ケアマネの処遇改善はなぜ進まない? 「処遇改善加算」だけでは解決できない課題

ケアマネ不足の要因が改めて示された──と思う人も多いでしょう。2025年3月公表の「居宅介護支援事業所における業務実態等に関する調査研究事業」報告書で、2024年度改定以降の処遇改善を「行なっていない」事業所が5割強に達したことです。処遇改善加算の創設に向けた動きは強まるのでしょうか。

2024年度改定で図られたことは何か?

まず、2024年度改定の内容を改めて整理し、これが現場にどう影響したのかを掘り下げます。同改定では居宅ケアマネに処遇改善加算は適用されませんでしたが、居宅介護支援の基本報酬や各種加算は上乗せされました。

基本報酬については、逓減制にかからない範囲(ⅰ)で約0.9%アップ。なお、取扱い件数の上限が緩和された「I」について、さらにプラス5件の上限引き上げもなされました。

加えて、介護予防支援を指定事業者として受けることが可能となり、仮に改定前に「包括から委託を受けていた」という事業所の場合、約8%の基本報酬引き上げに。介護予防支援の利用者の取扱い件数の計算方法も、1/2から1/3へと緩和されました。

加算については、特定事業所加算で区分に関係なく月14単位の引上げ、加算要件の緩和も一部見られます。入院時情報連携加算も情報提供の迅速化を図りつつ、Iで50単位、IIで100単位の上乗せが行われました。

ケアマネの処遇改善を図るしくみはどこに?

ちなみに、2024年度の介護報酬全体の改定率はプラス1.59%、そのうち介護職員の処遇改善分がプラス0.98%となっています。これらを居宅介護支援へとただちに当てはめるのは難しいですが、基本報酬引き上げ分に各種加算の上乗せを図った場合、ケアマネの処遇改善分がようやく確保される状況と言えます。

要するに、物価上昇分のコスト分(移動時のガソリン代や事業所の光熱水費など)をカバーするには、逓減制の緩和部分で担当件数を引き上げたり、特定事業所加算等のより高い区分を算定することなどが必要です。つまり、「現場のケアマネにもっと頑張ってもらうこと」が前提となっているわけです。

これに対し、同改定では、「ケアマネが頑張れる」ようにするために、ケアプランデータ連携システムの導入推進策やオンラインモニタリングを可能とするしくみ、一部加算を取得しやすくする要件緩和を図っています。

しかし、これらの施策が「担当件数の増加」や「高単価区分の取得」へと結びついたのかと言えば、見通しは甘かったと言わざるを得ないでしょう。実際、今調査でも「逓減制緩和の届出をしていない」という事業所が9割近く、「オンラインモニタリングをしていない」という事業所は95%強にのぼります。

処遇改善に向けた前提が崩れていた⁉

こうして見ると、「業務負担の緩和」という前提が崩れている様子がうかがえます。そうなると、「コスト増吸収の運営は困難」⇒「コスト増に基本報酬のアップをあてざるを得ない」⇒「ケアマネの処遇改善はできない」という流れに行き着くのは必然となります。

冒頭で述べた「処遇改善を行なっていない」が5割強という数字は、確かに衝撃的です。しかし、上記のように2024年度改定が居宅介護支援事業所におよぼす流れを見れば、「こうなるのも仕方ない」と思えてきます。

もちろん、「事業所の持ち出しを増やしてもケアマネ確保が最優先」と考える事業所も多いでしょう。でも実際は「それが限界に達している」と見るのが正しいでしょう。そもそも、先に示したように「本来の処遇改善分を運営コストに回しても(他のサービス分野以上に)足りない」のは明らかだからです。

次期改定で執るべき3つの方策の同時展開

こうした状況を頭に入れれば、次期改定で執るべき方策は以下のようになります。

A.本来、ケアマネの処遇改善にあてるべき部分を「処遇改善加算」として明確にすること。B.A.については、他産業との賃金格差の解消だけでなく、同業他職種からのキャリアステップ(例.介護福祉士からケアマネへ)を考慮した分の「上乗せ」を図ることです。

そのうえで、C.処遇改善分からの流用を図らざるを得ないという現状を鑑みて、物価上昇分のコストを吸収できるだけの「基本報酬のアップ」を同時に図ること──となります。

ちなみにC.がないと、仮に居宅ケアマネに処遇改善加算を設けたとしても、今度は流用できない分、「コスト減のために事業規模を縮小する」、あるいは「併設事業の収入に頼る」という流れが加速しかねません。

なお、今調査のヒアリングで、「(ケアマネではなく)併設事業所の労働力として働いてほしい」といった法人意向があるという指摘も見られます。後者の流れを放置すれば、こうしたケースも増加し、地域のケアマネ人材の底上げはさらに危うくなりかねません。

これらを鑑みれば、「ケアマネに処遇改善加算を適用する」だけでは足りず、先のA.~C.を同時に手がけることの必要性は明らかです。そもそも、処遇改善加算は現任者をつなぎ留めるための方策であり、新たな人材確保には採用・育成コストが必要です。そのためにもC.の同時展開が、欠かせなくなるわけです。

今回の調査結果は、今後の介護給付費分科会等でも重要資料となるのは確実でしょう。ただし、そこから導かれる施策が狭い範囲にとどまらないよう注意を払いたいものです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。