2040年に向けて福祉用具も大転換⁉ ケアマネジメントのあり方にも影響が

介護保険の福祉用具貸与のあり方が大きく変わる?──厚労省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」で示された課題・論点から、そうした可能性がうかがえます。具体的には、訪問系サービスにおいて、「現場業務の負担軽減」の面で福祉用具を活用していくという考え方が示されたことです。

福祉用具の目的に「従事者の負担軽減」⁉

福祉用具貸与や特定福祉用具販売については、要介護者等の日常生活上の便宜を図る、あるいは機能訓練のための用具であって、要介護者等の日常生活の自立を助けるためのものと、介護保険法で定められています。

上記の「日常生活の便宜」には、家族介護者の負担軽減を通じて、居宅生活の継続を図る意味合いもあります(介護保険制度創設時の社会保障審議会の「考え方」より)。実際、体位変換器や認知症老人徘徊感知機器、排せつ予測支援機器などは、家族の介護負担の軽減でも重要な役割を果たす機器と言えます。

そして、その延長には、訪問系サービス等の従事者の負担軽減にも寄与する場面もあるでしょう。しかし、「従事者の負担軽減」を中心的な目的とした福祉用具の導入は、介護保険上は想定されていません。

今回、厚労省が検討会で示した論点のように、仮に「現場業務の負担軽減」を福祉用具貸与等の目的へと明確に位置づけるとなれば、介護保険の福祉用具の「選定の判断基準」にも影響を与えるかもしれません。

家族介護者の負担軽減との両立もあるが…

選定に際しては、現状でも「介護者の介護力等」が留意点に入っています。それはそのまま「従事者の負担軽減」という視点と両立することもあるでしょう。

仮に利用者が自力での移乗や移動が困難として、家族がその介助をすることで身体に大きな負担がかかり、事故や腰痛のリスクが高まるとします。そこでは、たとえば「床走行式リフト(立ち上がりから車いす、トイレ等の移乗を連続的にサポートするもの)」などの導入が提案されることもあるでしょう。

これがあれば、高齢化で腰痛リスク等も高まりがちなホームヘルパーにとっても、業務負担の軽減に資するはず。ただし、レンタルでも、他の福祉用具と比較して利用者負担がやや高めになりがちです。いざという時の事故を気にする家族としては、使用時の見守りニーズにもこだわる可能性は高いでしょう。

その「費用負担」に抵抗があり、家族がいつもいるわけではない──となれば、そうした機器を「利用」より、「訪問介護のみ」の利用を優先させるかもしれません。ケアマネとして「推奨」はするものの、本人や家族が「当面はいらない」となれば、導入に至らないといったケースも起こりうるでしょう。

「従事者保護」で利用者の納得は得られる?

そうなると、ヘルパー側の負担軽減のニーズは「置き去り」となってしまいます。若い人材の参入が厳しく、ヘルパーの年齢層が上がっている状況では、こうした福祉用具の導入が叶えられるかどうかは、事業者としても今後は切実な問題となりがちです。

そこで必要になるのは、介護保険の福祉用具の選定基準の中に、「従事者保護」を明記することです。もちろん、その土台として、介護保険法の改正でも福祉用具の目的に「従事者保護」を位置づけたり、介護従事者保護法のような基本法も必要になるかもしれません。

もっとも、ここまで環境を整えたとしても、そもそも「利用者負担」は発生します。なので、「従事者保護」が介護保険制度の理念に据えられたとしても、そのことに利用者側がどこまで納得できるのかという問題は残ります。

「従事者のため」という理念では、すでに処遇改善加算分の利用料上乗せが発生しています。ここに「福祉用具の追加」が発生するとすれば、ケアマネにとって、「いかに納得してもらうか」が大きな負担となりかねません。

補助金だけでは恒久的な支援として弱い

こうした状況を考えれば、介護保険法等に福祉用具貸与に「従事者保護」の視点を組み込むとしても、その際に利用者負担が増えないしくみも同時に考慮される必要があります。

利用者負担に影響を与えない視点に立つなら、すぐに思い浮かぶのはやはり公費による補助金事業です。たとえば、2024年度の補正予算では「訪問介護等サービス提供体制確保支援事業」があります。これらの活用範囲を拡大し、居宅での「従事者保護」に資する福祉用具の導入にあてる方法もあるでしょう。

しかし、各年度の予算は、いつまで続くかは見通せません。今後のヘルパーの「保護」を恒久的なものとするなら、いかに介護保険の枠内に組み込むかも論点となります。

今後は、たとえば従事者が装着するパワードスーツなども進化していくでしょう。そうしたニーズも高まることを想定すれば、その導入費用を補助金でまかなうのか、介護保険の福祉用具の対象に含めつつ、利用者負担の軽減を図る方向で施策を展開するのか。検討機会を本格的に設けていくことが望まれます。

また、そうした時代に「ケアマネジメントはどうなるのか」も問われます。「利用者の自立支援・重度化防止」や「家族の負担軽減」に、「従事者保護」という視点が加わった時、ケアプランの目標設定のあり方なども変わってくるかもしれません。ケアマネとしても、中長期的に頭に入れておきたいテーマです。

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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。