
2027年度改定に向け、さまざまな団体が厚労省に要望書を出しています。労働団体からは、日本介護クラフトユニオン(以下、NCCU)が「介護人材確保のために」の副題を付した要望書を提出。注目点の1つは、「処遇改善加算相当額の基本報酬への組み込み」を求めていることです。この提案内容を掘り下げます。
現状の処遇改善が機能しづらい時代において
NCCUの要望では、介護人材の確保・定着に向けた大前提として、「物価上昇、他産業の賃上げ動向、介護事業者の経営実態」を反映した「介護報酬の引上げ」を求めています。
そのうえで、処遇改善について、配分方法の透明性や法人・事業所による配分差の解消、月例賃金への安定的反映に向けて、冒頭で述べた「処遇改善加算相当額の基本報酬への組み込み」が提案されています。
処遇改善加算の基本報酬への組み込みについては、これまでも事業者・労働団体等から要望が出たことはあります。今、改めてこの提案が出された背景には、時代の流れとともに、独立した処遇改善加算が機能しづらくなっている状況があると考えられます。
たとえば、急速な物価上昇にともない、他産業の賃金引上げペースも加速していることです。介護事業者としては、他産業との人材確保競争になった場合、それまでの平均賃金差を埋めるため、その時々の処遇改善加算の引上げ以上に従事者の賃金引上げを手当てする必要があります。そうなると、処遇改善加算の相当額以上を、事業者の「持ち出し」でカバーするケースも生じやすくなっています。
処遇改善と基本報酬を切り分ける意味の薄れ
実際、2024年度の介護従事者処遇状況調査を見ると、2024年度改定での加算額の一部を「2025年度に繰り越した」ケースは14.3%にとどまります。約8割が、加算の全額を「2024年度分の賃金改善」にあてています。
これなどは、他産業との賃金差に追いつくため、とにかく目先の賃金増を図らなければならないという意図が伺えます。当然、加算額を超えた「持ち出し」を強いられるという状況が生じている可能性も想像できます。
また、物価上昇にともない、人材採用・育成にかかるさまざまなコストも上がっています。これらも、事業者としては収益を切り崩しながら対応せざるを得なくなっています。
もちろん、こうした状況を考慮して、補正予算での各種補助金や臨時の報酬改定が行われてきたわけですが、物価上昇・賃金格差の流れに追いついていないのが現状です。
いずれにしても、すべての介護報酬を総合しつつ、その中で従事者の賃金引上げや採用・育成コストをやり繰りする必要性が今まで以上に高まっています。つまり、処遇改善加算と基本報酬(プラスその他の加算)などを切り分ける意味が薄れつつあるわけです。
適切な賃金水準を担保する方法が課題だが…
そうなれば、安定的な人材確保に向けた必要コストをトータルしたうえで、基本報酬に組み込むことが、時代に合った方策と言えるかもしれません。また、他の業界団体から要望が出ている「介護報酬の賃金・物価スライド」のようなしくみを見すえるなら、基本報酬を基準にした方が分かりやすいでしょう。
問題は、基本報酬に組み込んだ場合、従事者の適切かつ安定的な賃金引上げへの反映を担保するしくみが必要になることです。
これについて、NCCUは「処遇改善を真に機能させる新たな減算等の報酬ルール」を求めています。要するに、必要な賃金水準の配分がなされていない場合に「減算」を適用するといったしくみが想定されます。
もちろん、その場合に「適正な賃金水準が図れているか」をどのようにチェックするかが問われます。仮に一定の実績報告が要されるとなれば、事業者にとってはやはり実務負担となるでしょう。小規模事業者にとっては、「今の処遇改善加算の実務負担と変わらない」という戸惑いも生じるかもしれません。
処遇改善と生産性向上の関係も見直す契機に
そのあたりは、実務負担軽減に向けて、慎重な制度設計が必要です。当然、議論に十分な時間が必要でしょう。とはいえ、そもそもの処遇改善の考え方を整理しつつ、事業者の「持ち出し」に頼らざるを得ない状況に一石を投じる(それによって基本報酬アップの道筋をつけやすくする)という点で、論点にかかげる意味はあると思われます。
処遇改善加算の基本報酬への組み込みという論点には、もう1つの意義があります。それは、現状において処遇改善加算が「生産性向上のインセンティブ」になっている流れを見直し、処遇改善と生産性向上を切り離して考えることを明確にするという点です。
労働力人口が減少する時代に、生産性向上の考え方は確かに不可欠でしょう。しかし、そのためには(労働力人口の減少が本格的になる前に)介護人材をしっかり確保したうえで、生産性向上に取り組めるだけの土台をしっかり固めることが先決です。
処遇改善のインセンティブに生産性向上を位置づければ、もともと資力や規模のある事業者だけが高い処遇改善を実現しやすくなり、地域資源の不均衡を助長しかねません。今必要な介護保障の順番はどうあるべきなのか。その議論に改めて立ち返るうえでも、「処遇改善を基本報酬に組み込む」という提案は一考の余地があるのではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。