法定研修時間は「業務時間」である── 厚労省も周知を促すが浸透には課題も⁉

2027年度の介護保険見直しに向けては、介護保険部会でケアマネの法定研修のあり方も論点の1つとなっています。特に現任者の更新研修については、現場からの不要論や緩和論も根強く、議論が紛糾する可能性もあります。今後の改革のステップがどうなっていくかについて、現状の動きとともに展望します。

介護保険部会で、課長会議で…注目の動き

更新研修のあり方に向けた議論では、直近で注目する動きが見られました。

それは、2月20日の介護保険部会に、日本介護クラフトユニオン会長が出席し、ケアマネをめぐる処遇改善や業務負担軽減について言及したことです。具体的には、「ケアマネの処遇改善の必要性」を訴えるとともに、以下の3点の具体化を求めました。

A.業務遂行上不可欠である法定研修は労働時間として取り扱うこと。B.研修費用は公費負担とすることを検討すること。C.更新制の廃止も含めた研修体系・研修のあり方を抜本的に見直すこと──というものです。

この発言に反応したのかどうかは不明ですが、厚労省も上記に関係した自治体への周知を行なっています。それが、3月7日の全国介護保険・高齢者福祉担当課長会議の資料です(今年度の同会議は、資料掲載のみ)。

対象箇所は、認知症施策・地域介護推進課資料の41ページ。そこにある「介護支援専門員の法定研修等」の中で、研修費用に関して、地域医療介護総合確保基金によるメニューや教育訓練給付制度の活用(10月以降は専門研修課目が拡充される予定)の周知をうたうほか、先のAに関連した文言も見られます。

法定研修時間の取扱いで、通知改正も?

具体的には、更新研修を含む法定研修について「業務時間として位置づけていない事業者も一定数存在するものと承知しており、こうした事業者に対して、更新研修等、参加することが業務上位置づけられている研修については、労働時間として扱うよう、管内事業者への周知をお願いしたい」というものです。

こうした指摘は、先の介護保険部会での発言はもとより、ケアマネジメントにかかる諸課題検討会でも課題として指摘されたことも背景にあると考えられます。ちなみに、諸課題検討会で示された調査結果では、「業務時間扱いとならない」が22.5%にのぼっています。

もちろん、現場のケアマネにとっては「今さら」感のある課題かもしれません。とはいえ、こうした課題を厚労省が取り上げられたことが重要であり、制度上でも何らかの動きが出てくる可能性は高いと言えます。
たとえば、今後の通知改正で「事業者の責務」として明記されることが予想されます。

また、これはあくまで仮定ですが、仮にケアマネに処遇改善加算などが適用されるとして、その要件に上記の「業務時間の位置づけ」が厳格に定められるかもしれません。

在宅で分割受講した場合の「業務時間」扱い

ただし、こうした流れの中で注意すべきこともあります。それは、厚労省がさまざまな研修負担の軽減を打ち出すとして、そこに新たな課題が生じる場面も出てくることです。

たとえば、オンライン受講の推進です。現在でも全科目でオンライン受講を可能にしている都道府県が多数ですが、ここにオンデマンドによる分割受講のしくみが加わるとします。その場合、ケアマネとしては「在宅での受講」も可能となります。実際、今課長会議の資料で、厚労省も「在宅等で研修を受講しやすい環境」の整備を促しています。

仮に「オンライン」による「オンデマンドでの分割受講」が可能となり、在宅の受講環境が大きく進んだとします。では、そのケースでの受講時間も「業務時間」の扱いとして徹底されるのか。この課題が浮上します。

もちろん、受講時間は決められていますから、厚労省としては「介護現場におけるリモートワーク」の規定をもって「業務時間」と位置づける通知を出すことになるでしょう。

在宅受講の通信環境や分割受講時の証明は?

問題は、事業者側の考え方です。すでにリモートワークにかかる業務規定が明確に定められている事業所であれば、さほど問題にならないかもしれません。一方で、セキュリティとの絡みで「リモートワーク(在宅での業務)は認めない」という事業所もあります。

当のケアマネとしても、リモートワークについて、家にその通信環境が整っていない場合に「事業所がwi-fi等を支給してくれるのか」といった点が問題となるでしょう。つまり、在宅での研修受講が「業務時間」として位置づけられた場合でも、環境面でのコストの問題が残ることになります。このあたりは、厚労省としても事業者やケアマネ向けのガイドライン等を示すことが必要になりそうです。

仮に在宅でのオンラインによる分割受講が可能になった場合、その他の課題として、受講証明書などをどのように発行するかといった点も気になります。国や自治体で何らかのシステムを構築するとして、そのアクセス等を在宅で行なうケアマネ側に混乱が生じないようにするための配慮も必要になります。

いずれにしても、まずは在宅受講を含めて「業務時間」とする必要性を業界全体に浸透させることが必要です。次に、ケアマネ側にコスト面や操作面で不利益が生じないためのしくみをどう構築するか。こうした手順がしっかり踏めるかどうかが問われます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。