
2027年度の介護保険見直しに向けた議論では、「相談支援等のあり方」が優先的に取り上げられています。相談支援での課題といえば、ケアマネの専門性の発揮に向けた処遇改善や業務範囲の整理なども重要なテーマです。
「業務範囲」の整理によるケアマネ負担軽減
昨年末の「ケアマネジメントにかかる諸課題検討会」の中間整理では、多岐にわたるケアマネの業務範囲が整理され、介護保険部会の議論でも整理案が提示されています。
その中間整理では、法定外業務について、「地域課題として地域全体で対応を協議すべきもの」であり「基本的には市町村が主体となって関係者を集めて協議する」としています。これを土台とすれば、次の制度改正では新たな協議体の設立などが図られそうです。
仮にこうした協議体などが設けられたとして、実際のケアマネの業務負担がどこまで軽減されるでしょうか。この点は、現場実務に沿った視点での考察も必要でしょう。
市町村主体での何らかの協議体などができれば、利用者のニーズで「法定外の支援」を要するとなった場合、ケアマネはその協議体などに「つなぐ」ことになります。ケアマネ単独での対処等が解消される点では、確かに一定の業務負担軽減は期待できるでしょう。
ケアマネの専門性が活かされる範囲とは?
ただし、それによってケアマネが対象となる利用者への対応から離れるわけではありません。そもそも、法定外支援の必要性が浮上するケースの多くは、ケアマネジメント実務における課題分析の結果にともなうものです。
仮に法定外支援の「手配」は協議体等が行なうにしても、課題分析の結果として把握したニーズにもとづくなら、ケアプランへの記載も必要となります。自立支援に向けた同じニーズ領域の中に、法定内・外の支援が併存するというケースもあるでしょう。
その延長として、モニタリングにおいても、「法定外支援」が課題解決に向けて機能しているかどうかという評価も必要です。確かに、個々の法定外支援がうまくいっているかどうかは、その支援を手がける機関の役割かもしれません。しかし、支援そのものが利用者の課題解決に結びついているかどうかを評価するのは、ケアマネの役割となります。
こうして見ると、法定外支援の調整・手配という部分での業務範囲の軽減は期待できますが、「ケアマネの専門性が活かされる範囲」までが縮小されるわけではありません。
ケアマネの負担軽減効果を測る場合の注意点
上記の点を頭に入れたうえで、ケアマネの実務データに注目してみましょう。
2月20日の介護保健部会で示された資料の中に、ケアマネ1人あたりの「1か月間の労働投入時間」を調査したデータが上がっています。1か月間に事業所でどのような業務をこなしたかを調べた、いわゆるタイムスタディ調査です(2022年度老健事業より)。
業務別の割合では、A.「ケアプラン作成」が22.5%(36.2時間)でトップ、次いでB.「利用者や介護サービス事業所、他機関との連絡業務」で11.1%(17.9時間)、C.「モニタリング」で10.2%(16.4時間)となっています。
冒頭で述べた業務範囲の明確化と、それを促すしくみが整備された場合、確かにBの業務時間はある程度軽減されるかもしれません。
一方で、ACについては、業務範囲の明確化だけで業務負担は軽減されるものではありません。このあたりの負担軽減効果をきちんと見極めないと、ケアマネの業務評価と処遇改善の議論にゆがみが生じる危険があります。
もう1つ注意したいのは、先のタイムスタディにおいて、「(利用者宅の訪問に際しての)移動・待機」が7.0%(11.2時間)と全体の第4位にランクインしていることです。
訪問前「待機」でも専門性は発揮されている
「移動」とは、もちろん事業所と利用者宅の往復(複数の利用者宅を巡る場合は、その移動も含む)にかかる時間です。一方、「待機」については、本調査で明確に定義されていませんが、「利用者宅の訪問」に関連する業務と位置づけられていることから、アポで設定された時間までの「待機」と考えられます。
ただし、その間ケアマネが「何もしていない(時間が来るのを待っている)」わけではありません。訪問に向けた準備(例.持参するものや訪問時の留意点を確認する、頭の中で面談時のシミュレーションを行なうなど)も、当然含まれることになります。
そして、「訪問時の留意点の確認」という部分には、先のモニタリングの話でいえば、「法定外支援の効果」も視野に入ることになります。つまり、この「待機」でもケアマネの専門性は発揮され、やはり業務範囲が整理されても業務負担の評価は動かせないわけです。
そもそも、この「待機」時間が、重要な業務の一環として基本報酬上で適正に評価されているのかという問題もあります。
この点については、たとえば訪問介護の「移動・待機時間」について、厚労省は2021年に「労働時間に該当する」旨の通知を発出しています。しかし、「待機」に関する専門性の評価が明確でないゆえに、介護報酬上での位置づけは依然としてあいまいです。
こうしたそもそもの問題を含め、ケアマネの処遇改善に際しては、「業務範囲」という形にとらわれず「専門性が活かされている範囲」をしっかり掘り下げることが求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。