2021年度の介護報酬改定で、新型コロナへの対応策として特例的に「基本報酬への0.1%上乗せ」が図られました、その特例期限(9月末まで)が迫る中、継続されるか否かなどの対応に注目が集まっていました。厚労省が示したのは「継続」ではなく「地域医療介護総合確保基金の枠組み」による切り替えです。
平均上限6万円。サービス・規模別で変動も?
厚労省通知(介護保険最新情報vol.1011)によれば、地域医療介護総合確保基金の枠組みを活用した補助額は、6万円(障がい福祉の場合は3万円)を上限としています。
適用されるのは、基本報酬の+0.1%特例の対象となっていた全施設・事業所。補助金なので対象経費が明確化されていて、10月1日から12月31日まで(つまり3か月間)の感染防止対策にかかる費用となっています。
ただし、6万円上限というのは、平均的な規模の介護施設を想定したもので、最終的にはサービス別等でも補助上限が設定されることになります。また、あくまで「上限」であり、今通知では感染防止対策の継続にかかる領収書の保存を求めています。
つまり、現時点では、「感染対策にかかった経費分」を算定根拠とした補助金となるわけです。自事業所でいくら支給されるのかという点については、今後の詳細なスキーム提示を待たなければなりません。
可視化しにくい現場の疲弊は「待ったなし」
いずれにしても、基本報酬の0.1%特例そのものは9月末で廃止となります。事業所・施設としては、すぐにスキームが示されれば、一応の運営の見通しは立つでしょう。
しかし、明らかになるのが1~2か月(最悪、年末まで)先となれば、特に資力の乏しい小規模事業所にとっては、先行きの運営の見通しにも支障が生じかねません。
確かに、0.1%特例の単純な継続となれば、介護報酬上の拠出となるので、第8期の介護保険事業計画の前提にも影響を与えます。その点では、地域医療介護総合確保基金を活用することで、介護保険の運営者(保険者)側の混乱を防ぐことにはつながります。
問題は、今夏の新型コロナ第5波での感染拡大が、極めて厳しかったことです。要介護者や介護従事者へのワクチン接種が進んでいたとはいえ、今回の感染急拡大により現場の「可視化しにくい疲弊」は蓄積しています。
その後の反動として、現場レベルでは、秋口から従事者の燃え尽きや離職が増える可能性もささやかれています。その点を見すえたとき、せめて特例を年度末(来年3月末)まで延長するというのが、現場へのメッセージとして重要だったのではないでしょうか。
施設療養者は直近データで再び増加傾向に?
恐らく国としては、ここへきての陽性者数の急減により、「補助金への切り替え」への理解は得やすくなったという考えがあるのかもしれません。社会不安となった自宅療養者等(入院・宿泊療養以外)の数は、9月1日時点で13万人超でしたが、9月22日時点で3万人弱まで減少したという状況も見られます。
ただし、介護施設など社会福祉施設内での療養者は、9月1日時点の185人が22日時点では148人と大きくは変わっていません。むしろ、15日時点が90人だったので、再び増加トレンドに入った可能性もあります。
ともあれ、今後も感染動向がつかみにくい状況が続くとすれば、多少なりとも落ち着いている今こそ、介護現場の活力基盤を再整備する必要があるでしょう。次の危機を見すえた一手をどう打つかが問われるわけです。
緊急包括支援金は十分機能しているのか?
今回の補助金をはじめとして、新型コロナ禍では緊急包括支援金によるさまざまな助成策が設けられました。2020年度の3度にわたる補正予算でメニューの上乗せもたびたび図られてきましたが、活用する事業者側にとっては「何があって、どのように使えばいいか」が整理しきれていないケースもあるようです。
たとえば、介護労働安定センターの「新型コロナ感染症禍における介護事業所の実態調査」で、コロナ禍における公的支援施策の適用・申請状況も示されました。それによれば、従事者への慰労金支給の申請については9割を超える一方、感染対策にかかるかかり増し経費の申請は5割に達していません。
多様なメニューを整理しつつ慰労金再支給も
もちろん、「認知」はしている事業所は多いでしょう。ただし、小規模事業所で一人何役もこなさなければならない状況下では、さまざまなメニューを整理し、活用計画を立て、申請書類等を整えるのは大きな手間となります。そのあたりのサポートを依頼できるのが、「感染防止等の取組み支援事業」における相談窓口なのでしょうが、先の調査では「認知されていない」事業のトップとなっています。
ちなみに、今回の補助金では、「申請手続きはできる限り簡素な方式とする」としています。これを一つの契機として、(1)複雑な制度の統廃合を図る(全体の補助金額は維持)、(2)複数の申請をワンストップで行なえるようにする──などの見直しも求められるでしょう。
そのうえで、感染状況が落ち着いている今だからこそ、申請率の高い(それだけインパクトが高い)「慰労金」の再支給を図ること。この道筋があってこそ、次の危機的状況に備える現場力が培われるのではないでしょうか。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。