民生委員等の人材をどう確保? ケアマネの地域連携にも大きく影響

現在、厚労省内で「民生委員・児童委員の選任要件に関する検討会」が開催されています。これは、地域が高齢化して民生委員等の適任者を探しにくい状況が生じる中、たとえばその地域に居住しない人も選任できるようにしてはどうかという政府案(閣議決定)を受けて、居住要件の緩和等を検討するものです。

ケアマネとしても視野に入れたいテーマ

地域課題が多様化・複雑化する中で、見守りや地域づくりの観点から、民生委員・児童委員などの役割も広がりつつあります。ケアマネとしても、ケアマネジメントを通じてインフォーマル支援を位置づける際に、民生委員等といかに連携するかというテーマを視野に入れているケースも多いでしょう。

その点について、まず調査研究を1つ取り上げましょう。2024年3月に、老人保健健康増進等事業の一環として「地域包括ケアシステムにおけるケアマネジメントのあり方に関する調査研究事業」の報告書が公表されました。そこで、直近1年間で他機関や地域団体と連携して対応したケースのうち、特に困難感や負担感を感じたものがあげられています。

トップが「利用者に認知症が見られるケース」、次いで「身寄りがなく在宅生活の継続に支障が出ているケース」、「利用者に精神疾患が見られるケース」という具合です。在宅生活の継続という観点では、いずれも介護保険サービスだけでは対応に限界があるという点で、ケアマネとしても常に多様な機関・団体等との連携が視野に入るケースでしょう。

民生委員等との連携は有効だが実際には…

こうしたケースで、実際に連携した先を見ると(複数回答)、包括が約8割、医療機関や介護サービス事業所・施設が約5割に対し、民生委員は2割にとどまります。一方で、包括向けの調査では、ケアマネが困難ケースに直面した際に、包括からつないだ連携先では民生委員が9割近くにのぼり、行政の障害福祉や生活保護部門とほぼ同率となっています。

こうして見ると、包括としては、いわゆる困難ケースにおいて「ケアマネと民生委員の連携が有効である」という認識は高いものの、ケアマネ側が実際に連携するという習慣はまだまだ乏しい状況が浮かんできます。

その背景には、利用者の個人情報の取扱いについての実務等が明確でないといったハードルもあるようです。もちろん、自治体によっては、ケアマネと民生委員の間の個人情報の共有について明確なルールや連携シートなどを定めているケースもあります。しかしながら、地域によっては、上記のノウハウが未だ確率していない状況も見受けられます。

民生委員等の選任要件を見直す動き

さて、そうした中での冒頭で述べた「選任要件の見直し」ですが、案として出ているのは、選任される民生委員等が担当区域に居住していなくても、過去に居住歴があったり、就業等でその地域と密接なかかわりがあるといったケースも要件に含めるというものです。

たとえば、親族等がその地域に住んでいて、一定頻度で訪れることが想定される人。あるいは、管轄地域の商店に勤務したり、マンション管理者を務めている人。さらには、管轄地の介護施設・事業所で相談援助業務に就いているといったケースも案に含まれています(ケアマネも対象となる可能性があります)。

もちろん、すべての市町村を対象にすることは想定されておらず、現に民生委員の定数を満たすことができていない、あるいは将来的に確保が困難と市町村が判断したケースが対象となりそうです。これを実現するとなれば、選任要件の緩和で委嘱された人が、地域の期待する民生委員等の役割を果たせるかどうかが問われるでしょう。

連携する職能側の意見も反映させる機会を

ただし、この選任要件の緩和案について、検討会の構成委員内では賛否が分かれています。たとえば、民生委員等の全国団体である全国民生委員児童委員連合会は、居住要件の変更には反対の姿勢を示しています。その理由として、在勤者などの場合、「緊急時を含め即応が困難」なケースが想定されることや、転勤・異動等による「委員活動の継続性に課題」があることなどを指摘しています。

賛成の立場の委員からも、在勤者の場合、自身の会社の商品やサービスの斡旋などが行われてしまうリスク(利益相反のリスク)の懸念があげられました。このリスクがあることで、個人情報が適正に取り扱われるかという不安も浮上することになります。

ケアマネの立場からしてみると、ネックとなりがちな個人情報保護の問題もさることながら、いざという時(利用者の安否等の緊急確認が必要な時など)に連絡が確実にとれて、円滑な連携対応がとれるかどうかが焦点となりそうです。今検討会でも、円滑な連携を目指す観点から、職能団体等を対象としたヒアリング機会も整える必要がありそうです。

いずれにしても、民生委員等に限らず、各地域の日常的な相談・支援の担い手不足はますます大きな課題です。地域ぐるみの支援ネットワークは、大きな再編の時期を迎えているのかもしれません。ケアマネとしても、支援を進めやすい地域環境や人材育成のあり方について、「ケアマネならどう考えるか」を地域の連絡会等で話し合う機会が望まれます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。