若い世代に広がる⁉「介護業界離れ」。 2025年には「世代間対立」の危惧も

年の瀬に、介護保険部会および介護給付費分科会が同時開催されました。介護保険をめぐる厳しい状況が強まる中、2040年を見すえた新たな検討会の立ち上げも告知されています。今回は介護保険部会の議論に焦点を当てつつ、特に現役世代の負担や介護人材確保をめぐる課題に改めてスポットを当てます。

介護福祉士養成施設への日本人入学者最少に

12月23日の介護保険部会で厚労省が提示した「介護保険制度をめぐる状況」の資料で、委員からも「衝撃的」という感想が出たデータをまず紹介しましょう。それは、介護福祉士養成施設の定員充足状況です。

それによれば、2024年の入学者数は7,386人、定員充足率は52.5%で、いずれでも前年より伸びています。ただし、養成施設数、定員数ともに2008年以降で最低を記録し、それが定員充足率の伸びにつながっています。

また入学者数のうち外国人留学生の割合は48.6%とほぼ5割に達し、同割合が調査対象となった2019年以降で最多を記録。逆に言えば、日本人入学者は割合・人数ともに最少となりました。もちろん、実務ルートで介護福祉士を目指す人もいますが、日本人の若い世代が「介護」という仕事を選ばない傾向が急速に高まっている可能性があります。

日本人入学者の急速な低下が始まったのは2022年ですが、「やはり」と言うべきか、同時期の物価上昇および介護業界の他産業との賃金格差拡大とほぼリンクしています。

物価上昇ペースなどは、2024年後半からさらに著しくなっています。さらに、2024年度の賃金引上げ率は、春闘の全産業の平均賃上げが5.1%に対し、介護業界は2.52%と約2倍の開きがあります。そうした中では、来年以降も若い世代の人材が「介護」から離れていく流れを押しとどめるのは困難を極めます。

政府は応急的な施策を次々打ち出したが…

そうなると、政府としてもいよいよ期中改定による処遇改善加算の上乗せを視野に入れてくる可能性があるでしょう。今般、補正予算によって1人あたり5.4万円の賃金引上げ策に乗り出しました。また、処遇改善加算では、2025年度からの職場環境等要件のハードルアップに1年間の猶予措置を設ける等の措置を緊急的に講じることとなりました。

これらの施策を見ると、補正予算による対策が一時金であることも含めて、ある意味応急的な処置に過ぎません。4月からの昇給時期でさらに他産業との賃金格差が拡大する状況を想定すれば、上記の応急処置をベースとしつつ、期中改定など何らかの上乗せ策が、年明けの通常国会でも論点となるでしょう。

注意したいのは、介護人材の他産業への流出を抑えるうえで、仮に期中改定を行なうにしても1回では足りないことです。たとえば、他産業の賃上げ状況を見つつ、2027年度までに複数回の改定が必要になることも考えられます。実際、それくらいの踏み込みがなければ、今の状況を変えることは難しいでしょう。

さらなる処遇改善に必要な財源も大きな課題

頻回の期中改定などが行われるとすれば、その財源をどうやってまかなうかも大きな課題となります。介護保険計画期間中は介護給付費準備基金の取り崩しといった手段も取ることになるでしょうが、物価上昇や他産業の賃金上昇の先行きが見えないとなれば、2027年度の保険料改定への影響も甚大です。

その場合、第1号保険料の高騰もさることながら、現役世代(40~64歳)が対象となる第2号保険料の設定も大きな議論となるのは間違いありません。すでに今回の介護保険部会でも、今国会でいわゆる「103万円の壁」をめぐる議論などの影響もあり、現役世代の負担問題にふれる意見が目立ちます。

たとえば一部の委員からは、保険料負担の増大に関して「介護保険財政における公費と保険料の構成割合や、保険料の負担者層の見直し」を論点とするよう求める意見も上がりました。毎期の介護保険部会で浮上する論点ではありますが、今期はこの時点から議論がヒートアップする予感が漂っています。

現役世代の負担増とその子ども世代への影響

このように、「さらなる処遇改善を進めなければ、介護業界から人がいなくなる」⇒「現状を打開する規模の処遇改善を行なえば、現役世代も含めて保険料がさらに高騰する」というジレンマはさらに深くなっています。

問題なのは、現役世代(2号被保険者)の保険料が高騰すると、その子ども世代の経済状況にも影響しやすいことです。今回の「103万円の壁」問題などで、若者の生活状況の厳しさがクローズアップされましたが、ここに親世代の保険料高騰が加われば、「できるだけ賃金の高い業界への就職」が、人生設計での一義的な条件となる傾向はさらに高まります。

これがさらに進むと、若い世代の間で「介護業界に進まない」だけでなく「介護保険そのものの必要性に疑問を投げかける」という空気が生まれる恐れもあります。その過熱により、不毛な世代間対立も生じかねません。

そうした懸念も見すえた時、介護保険部会などでは、特に財源構成のあり方に向けた本格的な議論は不可欠でしょう。「経済格差などから生じる不毛な世代間対立」をいかに抑止するか、そのための国民的な議論をどのように広げていくか──介護業界としても、2025年はこの点を一大テーマとしつつ、若い世代との対話を深めていくことが望まれます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。