
厚労省が、介護現場の生産性向上に向けた2026年度の「普及加速化事業」の一環として、各種セミナーの開催(オンデマンド含む)を告知しています。開催時期は、2027年度改定に向けた議論が山場に差し掛かるタイミングです。国が力を入れる普及事業の成否は、生産性向上の議論の行方にも左右されそうです。
「生産性向上を考える余裕もない」事業所も
生産性向上に関しては、現場ごとの対応への温度差が依然として目立ちます。サービス単位で見ても、生産性向上推進体制加算が適用されている施設系、居住系、小多機系と比べて、居宅系の取組みはまだ鈍いのが実情です。「人材確保をめぐる状況が好転しないと、生産性向上を考える余裕もない」というのが、居宅系の現場の本音かもしれません。
もちろん、人材確保に向けた処遇改善加算でも、「職場環境等要件」において「生産性向上に向けた取組み」に重点は置かれています。
しかし、2026年度の臨時改定では、少なくとも同年度の特例要件である「ケアプランデータ連携システムの活用」さえ満たせば、2027年3月末までの実施を「誓約」することで足りるとされています。そうした中では、生産性向上に向けた体系的な取組み(「生産性向上ガイドライン」にもとづいた業務改善活動の体制構築など)がつい後回しにされ、年が明けてからの「駆け込み」的な対応が増えることが懸念されます。短期間での急な対応が強いられれば、現場従事者にとって「やらされ感」だけが強まりかねません。
各現場の「身の丈」に合ったやり方を評価
こうした状況を防ぐには、ケアプランデータ連携システムなど「国が指定する手段」の普及だけを焦点にするのではなく、「利用者のケアに必要な情報が(主治医やケアマネから)いつでも入手できる」といった、現場視点の「利便性」から入ることも必要でしょう。
居宅系サービスであっても、各種サービス計画を作成する場合に、主治医やケアマネから情報を得る習慣はあります。その「今ある習慣」の利便性(効率性など)を高めつつ、利用者の重度化防止などの効果を実感できるようにするという道筋こそが求められます。
たとえば、ケアプランデータ連携システム(同等の機能とセキュリティが認められるシステム含む)にこだわるのではなく、今行なっている多機関・多職種との情報連携の実態に則して、「ICT活用」等による効率化を図る──これを軸とした評価のあり方を検討する方が、生産性向上の近道ではないでしょうか。
無理な「背伸び」を強いるのではなく、各現場の「身の丈」に合ったやり方を上で評価することも1つの理想形と言えます。
情報連携「回路」の途切れをどうするか?
もちろん、その場合の課題として「今行なっている情報連携が、本当に利用者の重度化防止などサービスの質向上に結びついているのか」という点は問われるでしょう。
特に問題なのは、多機関・多職種との情報連携を日常的に行なっていても、「どんな情報が必要なのか」、また「その情報をどのように活かすのか」がしっかり定まっていないと、連携の効果はなかなか上がらないことです。
たとえば、ケアマネがケアプランを提示し、サ担会議等において現場での留意事項をオーダーしても、それが各事業者の個別計画等に反映されていないといったケースを依然聞くことがあります。言うなれば、「サービス担当者間で回路がつながっていない」状態です。
この「回路の途切れ」を放置したまま、情報連携の「手段」だけに評価の視点を定めても、サービスの質向上や職員の負担軽減などの真の効果はなかなか得られません。やはり、多機関・多職種から得られた情報の活用法を改めて国が示し、それに沿った業務風土の構築を求めることも入口部分で必要となります。
現場の自律的な成長を後押しできる視点を
こうした課題解決の道筋を描いていくと、以下のような制度設計が見えてきます。
まずは、「受け取った情報を適切に活用できる業務風土の構築」を求めること。そのためには、現場従事者が情報活用のための知見を積み重ね、それを習熟する時間を確保するだけの「余力」が必要です。この「余力作り」を基本報酬や処遇改善加算できちんと保障するという「土台」を固めなければなりません。
もちろん、基本報酬や処遇改善加算が無尽蔵に膨らむのを防ぐしくみは必要です。「情報の適切な活用」に関して基準を厳格化したり、情報活用をめぐる事業所の対応方針の届出を求めたりしたうえで、未届の場合の減算を設けるなどが考えられます。現場として、基本報酬等が納得できる水準まで引き上げられれば、一定のメリハリは許容できるはずです。
そのうえで、今行なっている情報連携の「手段」の利便性を高めること。これを2階部分として、加算等で評価を上乗せします。
要するに、生産性向上の推進では、「基本報酬」と「処遇改善加算」を土台とし、「手段の利便性」を積み上げるという具合に、報酬体系全体を見据えた戦略が求められるわけです。
土台部分が揺らいだまま、効率化のツール導入のインセンティブだけをいくら積み重ねても、生産性向上の効果の「格差」はなかなか解消できず、かえって介護保険の費用対効果を悪化させかねません。現場が直面する課題や身の丈に寄り添いつつ、現場の自律的な成長を後押しできる制度設計が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。