用者の選択権がきちんと保障され、地域ニーズを着実にくんだものであれば、一概に眉をひそめるものでもありません。

2024年度改定では、特定事業所加算の要件に「看取り対応の強化」が加わりました。これをきちんとクリアできるのであれば、これから増え行く地域の看取りニーズへの受け皿としての期待も高まる可能性があるでしょう。

問題なのは、こうしたビジネスモデルが、他の訪問介護のビジネスモデルと制度上では同列にとらえられたままという点です。

たとえば、移動の手間・コストが一定以上かかっても、地域に点在する利用者に対応するというのも、訪問介護の責務でしょう。このスタイルに先のビジネスモデルと同じ報酬体系を適用するのは、明らかに無理が生じているわけで、制度設計そのものを考え直すべき時期に来ているといえます。

訪問介護の報酬体系を根本から再編する必要

考えてみれば、そうした訪問介護のカテゴリー変化を軽視し、2024年度改定で一律に基本報酬を引き下げたのは、時代にそぐわない対応だったと指摘されても仕方ないでしょう。

確かに、中山間地域に居住する者へのサービス提供などの評価を明確化(あるいは、そのあたりを特定事業所加算でも評価)したり、同一建物減算に新区分を設けるなどの微調整は行われました。しかし、そうした微調整ではもはや対応できないのは明らかです。国は事業所の大規模化という流れの一環として、一方のモデルの切り捨てにかかったのではないか──そんな憶測も膨らみかねません。

今調査は2022年度なので、現在は「二極化にともなう赤字事業所の苦境」は限界レベルに達していることは容易に想像されます。もはや期中改定も望まれる状況ですが、その際には、訪問介護のカテゴリーを再編し、それぞれの実情に合った報酬設定を行なうことも同時に必要となるでしょう。

急伸するビジネスモデルで受け入れられない、たとえば併設建物への入居費用等を払えない利用者が、介護保険からこぼれていく──そうした状況下で、制度への信頼性が本当に維持されるのかを改めて考えたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。