医療と比べて介護充実を求める声は絶大。 国民の危機感がどこにあるかに注目を

厚労省が、2022年の「社会保障に関する意識調査結果」の報告書を公表しました。同調査は、国民生活基礎調査の対象世帯から抽出した20歳以上の人を対象として、2022年7月に実施されたものです。公的な医療・介護保険などの社会保障に対する、男女別・年齢別の捉え方などが示されています。

「いざという時に頼るべきものは何か?」

本調査が実施されたのは、新型コロナウイルスの感染者数が急増した時期であり、公的な医療・介護のしくみを重要視するバイアスがかかりやすい状況がありました。とはいえ、そうした緊急時だからこそ、「いざという時に頼るべきものは何か」についての本音が出やすい環境にあったとも言えるでしょう。

そうした状況を頭に入れたうえで、今回の結果を見てみましょう。注目したいのは、各社会保険の「対象とする範囲」の考え方です。公的医療保険では、(1)「現在のまま」とする回答が62.1%でもっとも多く、(2)「税・保険料の負担が増えても、保険の対象範囲を広げるべき」が24.8%。(3)「軽い傷病や一般薬で対応できるものは対象から外すべき」という「範囲縮小」は、7.3%にとどまります。

一方、公的介護保険では、やはりA.「現状のまま(注.質問は上限額や自己負担割合を取り上げています)」が45.9%でトップ。次いで、B.「税・保険料の負担増となっても、サービス範囲を拡大する(注.上限額引上げや自己負担割合の縮小を行なっても…という“ただし書き”がついています)」が42.4%。C.「給付の範囲を減らし、自己負担増や家族の介護で対応する」は、わずか2.3%です。

現役世代でも「介護給付縮小派」は5%以下

この結果を見ると、両保険とも「給付範囲を縮小する」という考え方は1桁台にとどまります。興味深いのは、こうした縮小派の少なさは年齢層を通じた傾向だという点です。

公的医療の場合、確かに高齢者以外の縮小派は相対的に割合が高いですが、それでも現役世代の中心である40~49歳が11.0%という以外はすべて1桁です。しかも、所得収入が相対的に低く、保険料の負担感が高まりやすい20~29歳は7.5%で、現状維持派は63.6%にのぼります。この現状維持派の割合は、65歳以上の割合と同じです。

それ以上に縮小派が少ないのが、公的介護保険です。介護保険料の負担がない39歳以下はともかく、先の現役世代の中心である40~49歳で3.7%。それより上の世代になると50~69歳で1%台へとさらに減少します。このあたりは、親が要介護というケースが当てはまりやすい世代であり、公的介護保険への期待度の高さが現れていると言えるでしょう。

介護保険で目立つ「給付拡大」を求める声

公的介護保険に特化した傾向で興味深いのが、給付範囲の「拡大派(サービス充実派)」が「現状維持派」と拮抗しているという点です。年齢別でも、20~29歳を除くとほぼ全世代で共通しています。60~69歳になると、「拡大派(サービス充実派)」の方が「現状維持派」を上回っています。やはり、親の介護とともに、場合によっては配偶者の介護も必要になる世代だからかもしれません。

では、具体的にどんな部分の給付を充実してほしいと考えているのでしょうか。質問では、公的介護保険でまかなうべきか否かの議論が生じやすい(現に生じている)サービス内容を対象として、「どちらかといえば」という括りをそれぞれに入れつつ、「公的サービス中心派」と「私的サービス(自己負担)中心派」で大きく分けています。

本ニュースでは、給付削減の対象となりやすい生活援助について、「公的サービス中心派」が6割に達しているという状況を中心に取り上げています。これ自体を見ると、「生活援助は介護保険できちんとまかなうべき」という声が大きいと言えそうです。

介護基盤のぜい弱さを多くの国民が実感⁉

ただし、質問では「総合事業への移行」という話には触れていません。総合事業も一応介護保険の財源が使われている点では、「公的サービス中心派」の意向内に「総合事業も含まれる」と解釈されがちな面もあります。

今調査は「今後の厚労施策の企画・立案のための基礎資料」となりますが、上記の解釈がある限り、「軽度者の生活援助の総合事業への移行」という流れを押しとどめるには弱いと言えます。このあたりは、微妙に最新の論点を避けている傾向も見てとれそうです。

しかし、ここに先の「サービス充実派」の多さ、特に公的医療保険との比較で多さが目立つという点と絡めた時、先の「生活援助の総合事業への移行」などは、全世代を通じた声と逆行していることは明らかでしょう。

そのことは、生活援助に限らず、サービス全般に対する給付の拡大、そして介護報酬の引き上げ、さらには介護従事者の処遇改善という意向にも直結します。もう一度生活援助の話に戻すなら、訪問介護の報酬引下げへのアンチテーゼにもつながります。

いずれにしても、「サービス充実派」の多さは、介護サービス基盤のぜい弱さを多くの国民が実感していることに他なりません。2024年度からの保険料アップ前の調査とはいえ、ビジネスケアラーやヤングケアラーが増大する中、先の危機感がむしろ盛り上がっていると考えられます。この点を今後の介護保険部会等の議論に活かせるかどうかが問われます。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。