介護従事者に「地域の保健室」を。 心理カウンセラーや弁護士の常駐も

介護従事者をめぐる勤務環境が、日増しに厳しくなっています。カスタマーハラスメントや事業所・施設内の人間関係の軋轢、人手不足によるストレス増加など、他業界に比べても状況の悪化は目立ちます。個々の法人によるサポートだけでは限界もある中、地域に新たな専門機関の設立も求められそうです。

本格化する介護現場のカスハラ対策だが…

労働施策総合推進法の改正により、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)による就労環境悪化への対処が事業者に義務づけられました。2026年中には施行されるので、介護保険の次の基準改定でも「対応の義務化」が明記されることは確実です(現在は、カスハラ対応ついては「利用者からのセクハラ」を除き推奨にとどまっている)。

事業所・施設としては、相談窓口の設置や重要事項説明書等におけるカスハラ防止条項の明記など、さらなる取組みが求められます。国も地域医療介護総合確保基金により、「ヘルパー補助者の同行」や「弁護士相談」にかかる費用補助などを進めています。こうしたしくみの活用もさらに推進されるでしょう。

ただし、介護現場、特に密室性が高まる訪問現場などでは、カスハラをめぐる状況は深刻です。相談窓口等を設置し、従事者サポートを強化したとしても、事業所規模等によっては対応にどうしても差が生じがちです。地域サポートに関しても、行政や包括の取組み体制などに左右される可能性もあるでしょう。

国の責任による新たな対応機関も必要に⁉

カスハラ(パワハラやセクハラも同様)をめぐっては、身体的な被害はなくても、従事者はメンタル面で大きなダメージを被りがちです。うつ病を発症して勤務継続が困難になり、労災認定を申請する例も見られます。

また、日本介護支援専門員協会が実施したケアマネ向けのグループインタビューでは、利用者の家族から「対応の悪さをSNSにアップする」と言われたケースなどもあがっています。この場合、メンタル面のケアもさることながら、被害拡大を防ぐため、速やかに弁護士等に相談できる体制も必要となります。

こうした対応強化を全国一律で、かつ質の標準化を目指しつつ実施するとなれば、全国市町村(都道府県によるブランチ設置含む)で、国の責任にもとづいて新たな対応機関を設置することも求められるでしょう。

そこに、公認心理師や臨床心理士による心理カウンセラーや法テラスのような担当弁護士を常駐させ、各事業所の相談窓口からの相談に対応する体制をとるという具合です。

ハラスメント以外にも多様なダメージ要因が

もちろん、介護従事者にメンタル面や法律上の課題が生じるのは、カスハラ等のハラスメント問題だけではありません。冒頭で述べたような、職場の人間関係のあつれきや、事故・容態急変への対応にかかる現場の緊張度の高まりなどにより、従事者の心をむしばむさまざまな要素が膨らみつつあります。

ちなみに、外国人介護人材に関しては、国際厚生事業団が顧問精神科医によるメンタルヘルス相談を受け付けています。日本人の介護従事者に対しても、同様の取組み機関の常設が求められるのではないでしょうか。いわば、すべての介護従事者向けの「地域の保険室」のような場が必要ということです。

ところで、2024年度改定で誕生した「生産性向上推進体制加算」では、テクノロジー等の導入に関して実績データの提出を要件としています。その中の職員調査票では、心理的負担評価として「心理的ストレス反応測定尺度(SRS-18)」が使われています。

産業界全体でストレスチェック制度は導入されていますが、上記のような尺度の必要性が報酬体系に組み込まれているということは、国としても「介護現場のメンタルヘルス」を優先度の高い課題として位置づけていることになります。その点で、介護従事者にとっての「地域の保健室」設置は、国の施策方針から大きくズレるものではないでしょう。

社会的ストレスが高まる中での課題の加重化

介護労働は、身体的な労働、頭脳的な労働に加え、精神的な労働から成り立っています。精神的な労働には、意識的な感情コントロールが必要で、身体的な労働が「身体疲労」を呼び起こすように「精神疲労」をともないます。当然ながら、勤務継続のためには、その疲労を回復させるしくみが不可欠となります。

加えて、現代社会は個人に対してさまざまな精神的ストレスがかかりやすくなっています。介護従事者がプロとしての業務を手がけるには、この「職務外」でのストレスも日々解消する機会がどうしても必要です。

さらに、現代社会特有のストレスは、当の介護従事者だけでなく、利用者や家族、連携すべきさまざまな職種にもかかります。そのはけ口が従事者に向かう(利用者でいえばカスハラが深刻化するなど)という「3つめのストレス要因」も無視できません。

介護現場の処遇改善で「賃金・物価スライドの導入」を求める声がよく上がりますが、「社会的ストレス・スライド」といった考え方も適用できそうです。最初は地域単位のモデル事業でも構わないので、先の「介護従事者のための地域の保健室」的な取組みを進める価値は十分にあると思われます。

 

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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。