
2024年度介護報酬改定にかかる効果検証等の委員会で、訪問介護事業所を対象とした調査結果が示されました。改定前後での収入変化の状況や訪問回数、職員の過不足の状況など、多様な視点からデータがあがっています。
事業継続困難レベルの収入減が3割前後に
本ニュースでも上がっている通り、訪問介護をめぐる今調査の注目は、2024年8月時点での「対前年同月比の介護保険収入の状況」です。これは、2024年度改定をはさんだ前後の収入変化を端的に示したものです。
見逃せないのは、「90%未満」が中山間・離島等で33.8%、都市部で36.1%、その他の地域で26.8%にのぼっていることです。
介護事業、特に訪問系は人件費割合が高く、コスト削減が効きにくい構造があります。そうした中では、仮に対前年度比95%であっても、倒産・撤退に至るだけの経営リスクとなります。「90%未満(中には80%に近い数字もあるかもしれません)」となれば、もはや介護保険だけでの事業継続は困難でしょう。
その高リスクの「90%未満」が3割前後に達しているというのは、地域の利用者のピークアウトや競合過多といった環境要因だけでは説明できません。2024年度のマイナス改定が影響しているのは間違いなく、その点では施策上のミスと言わざるを得ないでしょう。
直近の「課題対応」を困難にした基本報酬減
ちなみに、2024年度の基本報酬の単価の引き下げ幅だけを見ると約2%です。それを大きく超えた収入減となっている点では、確かに基本報酬の引下げだけでは説明がつかない部分もあるかもしれません。
ここで考えたいのが、単純に他の環境要因が積み重なるのではなく、「基本報酬の引下げ」が引き金となって、他要因の影響を受けやすい経営体質が生じていることです。
たとえば、本調査では「サービス提供について感じている課題」を質問した項目があります。それによれば、A.独居の利用者が多い、B.利用者のニーズが多様化している、C.人手不足により利用者へのサービスの提供回数を調整している──がトップ3となっています。
見方によっては、この3つは関連しています。「独居の利用者」が増えれば、長時間や早朝夜間、あるいは保険外サービスを含めた「ニーズの多様化」が生じやすくなります。
それに対応するには、従来以上の「手厚い人員」が必要ですが、人手不足となればニーズに対応するのは困難です。結局は利用者ニーズとの十分なマッチングができないまま、訪問回数が全体的に少なくなったり、場合によっては利用者確保につながらないという状況に至るケースが増えることになります。
処遇改善加算UPだけでは対応できない状況
つまり、基本報酬減で人員確保が難しくなれば、変動する地域ニーズへの対応が滞り、利用者確保が必然的に困難となります。
ニーズ変動の中での「確保困難」ですから、解決に向けては処遇改善加算による数%の賃金引上げでは足りません。たとえば、現任の従事者が高齢化する中、早朝・夜間訪問や長時間訪問を増やすとすれば、夜間・早朝訪問加算分等をそのまま手当にするといった対処を取らない限り、事業所内で従事者の合意を得ることは難しいと言えるでしょう。
ところが、基本報酬が下げられたわけですから、改定前のニーズ対応分の手当を維持するとなれば、事業所の持ち出しも必要になるケースも生じがちです。処遇改善加算の基本は、あくまで産業界全体のベースアップに追いつくためのお金ですから、この加算だけでまかなおうとすれば、他サービス・他産業への人材移動などを引き起こしかねません。
「一歩の先読み」はなぜ反映されない?
こうして見ると、基本報酬の設定は経営実態調査の数字に加え、一歩先を読んだ「利用者のニーズ変化」や現任者の年齢・体力等に応じて「現場の負担に報いることができるかどうか」を読み込むことが必要になります。そのうえで、持続的なサービス提供が可能になるだけの上乗せ設定を図らねばなりません。
2024年度改定では、住宅型有料やサ高住等の併設・隣接事業所の経営状況を混在させたという点で、これも大きなミスと指摘されています。この修正を前提としたうえで、先に述べた「一方先の状況」に適合するだけの業界環境の整備を編み込みながら、基本報酬を再設定することが求められるでしょう。
国民の保険料上昇を招く改定で、一歩先という不確定な状況を持ち出すのは困難──という声もあるかもしれません。しかし、厚労省はすでに2040年という先々を見すえた、介護ニーズ分析を行なっています。15年先の分析が可能なら、先に述べた「一歩の先読み」はもっと確実な分析は容易のはずです。
制度の信頼性そのものが損なわれる危険も
他産業と比べても、介護分野は人件費率が高い業界です。そうした業界を左右する報酬設定では、「現場で働く人に報いつつ、その人々を育てる」というビジョンが不可欠です。それがなければ、特に物価上昇が著しい中、現場従事者の「労働と生活のバランスが取れない」という状況はますます大きくなります。
利用者にとっても、高い保険料を払っているのに、「(対応できる人員がいないことで)サービスが使えない」という事態が深まれば、制度の信頼性そのものが損なわれかねません。「いかに従事者に報いるか」という原点に、もう一度立ち返ることが求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。