ケアマネのための実践ガイド:独居高齢者のゴミ出し支援と社会資源活用について その2

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在宅で一人暮らしをする高齢者のゴミ出し支援について、皆さんはどのように対応されていますか?特に介護保険のサービスだけでは対応できないケースでは、頭を悩ませることも多いのではないでしょうか。地域によって自治体支援の有無が異なり、サービスが受けられない場合は解決策が見つからないこともありますよね。

この記事では、ケアマネジャーを対象に実施した「ゴミ出し問題への対応」に関するアンケート結果と、実際のインタビューから見えてきた社会資源構築のヒントをご紹介します。今回の記事は2編構成です。第1編では、アンケートから明らかになった課題や対応策のヒントをお届けします。そして第2編では、アンケートにご協力いただいた方々へのインタビューを基に、実際に社会資源を活用してゴミ出し問題を解決した事例をご紹介します。この記事が、皆さんの地域で社会資源を探し出し、効果的に活用するきっかけになれば幸いです。ぜひ最後までお読みください!

>>第1編の記事はこちらから

インタビューから見えてきた ゴミ出し支援解決

今回の記事作成にあたり、ケアマネドットコム会員のケアマネジャーさんを対象に「ゴミ出し支援」に関するアンケートを実施、その中でインタビューに承諾いただけた2名の方にお話を伺っています。お2人は、それぞれ異なる方法で社会資源を活用し、ゴミ出し支援の課題を解決された経験をお持ちで、大変参考になる事例を伺うことができました。

事例1: 北海道函館市 「お隣さん」の協力によるゴミ出し支援

ケアマネの声
ケアマネBさん
利用者Aさんのお隣さんがとてもいい方で、ゴミ出しのお手伝いを買って出てくださいました。在宅生活の大きな支えになりました。
利用者情報
利用者 Aさん 女性
  • 年齢 80代
  • 要介護1 独居 糖尿病の悪化で人工透析寸前の状態
  • 全身のむくみで歩行困難
  • 在宅での生活を強く望んでいた
支援の内容
  • お隣の方(80代男性)が玄関のゴミを収集場所まで運ぶ支援
  • ヘルパーも可能な範囲で対応
  • ゴミを一時的に保管できるスペースを活用し、ゴミ出し回数を減らす

 

支援が始まったきっかけ

Aさんは糖尿病が進行し、人工透析が必要になる一歩手前の状態でした。体調も不安定、全身の強いむくみによる歩行困難で身の回りのこともままならず、ケアマネジャーBさんは施設入居も提案しましたが、Aさんは「絶対に入りたくない!」と強く拒否されました。これからの自宅での生活に向け、体調や生活調整のためショートステイを利用し、しばらくぶりに自宅へ戻ったところ、Bさんの訪問に合わせて隣人の男性が「電気が消えていたので心配だった」と声をかけてきたのだそうです。

Bさんが簡単に状況を説明すると、隣人の方から「ゴミ出しに困っているのでは?」と申し出てくださり、隣人協力でのゴミ出し支援が始まりました。北海道という土地柄、Aさん宅の玄関には雪国仕様のガラスで囲まれたスペースがあったため、そこにゴミを出しておけば隣人が収集場所まで運んでくれることになりました。

継続のための工夫

友人や近所の方のような個人にゴミ出しをお願いする際には、なるべく負担を減らすことが大切です。そのため、Bさんはゴミ出しの回数を減らす工夫を行いました。Aさんの自宅には裏口にゴミを置ける一時スペースがあり、そこにためておくことでゴミ出しの回数を減らすことができました。

さらに、訪問介護の生活援助の日とゴミ出しの曜日が一致する際には、その機会を活用することで効率的に対応しています。Bさんは「工夫次第でゴミ出しの回数は減らせると思う」とお話しされており、負担軽減のためのアイデアを実践している様子がうかがえます。

ケアマネの声
ケアマネBさん
工夫してゴミ出しの回数を減らし、お隣さんの負担を減らすようにしました。

 

その他の支援

他にも何か支援を受けたことがあるか尋ねたところ、隣人がAさんの自宅前の雪かきも手伝ってくれていたことが分かりました。函館市は雪が多く、積雪するとタクシーに乗るために雪かきをしなければ道路に出られないことがあるため、隣人の支援はとても心強かったそうです。こうしたお隣さんの協力は、Aさんの在宅生活を送るうえで大きな助けとなりました。

地域とのつながるためのヒント

近隣の方からこのような支援を無理のない範囲で受けられるのは、本当にありがたいことですね。では、どのようにすればつながりを生み出し、関係性を深めることができるのでしょうか?

Bさんにお聞きしたところ、最初は「特に工夫はしていない」とおっしゃっていました。しかし、インタビューを進める中で、訪問途中にご近所の方に会った際には、必ず挨拶を心がけていたことがわかりました。この「挨拶」がきっかけで会話が始まることも少なくなかったそうです。今回のインタビュー中もBさんは親しみやすい口調で質問に答えてくださり、「ケアマネジャー自身が話しかけやすい雰囲気を持つことが、つながりのきっかけをつくるために重要である」と感じました。

また、このケース以外にも、しばらく入院することになった利用者さんが住むアパートの大家さんに挨拶に行ったことがきっかけで、退院後には大家さんが毎日の安否確認を行ってくれるようになった例があったそうです。

ただし、ここで注意すべき点として、守秘義務の重要性が挙げられます。Bさんも「近隣の方であっても、ご本人の同意がない限りは情報を話さないことが大切だ」と強調されていました。こうした配慮が、信頼関係を守る上でも欠かせないと言えますね。

ケアマネの声
ケアマネBさん
近所の方との挨拶は大切ですが、必要以上のことは話さないことも心がけています。

 

ご近所の支援も本人の強み それを見つけるエコマップ

今回の支援について、利用者さんとお隣さんの関係性についてBさんに尋ねたところ、「それまで深い交流はなかった」とのことでした。知らない間に利用者さんのことを気にかけている方が近隣にいることが分かった、興味深い事例です。

そんな「隠れた強み」を見つけるために、エコマップの作成はいかがでしょうか?エコマップとは、本人を中心にどんな社会資源とつながっているのかを表すネットワーク図のことで、関係性の強弱を視覚的に表現できることが特徴です。

エコマップを活用して、利用者さんの交友関係について話をするのも良いきっかけになるでしょう。たとえば、「近所にどんな人がいるのか」「挨拶を交わす相手はいるのか」といったことを共有することで、意外なつながりを見つけるきっかけになるかも知れません。

また、「アセスメント」のもう一つの役割は、社会資源を探すことです。本人の強みを支える「人」「もの」「情報」「サービス」といった資源に目を向けることで、さまざまな可能性を引き出すことができるでしょう。こうしたアプローチを通じて、隠れた資源を見つけるきっかけが生まれるかもしれません。

エコマップの書き方

エコマップは、利用者を中心に、どのような人や資源、サービスとつながりがあるかを図に起こすツールです。関係性の強弱や質を視覚化することで、利用者の生活や支援の全体像を把握しやすくなります。ここでは、ケアマネジャーが実践しやすいエコマップの作成方法を紹介します。

まず、エコマップの中心に利用者の名前やイラストを描きます。その周りに、利用者と関係する人(家族、友人、隣人など)やサービス(訪問看護、ヘルパー、地域団体など)を円状に配置し、関係性を線で表現します(エコマップの記入例参照)。

エコマップの記入例

実際にエコマップを描いてみると、利用者を中心にした社会資源のつながりだけでなく、社会資源同士の関係も視覚化されることが分かります。これにより、普段見落としがちな「隠れた支援者」や「新たな協力の可能性」に気づきやすくなりますね。

エコマップは、利用者を取り巻く環境を再確認し、「気づき」を得るための大切なツールです。利用者がどのように社会とかかわっているかを知り、支援を広げる一歩として活用してみてはいかがでしょうか。

事例2:広島県東広島市 地域福祉活動を支えるネットワークを自ら形成

ケアマネの声
ケアマネCさん
地域の問題は地域全体が協力して解決出来たらいいな、と思って活動をはじめました。
支援の内容
  • 同じ地域で福祉に携わる多職種がネットワークを立ち上げ専門職のボランティア団体を設立、地域住民が協力して地域の困りごとに取り組んでいる。
  • 自分ではゴミ出しができず、自治体のサービスが適用されない人には、民生委員と自治会長が連携してゴミをゴミステーションまで運ぶ支援をしている
  • ゴミ出しに限らず、地域のさまざまな困りごとを柔軟に解決するためのネットワークを構築し、メンバーが日々楽しみながら取り組んでいる

 

支援が始まったきっかけ

地域のサービス稼働率が低く、各サービスが利用者の取り合いをしている状況に疑問を抱いたケアマネCさんは、「地域全体で協力して問題を解決すべきだ」と考え、多職種や地域住民との連携を模索し始めました。社会福祉協議会(以下:社協)の担当者に声をかけたところ、担当者も、地域の困りごとの声が上がってこないことについてちょうど悩みを抱えており、社協を主催にして、ケアマネジャーさんの定期的な意見交換を始めたそうです。

開催当初は愚痴も多かったそうですが、そのうち、ゴミ出し問題を含む地域課題について具体的に話し合う場が自然に形成されていき、専門職のボランティア団体の設立につながりました。現在は認知症カフェや見守り活動、災害時のボランティア活動など、幅広く活動しているとのことです。

ケアマネの声
ケアマネCさん
メンバーは居宅・施設ケアマネ、保健師、社会福祉士、障害サービスの相談員、保育士、針きゅう師、プロの掃除屋さん‥困りごとがあっても多方面で知恵を絞れば何か解決案が浮かびます。

 

地域に助けてもらう秘訣は「お互い様」

活動を始めてから間もなく、専門職が地域の課題について話し合う中で、地域福祉の要である民生委員が孤立し、地域の課題に対処する負担が重くなりがちであることに気づいたCさんたちは、民生委員をサポートするための活動を開始しました。

定期的な情報交換の場を提供したり、福祉専門職や自治会が協力して、民生委員が対応しきれないケースを一緒にサポートする仕組みを構築。また、精神的負担を軽減するために相談窓口を設け、問題解決に必要な支援や行政機関に「つなぐ」役割を専門職が担うようになりました。

安心して活動できるようになった民生委員さんたちは、今やこの活動に欠かせない頼もしい存在だそうです。「地域の方々は地域から逃げられない、だから専門職が介入して負担を軽減する」というお話がとても印象的でした。

 

ゴミ出し支援の具体的な内容

困っているという情報が入ると、団体の専門職が担当のケアマネジャーや民生委員さんと一緒に動き、どう解決していくかのゴールを話し合います。必要に応じて、自治会長さんやご家族との話し合いの場もセッティングします。

この「最初の介入」というのが自治会などではなかなか勇気がいることで、専門職としての支援が必要なポイントでもあるそうです。その後、行政のゴミ出しサービスが適用であればそれを利用したり、難しい場合は自治会など地域でのサポート方法を検討します。

担当のケアマネジャーさんと自治会長さんに関係性ができたら、自然にバトンタッチしていき、課題があればまた関わる、という方法で、地域の自立した活動をサポートしているそうです。

地域とつながるために

Cさんの地域では、現在「みんなで地域をよくしていく」という活動が根付き、困りごとを解決するために、できる時にできる人が楽しんで参加する流れがすっかり定着しています。また、地域とメンバーが所属する介護保険事業者との間に信頼関係が築かれたことで、本業である介護保険サービスの利用率も向上しているそうです。

このような取り組みは非常に素晴らしいものですが、こうした地域の形ができるまでには、長い年月をかけた努力と取り組みがあったとのことです。

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ケアマネジャーができること

では、地域のケアマネジャーとして今からできる一歩とは何でしょうか?考えてみましょう。

利用者の「地域のキーパーソン」を見つける

事例1では、担当のBさんは、ゴミ出しの支援が始まるまでお隣さんの存在について知りませんでした。支援が始まるまで深い交流関係があったわけでもなかったそうですが、実はAさんの生活をそっと見守ってくれていたことが分かります。

ケアマネジャーはアセスメントの際、利用者さんの生活歴や家族の状況についてはよく把握する一方で、地域で挨拶を交わしたり、たまに会話をする程度の相手については見落としがちです。利用者さんと一緒に、ご近所の方や民生委員さんについてお話ししてみるのはいかがでしょうか?それが、地域のキーパーソンを見つけるための小さな一歩になるかもしれません。

地域の中に出向き、お互い様の関係性を築く

事例2では、Cさんが社協の担当者に地域づくりの相談を持ち掛けたところ、担当者も同じように、地域から具体的な課題の声が上がってこないことに困っていたということがありました。

地域には「困っている人がいれば助けたい、この地域をもっと良くしたい」と考えている方々がいます。しかし、困っている人の存在に気づけなければ、その想いを形にするきっかけを逃してしまうこともあります。そうした方々を知るために、地域の活動に参加してみるのはいかがでしょうか?新たなつながりを築くことで、地域の社会資源を構築する第一歩になるかもしれません。

また、地域の方々も多くの悩みを抱えています。専門職としての視点で支援することで、「お互い様」の意識が生まれ、住みやすい地域を目指した協力の輪が広がるでしょう。地域の一員として一緒に取り組むきっかけをつくってみてはいかがでしょうか。

ケアマネジャーは多忙な業務の中で、利用者さんや介護保険サービスの担当者以外との接点が少なくなりがちです。しかし、利用者さんが暮らす地域に目を向け、地域のつながりを意識して接点を持つことで、思いがけない社会資源や新たな支援の可能性が見つかるかもしれません。

地域の力を活かし、利用者さんの生活をより豊かにするための第一歩として、ぜひ「地域とのつながり」という視点で利用者さんとお話してみてください。