いきなり迫りくる総選挙⁉ 苦境の訪問介護は争点に浮上するか?


内閣総理大臣が変わり、10月中の解散総選挙の意向も打ち出されました。総選挙となれば、2025年度予算編成を間近に控える中で、社会保障のあり方も大きなテーマの1つとなるでしょう。特に大きな危機を迎えているのが地域の介護資源であり、中でも訪問介護への支援策が注視すべきポイントの1つです。

「基本報酬の引下げ撤回」はあるか?

訪問介護については、事業所の倒産ペースが過去最速となり、厚労省としても「訪問介護」を対象とした対策を、2025年度予算の概算要求に盛り込まざるを得ない状況となっています。一方で、署名活動なども活発化している「基本報酬の引下げ撤回」をにらんだ期中改定については、総選挙をはさむことでさらに先が読みにくくなっています。

ここで、改めて訪問介護が直面している厳しい状況について確認しておきましょう。

先だって、サービス別の受給者状況などを示す「介護給付費実態統計」の2023年度結果が公表されました。居宅系サービスの受給者数の伸びが依然として際立つものの、気になるのは「訪問介護」の受給者数の伸びにブレーキがかかっていることです。

コロナ禍における通所系・短期入所系の休止等で訪問介護の累計受給者数が伸びていた状況もありますが、伸び率が3%台→2%台→1%台と急速に落ち込んでいるのは、「利用したくても(事業所不足で)利用できない」という背景も想定されます。

訪問介護が整ってこそ他サービスも機能

仮に訪問介護の資源減少が受給者状況でも顕在化しつつあるとなれば、在宅で暮らす利用者にどのような影響が及んでいるかを精査することが早急に必要となります。

たとえば、利用者の重度化リスクというのは、「住み慣れた環境下」での「連続した生活の状況」から読み取れる部分が多々あります。熱中症リスク等を考慮した場合の室温・湿度調整はどうなっているか、必要な水分摂取を行なうための台所までの移動はどうか、屋内での転倒リスク等を防ぐような環境が継続的に整っているのかどうか──という具合です。

これらを専門職の視点で把握でき、その気づきから(ケアマネ等を通して)早期の対応につなげられるといえば、やはり訪問介護の存在が欠かせません。通所系・短期入所系の場合は、いったん「連続している生活の環境」から離れるため、その場での本人の状態把握という「点」での把握・対応に限られがちです。通所系等の役割も重要ですが、あくまで訪問介護との両輪で機能するものでしょう。

近年は訪問看護の受給者数が急速に伸びていますが、訪問看護ステーション数は訪問介護事業所数の3分の1ほどに過ぎません。利用者の連続した生活におけるリスク把握を担うにしても、訪問介護があってこそ、初めて機能するという部分も大きいでしょう。

「期中改定」が争点となった場合のポイント

つまり、訪問介護資源が地域によって枯渇することになれば、それは他のサービスに本来求められる機能にも影響することになります。訪問介護の存立は、居宅介護サービス全体の機能を左右すると言っていいでしょう。

その点に着目すれば、基本報酬を引下げ、新たな処遇改善加算の加算率引き上げだけで対応するという施策では、居宅サービス基盤を整えるうえでの力感はどうしても乏しくなります。そもそも、新処遇改善加算の加算率最上位であるⅠの算定は、居宅系サービスで6割にとどまります(9団体調査より)。基本報酬が引き下げられた中でⅠの算定が進まないとなれば、必要な人員確保という点でも、早晩運営が行き詰まる事業所は増えそうです。

では、仮に期中改定によって「基本報酬の引下げを撤回する」という流れになったとして、どのような手段が考えられるでしょうか。総選挙を控えた争点を展望するうえでも、予測されるポイントを押さえておきましょう。

規模や併設事業等を考慮した基本報酬区分等

まずは、早期の実態調査が前提です。つまり、収支差率を押し上げているサ高住等併設(同一法人で運営しているケース含む)の事業所と「それ以外」の事業所を明確に分けて精査すること。この区分けのうえで、規模別の経営状況を明確にすることも必要です。

そのうえで、収支差率の厳しいカテゴリー(規模や併設事業の有無・種類など)に対して、期中改定による報酬を引き上げるという方法が想定されます。「期中改定が難しい」という場合であっても、たとえば報酬引き上げ分を公費による「運営支援金」のような措置で充て、それをそのまま2027年度改定に反映させる方法もあるでしょう。これは、訪問介護以外の訪問系サービスも視野に入ります。

さらに、「訪問系サービスの調整がどれだけ難しくなっているか」を明らかにするため、ケアマネを対象とした実態調査を行なうことも望まれます。特に厳しい地域については、補正予算等で「訪問系サービスのマッチングシステム」や、災害時のような「都道府県間・保険者間の人材支援のしくみ」の構築に向けた財政支援も必要になるかもしれません。

このような施策ビジョンを、迫りくる総選挙で各党がどこまで打ち出せるか。介護現場としても、総選挙の一大争点へとクローズアップさせるだけの声を上げたいものです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。