
主に2027年度施行を目指す介護保険法等の改正案が、いよいよ国会に提出されます。ケアマネの更新制廃止や新たな支援のしくみなど、注目すべき点が多々あります。これらは随時取り上げていくとして、今回は介護保険法第5条における「国の責務」に注目します。
新たな「国の責務」が記されたことの意味
「国の責務」を記した条文がなぜ重要なのでしょうか。それは、国会制定法で記す「責務」は、極めて重いからです。具体的に言えば、その後に定められる政令や省令は、国会制定法を考慮して定めなければなりません。
逆の見方をすれば、国会制定法を根拠とすることで、それを実現するための報酬・基準の設定を次々と進めることができます。たとえば、2020年の法改正で、「要介護者の心身の状況」について「介護サービス事業者から情報収集できること」が明記され、これを機にLIFE関連加算の創設が一気に進みました。
これを頭に入れたうえで、項目が追加された第5条の条文を見てみましょう。内容は、以下にあげる項目に関する施策を「講じなければならない(義務)」とするものです。
- (1)介護サービスの提供における業務の効率化、質の向上、その他の「生産性の向上」
- (2)介護サービス業務に従事する者の確保、および資質の向上、その他の「質の高い介護サービスの提供の確保」
- (3)介護サービス提供のための「安定した経営基盤の確立」。
なお、(2)(3)については、「双方の実現」を図る取組みの推進を図る施策を求めています。
「生産性向上」の優先度が一気にアップ?
上記を整理すると、ポイントは3つの施策義務が明記されたことです。1つは「生産性の向上」、2つめは「従事者の確保」、3つめは「事業者の安定した経営基盤の確立」です。
1つめの「生産性向上」については、2023年の法改正でも、自治体の介護保険事業(支援)計画に反映させるための条文が設けられています。ただし、この時はあくまで「努力義務」であり、施策上の「義務」として記されたのは今回が初めてです。
これにより、たとえば2027年度改定における「生産性向上の推進」の優先度がさらに引き上げられるのは確実でしょう。
ちなみに、2024年度改定では、報酬上で生産性向上推進体制加算が、基準上では委員会設置の義務化(2027年3月末までの経過措置あり)が設けられています。ただし、これは施設系・居住系等に限定されています。
処遇改善加算の職場環境等要件で、生産性向上にかかる取組み項目はありますが、居宅系においては、2026年度は「ケアプランデータ連携システムの活用」の特例要件を満たすことでの緩和なども図られています。
これが2027年度改定では、たとえば生産性向上推進体制加算の適用や委員会設置義務の全サービスへの拡大、各種テクノロジー活用の拡充に向けた新たな加算や人員基準緩和、基準上の義務化が設定されるなど、「生産性向上」一色の改定となることが考えられます。
「従事者確保」はあれど「処遇改善」は?
一方、2つめの「従事者の確保」ですが、これだけを見ると「継続的な処遇改善策」への期待が高まります。ただし、あくまで「質の高い介護サービス」のための従事者確保であり、その手段となる「処遇改善」について今回の改正案では明記されていません。
他産業との賃金格差という現状の課題を見れば、従事者の確保に向けて「処遇改善」は最優先テーマとなってしかるべきです。その点は明記されず、従事者確保に向けた具体策としては、都道府県が主体となった協議会の設置(努力義務)に委ねられます。
国が頑ななまでに「処遇改善」を介護保険法に盛り込まないのは、(現役世代を含む)保険料の上昇や財政負担を危惧している現れとも言えます。そうなると、「従事者確保」は実質的に都道府県に委ね、国は地域医療介護総合確保基金等で「地方の主体性を支える」という形を維持することになりそうです。
もっとも、3つめの「事業者の安定した経営基盤の確立」も明記されているという点では、「基本報酬の引上げ義務が明記された」と見る向きもあるかもしれません。これが、間接的な処遇改善につながる期待があります。
「経営基盤の安定化」にも期待は高まるが
確かに、介護現場の従事者不足は全事業者にとって深刻で、処遇改善加算分を超えた「人件費の持ち出し」も増えざるを得ないのが現実です。その点では、基本報酬の引上げが見すえられることは大きな転換といえます。
一方で、「経営基盤の安定化」に向けては、国が推進する事業の大規模化や協働化といった手段も視野に入ります。介護報酬の賃金・物価スライド等のしくみが明記されていればともかく、今回の条文だけでは「経営基盤の安定化」の手段はどうしてもぼやけがちです。
このように、生産性向上にまい進するだけの法改正となると、現場への光明はなかなか差しづらいかもしれません。ただし、少なくとも「従事者の確保」や「経営基盤の安定化」が明記されたことで、現場としては「もっとも有効な手段(処遇改善や基本報酬の引上げ)」を要求しやすくなった面もあります。
今回の新条文を「国への要請」の根拠として、どこまで活かすことができるか。今後、業界・職能団体に問われるテーマといえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。