
厚労省より、2024(令和6)年度老健事業による「ケアプラン点検項目」等の更新についての通知が出されました。「ケアプラン点検」をめぐる研究事業については、2021年度から継続的に実施され、2022年度には「ケアプラン点検項目」等も策定されています。今回、この点検項目等が更新されたことになります。
ケアプラン点検の価値を実感できるためには
ケアプラン点検は、事業者を対象とした運営指導・監査などと異なり、あくまで現場のケアマネ個人の「気づき」を促すための保険者による支援という位置づけです。
とはいえ、人員不足やシャドウ・ワークが増えがちな中、現場のケアマネにとっては「点検を受けている余裕がない」と感じることもあるのではないでしょうか。その点で、「受けるだけの価値がある」という実感を得られるかどうかがますます問われることになります。
ちなみに、ケアプラン点検にかかる老健事業では、ケアプラン点検支援ツールを「ケアマネの(日々のケアマネジメントにかかる)セルフチェックに活用できないか」という点も検討対象となっています。
たとえば、今回更新された「ケアプラン点検項目」の中から「セルフチェック」に活かせる項目をピックアップするなど、現場でも活用できるツールにするというものです。
保険者との協働で「気づき」を得ることと、現場でのセルフチェックにおける活用をリンクできれば、ケアプラン点検が「現場にとって役に立つ」という意識を浸透させるうえで大きな後押しとなるかもしれません。
点検項目を使った、現場でのセルフチェック
今回示されたケアプラン点検項目をそのままセルフチェックに使うとした場合、項目数は62にのぼります。そのうち、アセスメントシートにもとづくものは32項目です。
この場合の「アセスメントシート」とは、ケアプラン点検のためのアセスメント様式です。現場では、課題分析項目は押さえられているとはいえ、多様なアセスメント様式が活用されています。このアセスメント様式の「ばらつき」がケアプラン点検時に課題となり、ケアプラン点検支援パッケージを効率的に用いるための様式が整理されたわけです。
ただし、点検ツールの効率的な使用が図られても、それを効率的なセルフチェックにつなげるのは別問題です。そこで研究事業では、現場のケアマネからのヒアリング調査などを経て、「ケアプラン点検項目マニュアル・セルフチェック版(案)」を示しています。
それによれば、セルフチェックにおける重点確認項目は、アセスメントシートを対象としたもので5項目、ケアプランを対象としたもので12項目に絞られています。なお、この他に、「OJT」と「研修」に際しての重点確認項目もそれぞれ示されています。
セルフチェックで重視される「栄養と口腔」
ここでは、アセスメントシートにもとづく5項目に着目します。A. 1日に摂取すべき水分量(65歳以上であれば、体重1㎏あたり約25ml)、B. 実際に摂取した水分量、C. 食事内容・カロリー数(摂食嚥下機能の状態や食事制限の有無含む)、D. BMI(身長・体重の確認だけでなく算出が必要)、E. 口腔内の状態(口腔ケアの自立の状況含む)という具合です。
おおむね栄養と口腔の状況となっていて、ADLやIADL、認知機能の状況、利用者の主訴・要望、生活歴などは含まれていません。ちなみに「OJT」に際しての重点項目では、栄養・口腔の状態(水分摂取量はあり)はないものの、利用者の主訴・要望、生活歴などの項目は含まれています。
こうして見ると、日常的なケアマネジメント業務において、見落としがち・確認漏れが生じがちな項目として「栄養・口腔」にスポットを当てたと言えそうです。逆に言えば、ケアプラン点検に際して、特に「気づき」を促されるポイントと言えるかもしれません。
問われているケアマネジメント業務とは?
もちろん、現場のケアマネにしてみれば、「普段、水分をどれくらい摂っているか・何をどれくらい食べているか」については、アセスメントの必須項目として「意識的にヒアリングしている」という人は多いでしょう。
問題は、たとえば水分・栄養摂取に関して、「必要量」と「摂取量」がきちんと算出されているか、あるいは昨今重視されている「口腔機能との関連」──といった点にあるといえます。単に「実情をヒアリングする」だけでなく、データ間の比較検討およびその背景分析へとつなげる業務が機能しているかどうかが、重視されていることになります。
注意したいのは、利用者にとって「そのヒアリングはどういう意味があるかという点でしょう。介護保険の利用者やその家族にとって、ADL・IADLや認知機能のように「日常生活動作にかかる自立度」への意識はあっても、「水分や栄養、口の中の状態が、介護にどのような影響があるのか」について「ピンと来ない」という人も少なくありません。
その点で、利用者や家族が理解できる説明をどのように行なうか(啓発の方法)が今後は問われるかもしれません。ケアプラン点検を通じ、保険者とケアマネの協働を進めるのであれば、このあたりの課題にどう取り組むかもテーマに入れ込む必要がありそうです。
【関連リンク】
厚労省、ケアプラン点検項目を更新 マニュアルや支援ツールも - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。