
厚労省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会が、これまでの議論にもとづいた検討の方向性案を示しました。さまざまなポイントがある中、ここで注目したいのは、2027年度改定でさらに大きな動きが予想される「認知症ケア」についてです。
認知症基本法が介護保険の議論も大きく左右
認知症ケアに関しては、2024年1月に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行され、同法にもとづいた「認知症施策推進基本計画」が同年12月に閣議決定されました。国会制定法にもとづく基本計画という位置づけから、2026年の介護保険法改正や2027年度の報酬・基準改定において、他テーマ以上に強く反映されるのは確実です。
その認知症ケアにおいて、重要な軸となるのは、やはり本人の尊厳保持です。尊厳が保持されている状態とは、当事者にとっての「自分らしい生き方」を主体的な意思決定にもとづいて実現していくことに他なりません。そのためには、「自分らしさ」を阻害するうえでの「困りごと」を適時適切に解決していくための切れ目のない支援が不可欠です。
ただし、口で言うほど簡単なことではありません。地域ごとの認知症ケアパスのあり方なども議論されていますが、その人にとっての「困りごと(課題)」を的確に把握・分析し、当事者と一緒に解決へ近づくための道筋(必要な支援とのマッチングなど)をいかにつけていくかが問われます。その道筋においては、「入口」時点で、困りごとの本質やその程度をしっかり評価できるしくみも必要です。
介護保険の入口である要介護認定のあり方
支援における「入口」といえば相談援助ですが、たとえば介護保険による支援につなぐとなれば、要介護認定も含まれます。
問題は、現状の要介護認定が「認知症の人の困りごと」の状況を的確に反映できているかという合理性です。認知症によって本人が生活のしづらさを感じているにもかかわらず、それが認定に反映されず、必要なサービス給付が確保されないケースも指摘されています。
国は2009年に要介護認定の判定ロジックを見直し、認知症の高齢者にかかるケア時間を加算しました。ただし、一次判定のベースとなるタイムスタディが施設での測定であるなど、在宅の認知症高齢者の状況がどこまで反映されているかという懸念は残っています。
また、認知症の人の尊厳保持にかかるサービスの必要量という観点から、「介護の手間」を基本とする要介護認定のあり方の抜本的な見直しも必要かもしれません。認知症基本法の成立によって「本人視点の尊重」が重視される中では、特に問われるポイントでしょう。
改革工程に盛り込まれた認知症の要介護認定
ご存じの通り、要介護認定に関しては、先に閣議決定した規制改革実施計画で改革工程が示されています。ほとんどは認定の迅速化にかかるものですが、「(認定の)科学的合理性の確保」というテーマも上がっています。
具体的には、以下の通りです。A.認知症の利用者についての認定調査項目等の検討、必要に応じて見直すこと。B.一次判定データについて、在宅介護、通所介護等の幅広い介護サービス利用者のデータを追加しつつ、現行データを更新することも含め検討すること──というものです。いずれも、2024年度中に検討を開始し、2027年度からの実施に間に合わせるスケジュールとなっています。
改革の内容によっては、先に述べた「認知症の人の在宅を含めた生活上の困りごと」を解決する視点につながるかもしれません。上記のスケジュールに沿えば、専門の検討会等を経るとしても、今年の介護保険部会の議論の目玉となる可能性もありそうです。
要介護1・2の給付議論も絡んでくる?
理由は、認知症基本法ができたという背景に加え、財務省の推す以下の論点が再び浮上しつつあるからです。言うまでもなく、「軽度要介護者(要介護1・2)の生活援助等を総合事業によって提供する」というものです。
仮にこれを実現するとなると、要介護1・2でも認知症日常生活自立度IIb以上の人が一定以上いるという現状が大きな問題となります。仮に総合事業の移行が「生活援助だけ」だとしても、専門職の関与が揺らぐ懸念もある中では、認知症の人の生活の支えが折れかねないという不安はなおも高まるでしょう。
こうした不安は今期の議論でも大きくなるのは確実です。それでも押し通すとなれば、一定の見守り等が必要な認知症であれば、「確実に要介護3以上となる(あるいは、要介護1・2でも給付から外さない)」といった保障なども論点になるかもしれません。
そもそも、認知症基本法に則った制度のあり方を議論する中で、認知症の人も多い「軽度者」の給付外しは基本法に抵触するのではないか──という見方もあるはずです。そうした矛盾に直面すれば、厚労省としても、認知症の人の要介護認定のあり方を抜本的に見直す方向に踏み込まざるを得ないでしょう。
認知症カフェやピアサポーターなど、認知症施策では「地域共生社会」というテーマのもとで、多様な主体による支えが数多く示されています。しかし、それらは介護保険を「代替え」するものではありません。介護保険における「入口」を含め、認知症の人の困りごとにきちんと向き合える改革となるのかどうか、2027年度までの道筋が問われます。
【関連リンク】
介護サービスの運営基準の弾力化を検討 厚労省 地域の実情に合う効率的なモデルを構想 - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。