
財務省の財政制度分科会で、2025年度予算および次期制度改正などを視野に入れた議論が進んでいます。介護分野では、「ケアマネジメントへの利用者負担導入」などの継続的なテーマがかかげられる一方、給付の適正化に向けた新たな問題提起も見られます。
サ高住等における居宅療養管理指導のあり方
今回取り上げるのは、サ高住等における居宅療養管理指導の適正化です。これまでもサ高住等に対しては、同一の建物に居住している利用者への介護保険サービスについて、囲い込みや過剰サービスが指摘されていました。
今年4月の財政制度分科会では、以下のような問題提起がなされています。特養や介護付き有料老人ホームのような「包括報酬」よりも、サ高住等で「外付けサービス」を使う方が「多くの報酬を得ることが可能になっている」という具合です。
ただし、当時の分科会では特定のサービスをターゲットにしているわけではなく、上記のようなケースでの区分支給限度基準額の見直しを求めるというものでした。具体的には、介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)の報酬を「利用上限とする」という改革案が示されていました。サービスにかかる報酬の総額を問題にしていたわけです。
これに対し、今回は居宅療養管理指導という具体的なサービスのあり方が取り上げられました。具体的な指摘としては、財務省が行なう予算執行調査から、「画一的な利用があり、ケアマネや自治体が適切に関与できていないこと等により、不適切な介護給付が発生していることがうかがわれる」というものです。
近年の給付拡大もターゲットの一因か?
居宅療養管理指導については、ご存じの通り、ケアマネによるサービス調整や給付管理、区分支給限度基準額の対象外で、医師の指示にもとづいて提供されるサービスです。
とはいえ、ケアマネの関与がまったくないわけではなく、居宅療養管理指導の事業所には、ケアマネに対してケアプラン作成に必要な情報提供が義務づけられています。2021年度改定では、この情報提供に関して「ケアマネジメントへの活用」を進める観点から様式の見直しも行なわれました。
もっとも、これは「ケアマネへの情報提供」のしくみであり、財務省としては、上記で述べた「サ高住等における画一的な利用等」の抑制にはつながっていないというわけです。こうした指摘の背景には、サ高住等におけるサービス提供のあり方もさることながら、居宅療養管理指導そのものの給付額が近年大きく伸びていることもありそうです。
たとえば、費用額の伸びで見ると、過去10年で約2.5倍。2023年度の介護給付費実態統計でも、年間費用累計が100億円超えのサービスの中では、対前年度比で唯一10%以上の伸びを記録しています。他サービスと比べて利用者1人あたり給付費はわずかですが、伸び率の大きさから財務省のターゲットにすえられた可能性は高いと言えるでしょう。
区分支給限度基準額に「含める」案も浮上?
今回の財務省が示す改革の方向性(案)ですが、サ高住等の入居者に対するサービス提供時において、「ケアマネによる給付管理が適切に行なわれ、自治体による適切な運営指導が行われるよう、制度の運営やあり方について検討が必要」というものです。
真っ先に想定されるのは、現行で居宅療養管理指導が区分支給限度基準額に含まれていないという部分の見直しです。仮に同基準額に含めるとなれば、医師が「どの程度のサービスをどこまで適用するか」という判断に制限をかけられることになるからです。
そうなると基準額内での他サービスとの調整が必要になり、医師としても、そこまでの調整を担うのは拒否反応が強いでしょう。このあたりは業界団体の力差により、医師による「居宅療養管理指導の提供」の指示にもとづき、ケアマネが全サービスを基準額に収まるように調整する可能性が高くなります。
いずれにしても、医師との間で調整のための話し合いを重ねる必要が出てくるなど、ケアマネの実務負担を増やす流れとなりかねません。ケアマネの業務負担軽減が大きなテーマとなる中では、そこまでの改革に踏み込むのは非現実的という声も高まりそうです。
ケアマネにとっても嫌なムードが漂う論点
もう1つ考えられるのは、医師が指示する「居宅療養管理指導の必要性」が適切かどうかを自治体(保険者)が集中的にチェックすることです。居宅療養管理指導はケアプランに位置づけられないケースもありますが、たとえば「居宅療養管理指導もケアプランに位置づけること」を義務づけたうえで、ケアプラン点検に際しての重点的なチェック項目として位置づけるなどが考えられます。
これにより、ケアマネジメント全体の中で、居宅療養管理指導が整合性をもって位置づけられているかをチェックすることになります。仮に、整合性に疑問がある場合には。その時点で指示を出した医師に対して保険者等が改めて確認を取るという流れが想定されます。
もっともこちらの場合、ケアマネとしては医師と保険者の間で板挟みになる可能性があり、やはり嫌なムードが漂います。ケアマネとしては、この財務省の動きを軽視することなく、今後の議論に注目することが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。