社会保険料負担の軽減と介護現場の賃上げ、 両立は可能か?また、その手段は?

臨時国会で、新首相による所信表明が行われました。介護現場にとって気になる経営・処遇改善の支援も示されています。一方で、社会保障制度改革に関し、現役世代の保険料負担を抑える旨も示されました。仮に2号保険料等の軽減がなされた場合、現状の危機乗り越えに向けた報酬改定は可能なのでしょうか。

期中改定や「つなぎ策」は確定的だが規模は?

所信表明での「介護現場への支援」では、介護報酬の2026年度の期中改定は明言されていません。ただし。診療報酬との並列表記や「支援は待ったなし」という文言は見られることから、年末の2026年度予算編成で、期中改定が視野に入ることになるでしょう。

そのうえで、報酬改定までの支援については、「経営の改善および従事者の処遇改善につながる補助金を措置して、効果を前倒し」するとしています。補正予選の成立・施行時期にもよりますが、これによって来年4月までの「つなぎ策」も表明されたことになります。

問題は、以前のニュース解説でも述べましたが、その規模です。介護現場の他産業との賃金格差はさらに拡大しており、それを埋めるための事業者の「持ち出し」も増えています。施策施行後の処遇改善に加え、この「持ち出し」分を含めた事業者への補助となれば、かなりの額の手当てが必要となります。

2024年度の補正予算でも同様の措置は取られましたが、物価高騰や(他産業との)賃金格差が急伸する中で、追い付いていないのが実情です。その「追いつかなかった分」まで考慮しないことには、また中途半端な支援に終わってしまう恐れもあるでしょう。

社会保険料負担が逆に増加してしまう懸念も

こうした懸念を払しょくし、現場の運営維持に必要なレベルまでの手当がなされたとします。そこで、もう1つの問題が浮上します。

それは、今後も物価上昇や賃金格差の拡大が進むと想定した場合、2026年度の期中改定でも(先の「持ち出し」分の補てんは除くとしても)同レベルの報酬引き上げが必要になることです。これがなされないと、施策効果は一時的なものにとどまらざるを得ません。

業界団体や労働団体などからは、10%レベルの引上げを求める声も上がっています。確かに、現状を好転させるうえでは、最低でもこのレベルの引上げは不可欠かもしれません。

そうなると、そのレベルを実現するための「財源の確保」が課題となります。改定前の補助金は公費となりますが、同様の効果を継続するための期中改定となれば、介護保険料の引上げも必要になります。1割の介護報酬引き上げを単純に保険料の増額でまかなうとすれば、社会保険料の負担軽減どころか、これまでにない負担増にも直結しかねません。

焦点はやはり、公費負担割合の見直しか?

なお、経営の厳しさや従事者の人員不足は、介護だけにとどまりません。医療についても、中規模レベルの医療機関の閉鎖なども生じつつあり、国民の健康と命を守る地域の医療体制に黄信号がともるレベルです。

仮に2026年度診療報酬改定も同レベルの引上げを実施するとなれば、介護保険の2号保険料の上昇に、医療保険料の引上げも加わります。現役世代の保険料負担軽減という今政権の目指すもう1つの施策について、逆方向のベクトルが働きかねません。これを解決するうえで、やはり公費の負担割合の引上げが検討課題にのぼるのは確実でしょう。

ちなみに、医療費の公費負担割合は、その時々の制度改正等によって変動します。たとえば、1980年代初頭をピークに1990年代に向けていったん7%近く減少しましたが、その後はまた増え続け、2023年度は37.5%となっています(対前年度比では0.4%減少)。

一方の介護保険は、公費負担割合は5割で固定されています(1号保険料の低所得者負担軽減策にかかる公費投入分は除く)。保険料財源の範囲内で、1号保険料と2号保険料の割合が変わることはありますが、あくまで被保険者の人口比にもとづくものです。

高齢者富裕層等の保険料や利用者負担拡大も

たとえば、介護保険の財源構成にメスを入れ、公費割合の拡大等に踏み出すとなれば、その財源確保が焦点となります。社会保障の財源の1つは消費税ですが、物価上昇下の引上げはやはり困難です。所得税等の引上げも、現役世代の負担軽減と逆行しかねません。

法人税の引上げも考えられますが、経済団体からの反発が予想されます。特に円安による仕入れ値高騰や最低賃金の引上げに苦しむ中小企業には、死活問題にもなりかねません。

仮に公費の財源確保が難しいとなれば、所得の高い高齢層を中心とした保険料の引上げや利用者負担の拡大が視野に入ります。特に前者では、現在議論されている金融所得の把握による保険料への反映も考えられます。

こうして見ると、「どれか1つに絞る」のはなかなか困難です。株高で収益が拡大している大企業や高齢の富裕層を中心に、少しずつ負担増を求める流れになるのかもしれません。

しかし、この「少しずつ」のかじ取りは簡単ではありません。狭いトンネルをくぐり抜けるような慎重さがないと、特に世代間の分断をあおる危険も生じます。だからこそ、新首相は「野党にも協力」を求めた「国民会議」という、幅広い議論の場を設定したとも言えます。この幅広い国民合意がスピード感をもって達成できるのか、注目しましょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。