
2024年度改定の効果検証の中から、再び改定後のサービス事業所の休廃止について取り上げます。訪問介護の休廃止もさることながら、今回は居宅介護支援の休廃止増に注目します。休廃止の加速トレンドが続く時代に、事業所としてどのような対処が必要でしょうか。
要介護者増との逆ベクトルがもたらす深刻さ
今回示された自治体調査のデータを改めて確認します。2023年と2024年のともに6~8月の比較において、居宅介護支援事業所の休廃止数は「583⇒615」と約5%増となりました。全事業所数に対する割合は約1.7%で、訪問介護の約1.5%を上回っています。
ちなみに、2023年と2024年のそれぞれ8月時点の要介護(要支援)認定者数を比較すると、「703.9万人⇒718.5万人」で伸び率は約2%。本来はこの数字に対応できるだけの事業所数の伸びが必要となりますが、現実のベクトルはまったく逆を示しています。
となれば、ニーズとケアマネジメントの乖離はますます進む恐れがあります。すでに地域で「担当できるケアマネおよび居宅介護支援事業所が見つからない」というケースも目立ちつつあります。ちなみに、国は要介護認定期間の短縮を図ろうとしてますが、認定が早まっても「入口となるケアマネジメントにたどり着けない」ケースも増えかねません。
「利用者の移行」が常態化するとどうなるか
問題に直面するのは、「これから介護保険を使い始める人」だけではありません。たとえば、「利用していた居宅介護支援事業所が休廃止に至った」ことにより、他事業所に「利用者が移る」というケースもあります。こうしたケースが常態化すれば、休廃止を要因とする「移行」にどう対処するか、地域全体でノウハウを確立する必要も出てくるでしょう。
居宅介護支援事業所の閉鎖に際しては、保険者に廃止届が出されるとともに、担当している利用者の移行先についての報告も求められます(様式・方法は自治体による)。一般的には、他事業所に対して利用者の受入れをお願いすることになるでしょう。
ただし、今後地域で休廃止の事業所が増えてくれば、受入れもそう簡単には行きません。移行先候補となる事業者も、逓減制にかかる担当上限をオーバーする懸念が付きまといます。もちろん、中山間地域等での事業所不足などで、やむを得ず受け入れる場合の例外規定はあります。しかし、ケアマネ不足で現場に過剰な負担がかかるのを嫌がる事業者としては、受入れを断る場合もあるでしょう。
こうした地域での受入れハードルが高まれば、やはり保険者主導、もしくは保険者と地域の事業者団体およびケアマネ連絡会等との連携による調整がどうしても必要です。
事業所の休廃止が地域ケア会議の課題にも⁉
たとえば、保険者の中には、地域の居宅介護支援事業所がどれだけの利用者を担当しているか、利用者の「移行」が生じる場合、今以上に受け入れる余力がどれだけあるかを随時ヒアリングしているケースも見られます。
平時からのこうした蓄積とともに、地域で休廃止に直面している事業所がどの程度あるのかを、運営指導やケアプラン点検などの機会に確認することも必要になりそうです。自治体にとって地道な取組みを要しますが、地域ケア会議の場などでも定期課題として上げていく時代かもしれません。
2027年度には、先のケアマネジメントにかかる諸課題検討会の取りまとめを受けて、ケアマネの業務負担軽減に向けた新たな協議体などが義務づけられる可能性があります。そうした機会においても、事業所の休廃止増にどう対応するかという点を、常に論点化していくことが求められるでしょう。
「引継ぎ」体制の強化に必要なしくみとは?
そうした居宅介護支援事業所との協議機会に加え、もう1つ必要なのが、「事業所を移行する利用者」の増加を想定し、事業所間の「引継ぎ」マネジメントを円滑化するしくみです。
当然ながら、「引継ぎ」の際には、それまで執行していたケアプランのほか、事前のアセスメント情報、サ担会議の議事録、直近の支援経過記録などが、引き継がれた先の事業所に提供されることになります(個人情報の取扱いは、利用者の承諾が前提となります)。
ただし、これらを事業所間のやり取りだけに任せると、休廃止する側のケアマネがすでに退職したり、管理者に多くの引継ぎ業務が集中しているなどの状況も考えられる中で、どうしても情報共有の質もバラつきがちです。
そうなると、やはり保険者側が「引継ぎ」をサポートするしくみも必要です。また、引継ぎ時に利用者側に心身の負担がかかりやすいことを想定すれば、その課題対処に向けた相談窓口の設置(カスタマーハラスメントなども一時的に増大する可能性あり)やガイドラインの策定も求められるでしょう。
さらに国の責務としては、「引継ぐ側」の負担を考慮し、初回加算だけでなく「休廃止事業所からの引継ぎ」の負担を評価する新加算も考えなければなりません。そもそも休廃止増などは、それまでの制度設計に瑕疵が生じている部分もあるわけで、それを埋めるための財政出動は不可欠となるはずです。
今後も「地域の居宅介護支援不足」はますます深刻化するのは確実です。さまざまなフォロー体制の構築を急がなければなりません。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。