介護報酬の期中改定&賃金・物価スライド。 要請の大波は政府に届く? 今後の展開は?

4月14日の介護給付費分科会で、2024年度改定の効果検証等調査の結果が示されました。委員からは、直近の物価上昇による経営状況の悪化や他産業との賃金格差からなる人手不足の加速を懸念する声が大きく、早急な追加的財政支援を求める声も上がっています。

全国市長会が改定期前の報酬見直しを要請

本ニュースでも上がっている通り、今分科会での注目の1つに、全国市長会所属の委員から、3月17日に厚労省に提出された緊急要望の内容が紹介されています。

この緊急要望は、地域の医療機関や介護・障害福祉施設に対する緊急の物価高騰対策等を求めたものです。要旨は2つ。1つは、緊急の財政支援を行なうこと。もう1つは、各サービスの報酬に関して、改定期(介護報酬であれば2027年度)を待たずに、必要な見直しの仕組み等を導入することです。

国としては、前者に関して重点支援地方交付金の追加策を打ち出しています。しかしながら、全国市長会側は「必ずしも十分ではない」と指摘したうえで、さらなる財政支援に加え、介護報酬改定期のあり方にも踏み込んだ要望を打ち出した格好です。

もちろん、介護報酬の引き上げは、地域住民の保険料負担の増大とともに自治体の財政負担にもつながります。全国市長会の過去の要望や提言を見ても、「国費負担割合の見直し」などの前提が付されています。2012年度に処遇改善交付金が介護報酬に組み込まれる際にも、国による継続的な措置(保険料等への影響が及ばないような措置)を求めていました。

こうした過去のスタンスと比べ、自治体首長側が前提抜きで「期中改定」まで見すえた報酬引き上げを求めるのは異例です。それだけ、各首長の地元で介護サービス基盤の危機が切迫していることを意味しています。

自治体、業界、与野党も期中改定を望むが…

期中改定については、2024年11月に全国老人福祉施設協議会などが与党・自民党に提出した「賃上げ・物価高騰対策等に関する要望」でも示されました。具体的には、介護報酬改定サイクルの中間年に、介護報酬および基準費用額について賃金・物価スライドを導入することです。同様の要望は、今年1月に日本GH協会も財務大臣宛てに出しています。

国会内でも、参議院の有志の会が賃金・物価スライドによる期中改定を厚労大臣に提出したほか、厚労省や関係団体から期中改定をめぐるヒアリングを実施する動きもあります。

また、何度かニュースでも触れた通り、今国会で野党が訪問介護緊急支援法案を提出しています。対象は訪問介護ですが、ここでも「次回(2027年度)の改定を待たずに、報酬改定を行なう」ことが目指されています。この改定を行なうとなれば、実質的に賃金・物価上昇が考慮されることになるでしょう。

このように、自治体、業界団体および国会内の与野党ともに「期中改定」の機運が急速に高まっていることが分かります。しかしながら、政府の動きは一向に「期中改定」を見すえたものとはなっていません。

政府はあくまで既存施策ベースの対策を継続

たとえば、4月14日の介護給付費分科会で周知されたのは、主に訪問介護事業への支援を念頭に置いた既存施策です。内容は、「処遇改善加算の要件の弾力化」や「2024年度補正予算による支援策」、そして先に述べた「重点支援地方交付金によるメニュー追加」など。

ここに追加されたのは、通知改正による以下の施策です。「中山間地域等における小規模事業所加算の要件弾力化」や「訪問介護における研修体制の構築支援について、対象経費の拡大解釈おおび早期執行」、「小規模法人等の協働化・大規模化の取組み支援にかかる要件の弾力化」となっています。

さらに、本ニュースの通り、福祉医療機構による物価高騰等の影響を受けた施設に対する優遇融資の拡充もプラスされています。

一部既存加算の要件弾力化は見られますが、基本報酬を含めた報酬単価の上乗せなどは図られていません。つまり、介護報酬には原則として手をつけない施策が中心であり、うがった見方をすれば、「期中改定」の流れを何とか押しとどめたいという意図も垣間見えます。

夏の参議院選挙前に状況が一転する可能性も

二の足を踏む政府の姿勢を見る限り、やはり期中改定への流れは期待できないのでしょうか。期中改定のためには、当然補正予算の編成が必要です。これについても、政府は物価高騰対策などに向けた補正予算は「編成しない」旨を示し、やはり既存施策の範囲で行なうという考え方を主としています。

ただし、先に述べたように、政府外および業界レベルでは、期中改定を求める機運はかつてないほど高まっています。

また、一部報道によれば、指定訪問介護事業所が「ない」という自治体が100以上にのぼったというショッキングな事実も判明しました。また、今回の効果検証調査では、2024年に休止・廃業した事業所数について、訪問介護もさることながら居宅介護支援がそれを上回るという事態も明らかになっています。

もはや地域に必要な介護資源の維持は限界に達しています。さすがに政府としても早晩「期中改定」に向き合わざるを得ないはずです。夏の参議院選挙を前に現場の声もさらに高まるのは確実で、そのタイミングで状況は一転するかもしれません。現場からの「もう一押し」のアクションが重要になりそうです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。