居宅介護支援の協働化・大規模化が急速進行。 生身の働き手でもあるケアマネの未来は?

厚労省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会では、多様な論点・課題が示されました。中でも具体的な改革の方向性が示された1つに、「サービス維持に向けた事業者間の連携、協働化・大規模化」があります。この推進は、現場従事者、特にケアマネにどのような影響をもたらすでしょうか。

2040年に向けても協働・大規模化は主テーマ

将来に向けた事業の協働化・大規模化については、先に成立した2024年度の補正予算でも、「後押し」となる施策が示されています。

たとえば、複数事業所の協働による人材募集や一括採用、合同研修等の実施、事務処理部門の集約等を実施する際に、必要な経費等の補助を行なうというもの。また、大規模化にともなう老朽設備の更新・整備を行なう際の支援策もかかげられています。

こうした施策が先行することで、冒頭に述べた「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」でも、各種支援策等(社会福祉連携推進法人等の制度も含む)の活用をいかに推進するかを、当面の明確なテーマに位置づけやすくなったと言えるでしょう。

もっとも、こうした施策強化の以前から、現場レベルで事業の協働化・大規模化は進行しつつあります。経営・運営の環境が厳しくなっている訪問介護もさることながら、「1人ケアマネ」などの運営形態が根強い居宅介護支援で、協働化・大規模化の流れは、これから本格的に加速することになりそうです。

居宅介護支援事業所の減少にも大規模化の影

象徴的なのが、2024年末の介護給付費分科会で示された自治体アンケートの結果です。居宅介護支援事業所の「休廃止数」と「新規開設数」等が跳ね上がり、大幅な事業所の入れ替えが進んでいる状況が浮かんでいます。

全体としては、事業所減が進むことにより担当件数が追いつかなくなる危機が懸念されます。一方で、事業全体の大規模再編が進み、地域のケアマネジメントを担う環境そのものが変わりつつあるという状況も垣間見えます。

たとえば、「1人ケアマネ」などの小規模事業所は淘汰が進みやすい状況にあるとともに、何とか「踏みとどまっている」という事業所でも、給付管理業務や研修開催などを事業所間の協働で行なうなど、運営環境が大きく変わりつつあることに注意が必要でしょう。

特に昨今の改定では、特定事業所加算の要件や運営基準の見直しで、事業所で行なうべき研修や委員会の開催が急増しています。これらが契機となって、事業所間の協働が増えたり、一足飛びに他法人の吸収・合併による大規模化も進んでいる状況もあるでしょう。現場のケアマネにとっては、自身が所属する体制そのものが激流下にあるわけです。

もし自事業所が大規模法人に吸収されたら…

そうなると、ケアマネ1人1人の働き方やケアマネジメントへの向かい方、それにともなう利用者への影響がどうなっていくのかを注視しなければなりません。国としても、事業の協働化・大規模化を推進する施策を議論する際に、「従事者の働き方」や「利用者への影響」を明確な課題とすることが不可欠です。

たとえば、自事業所が他法人に吸収・合併された場合、そこで働く従事者(ケアマネ)にとっては、「仕事の流れやしくみ(例.デジタル連携のあり方など)」はもちろん、「ケアマネジメント上で何を重視するか」という業務方針が変わることもあるでしょう。

このあたりは、吸収・合併先の法人の種類が影響することもあります。営利法人から医療法人や社会福祉法人へと母体が変化するだけでも、今までの仕事のやり方が通用しないなどということも生じかねません。

すすんで「転職する」場合と異なり、自身の職業人生で「選択の余地が限られる」という状況が入り込むのは、自ら描くキャリアステップに影響を与えることもあるでしょう。

担当ケアマネの所属法人変更で、利用者は?

また、すでに一定の利用者がついている事業所が吸収・合併されるとなれば、利用者・家族は「今まで通りに対応してくれるのか」、「いきなりケアマネ交代ということはないか」といった不安も高まりがちです。

もちろん、多くは漠然とした不安かもしれません。しかし、事業所やそこで働くケアマネと利用者側との信頼関係は、利用者側に「困りごと」が蓄積している状況下では、微妙なバランス上に成り立っている面もあります。

吸収・合併を主導する側の法人が、そのあたりをきちんと理解していないと、ケアマネジメントの連続性が途切れる恐れもあります。確かにケアマネは「さまざまな困難を解決するプロ」ではありますが、同時に「組織に所属する人」でもあります。そこに少しでもケアマネが困惑する状況が発生すれば、利用者の生活の質にも影響を与えかねません。

それは、協働化においても例外ではありません。現場のケアマネジメント実務以外の負担軽減を目指すうえで、採用や事務業務、研修等の協働化は確かに有益でしょう。しかし、国や自治体が一方的に「協働化ありき」の方策を打ち出せば、そこでは現場の意を無視した「ひずみ」が生じる危険があります。

ケアマネジメントの現場は常に「生きて」いて、そこで働くケアマネは「1人の人間」であるという認識を持ちつつ、国と現場がいかに対話を継続できるか──2040年に向けた改革では決して忘れてならないことです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。