
介護給付サービスの提供環境が大きく変わりゆく中、「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)」の位置づけも模索されています。関連して、厚労省は「多様な主体による総合事業(サービス・活動A等)実施の手引き」などを周知しました。将来的な介護施策のあり方との関係にも注意が必要です。
2024年度の要綱およびガイドラインの改正
今回の手引きについて触れる前に、2024年度に改正された総合事業の要綱およびガイドラインを確認しておきましょう。主な改正内容は、2023年12月の「総合事業の充実に向けた検討会」の中間整理を受けたものです。
中間整理では、「高齢者が地域で日常生活をおくるために選択する」という視点に立ったサービスの多様なあり方が示されました。これを受け、利用する高齢者の選択肢の拡充を図るべく、要綱が改正されています。
ポイントは、サービスA・Bです。改正前の分類上の定義では、Aが「緩和された基準によるサービス」、Bが「住民主体による支援」となっていました。あくまで市町村など運営する側の視点からの分類といえます。
これに対し、改正要綱の分類では、Aが「多様な主体によるサービス・活動」、Bが「住民主体によるサービス・活動」と分類表記が変わっています。Aについて、市町村の独自基準の設定等により「基準緩和」が生じることに変わりはありません。しかし、一応は事業者目線でなく利用者にとって「何が利用できるのか」を重視したことになります。「活動」という文言の追加も、当事者による主体的な参加にスポットを当てたといえます。
「高齢者が担い手となれる活動」も明記
そのうえで、ガイドラインで示す「具体的なサービス内容」も手入れがなされました。A・Bに共通するポイントは、「高齢者が担い手となれる活動」や「高齢者の日常生活を支援する活動」という具合に、当事者の目線に立ったコンセプトが強調されたことです。
ちなみに、「高齢者が担い手となれる活動」の中には、「就労的活動」も含まれます。この「就労的活動」とは、有償または無償のボランティア活動を想定したものです。この「就労的活動」を明確に位置づけることで、高齢者の社会参加等の促進が目指されています。
そのうえで、生活支援のための地域資源等の開発・ネットワーク化を担う生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)のほかに、市町村において「就労的活動支援コーディネーター(就労的活動支援員)」という人員も配置できることが示されました。
さらに、予防給付時代には想定されなかった訪問型と通所型、保険外サービスとの柔軟な組み合わせなどについても、弾力的に展開することも明記されています。
サービス・活動Aに関して示された手引き
こうした総合事業をめぐる改正を前提としたうえで、冒頭で述べたサービス・活動Aに関する手引きに目を移します。そこでは、サービス・活動Aの地域における活用が、4つのモデルに類型化されています。手引きの表現をまとめると、以下のように整理できます。
a.もともと保険外の民間サービス等を展開していた主体が、総合事業に進出することで、市場拡大や利用者増を図るケース。
b.やはり保険外サービス等を運営していた主体が、担い手不足や利用者減の地域において、総合事業によって事業継続を図るケース。
c.今まで地域になかったサービスの構築に向け、総合事業によって収支の安定を図りやすくすることで立ち上げやすくするケース。
d.一般介護予防から移行した利用者を受入れ、リハビリ・保健等の専門職によって介護予防の効果を上げるサービスを整備するケース。
これらa.~d.は、多様な主体の参入を促すうえでのインセンティブや位置づけのあり方によって分類したものです。大切なのは、「地域の高齢者にとって何が必要か」という点です。それについては、各市町村が地域計画にもとづいて、必要な支援や不足しているサービスを分析することが前提となります。
a.~d.は、あくまで、市町村が分析をもとに「地域の多様な主体」に声をかける際、参入を調整しやすくするインセンティブや位置づけととらえると分かりやすいでしょう。
サービス・活動Aの拡充が目的化する懸念も
こうして見ると、⑴多様な主体による地域資源の拡充を図ることで、⑵地域の高齢者の選択肢を増やすこと。そして、すそ野が広がる中で、⑶本人の主体的な活動機会を増やしつつ、介護予防の効果も底上げできるという考え方が強化されていると言えます。
ただし、ここには1つの懸念がつきまといます。それは、「サービス・活動Aの拡充」という「手段」が「目的」化する転倒現象です。
うがった見方をすれば、給付サービス(総合事業の従前相当サービス含む)の主体が撤退・縮小する時代に、保険外サービス事業者の運営を(基準等を柔軟化した)総合事業で補完し、将来的な給付サービスの受け皿とする──そうしたビジョンも垣間見えます。
いずれにしても大切なのは、「それで本当に地域の高齢者が、安心・安全にその人らしく暮らし続けられるかどうか」にあるはず。その根っこの目的にしっかりスポットを当て続けないと、介護保険本来の姿が揺らぎかねないという点は注意しておくべきでしょう。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。