コンテンツだけの人材確保には限界も── 「憧れるケアマネ」の存在こそが切り札に

ケアマネの採用状況が厳しい中、事業所として人材確保を効果的に進めるには、どのような方法が考えられるでしょうか。現時点で「できること」は限られるかもしれませんが、少しでも労働市場から注目を集めるための働きかけについて戦略を練ることが求められます。

厳しい状況下で「今できる人材確保策」は?

厚労省は2026年度予算の概算要求で、ケアマネ従事者減少に対処するための「ケアマネの魅力発信のための広報事業」を新規枠として盛り込みました。「これからケアマネを目指す」という人に加え、いったん現場を離れた「潜在ケアマネ」もターゲットとした事業を展開するビジョンが示されています。

しかしながら、たとえば現状の「介護の魅力発信事業」などを見る限り、労働市場の「介護業界離れ」を押しとどめる効果はなかなか上げられていません。YouTubeなどの広報手段や「現場の声を掲載するなど」のコンテンツ上の工夫などが予定されていますが、それだけではどうしても限界は生じるでしょう。

何よりケアマネの処遇改善策が明確にならなくては、何をやっても厳しい──という前提は確かにあります。とはいえ、このままケアマネ不足が進行すれば、地域の介護体制が崩壊することは避けられません。地道な取組みになるかもしれませんが、「今できること」は何かを考えたいものです。

「ケアマネを目指せる人」とのやり取り

まず必要なのは、自分たちの地域で「これからケアマネを目指せる可能性がある人」の状況把握です。もし「思ったより多い」となれば、「これからケアマネ資格を取る人」を主に念頭に置いた「事業所の魅力発信」に注力するという戦略も立てられるでしょう。

たとえば、地域で働く介護福祉士や相談員業務に就いている人で、間もなく通算5年の勤務経験に至る人の総数はどれくらいなのか。行政に問い合わせる方法もありますが、介護サービス情報公表制度でも「経験年数5年以上の介護職員の割合」などが確認できます。

そのうえで、事業所のケアマネが意識したいのは、サービス提供者とのコミュニケーション機会です。ケアマネの業務効率化が重視される時代は、サ担会議を除いて各担当者とのやり取りはオンライン(もしくは電話)のみのケースも増えています。それでも、各現場に出向いて担当者と利用者情報を交換するという機会を意識的に持つことは大切です。

利用者のこと以外の相談にも乗ってみる

モニタリングの一環として、通所介護や短期入所の利用者の様子を見に、ケアマネが現場に足を運ぶとします。そこで現場リーダー(介護福祉士)や相談員と話をするわけですが、現場業務にまだ余裕のあった時代は、相手の仕事ぶりに感謝したり、ねぎらいの言葉をかけるなど、より深いコミュニケーションを意識して築く姿勢がたびたび見られました。

介護現場は(特に今の時代は)緊張度が高く、リーダークラスを中心にストレスがかかりがちです。そうした中で「ねぎらいの言葉」などをかけられると、張り詰めた心がすっとほどけます。その結果、当の利用者のことだけでなく、合間の雑談等で、現場のさまざまな悩みを打ち明けたりする場面も見られます。

ケアマネとして、幅広い相談事まで対応する余裕はないかもしれません。しかし、そうした場面で、ケアマネならではの傾聴スキルを発揮することは決して無益ではありません。

たとえば、仮に相手が「ケアマネを目指すか否か」に迷っているとして、「こういう先輩がいる所なら、ケアマネとして働きたい(もっと言えば、この人のようなケアマネになりたい)」と背中を押す可能性もあるでしょう。

対応するケアマネ自身の姿こそが「魅力」に

あからさまな「引き抜き」というわけではなく、あくまで日常のコミュニケーションの延長に過ぎません。しかし、介護現場で働く悩みの多くが「職場の人間関係」や「業務風土」にある中、(外部とはいえ)チームの一員として「きちんと話を聞いてくれる」というのは、こちらが思う以上の価値があります。

つまり、チームケアを機能させるために奔走するケアマネ自身の姿こそが、人を集める「魅力」になることもあるわけです。

もちろん、ケアマネ自身に「余力」がなければ、担当者との対人関係も先のようにうまくは築けません。その点で、事業所としてのケアマネ確保は、現任者の心身の余力をいかに創り出せるかが大きなポイントとなります。

現任者に「心身の余裕」を創ることの効果

その心身の余力創りには、「ICT化による業務効率化」などもさることながら、たとえば「カスハラ対策」や「シャドウワーク対策」などに代表される「事業所のバックアップ体制」が大きなカギとなります。

それを人材募集に際してのアピール材料としても、なかなか伝わらないこともあります。しかし、先のような現任者の姿があれば、それはそのまま「その事業所の働きやすさ」の象徴として、将来の人材候補の心をストレートにつかむこともできるでしょう。

これは、「これからケアマネを目指す人」向けの話だけでなく、さまざまな機会に地域の人々と接する中(オープンな介護相談の場など)でも同様です。「この人のようになりたい」「この人のそばで働きたい」と思わせるようなケアマネをいかに育成するか。この「現任サポート」に焦点を当てることが、将来の人材確保にもつながるのではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。